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1 「敵でしかないのか」

 純白の空間──意識内の世界(インナースペース)に、俺はたたずんでいた。

 その側にはバネッサさんが寄り添い、足元にはジャックさんが倒れている。


 レヴィンの残留思念を追い出したおかげなのか、竜戦士の全身からあふれる赤光は綺麗に消えていた。

 禍々しい雰囲気も完全になくなっている。


 そのことには安堵するものの、俺の反射攻撃を数億単位で食らい、ジャックさんは傷だらけだった。

 砕けた甲冑から血がにじみ、無残な有様だ。


「よく彼を止めましたね、ハルト」


 女神さまの声が心の内から聞こえた。


「あなたが得たのは、神の力そのもの。どうか、力に溺れぬよう。力に支配されないよう」


「……はい」


 力に溺れず、支配されず、か。

 肝に銘じておこう。


「私にできるのは、あなたを見守ることだけ……どうか、あなたはあなたのままで……」


 その声にはなぜか──寂しげな色がにじんでいた。


「気を付けてね、ハルト。あなたの無事……祈っ……」


 声が小さくかすれていき、やがて消えてしまう。

 と、


「俺は……」


 ジャックさんが弱々しく体を起こした。

 全身を覆っていた竜戦士の甲冑が消え、元の姿に戻る。


「随分と暴れてくれたわね」


「すべての原因はレヴィンです」


 不快げに鼻を鳴らすバネッサさんに、俺が首を振った。


「レヴィン……? そうか、思い出してきた……俺は……」


 ジャックさんが苦い顔でうめく。


「あいつの声に捕らわれた……頭から離れなくなった……壊せ、滅ぼせ、と……大勢の人を傷付け……く、ううう……っ……」


 と、その表情が苦痛に歪む。

 やっぱり、さっきのダメージがかなり残っているみたいだ。


「お前たちが俺を解き放ってくれたんだな……礼を言う」


 深々と頭を下げるジャックさん。


「この空間は間もなく解除されるわ。あたしは一足先に帰らせてもらうわよ」


 バネッサさんが背を向けた。

 その足取りはわずかにふらついている。


 ジャックさんを解放する際に使ったスキルでかなり消耗したらしい。


「……ありがとうございました。協力してもらって」


 礼を言う俺。


「世話になった……すまない」


 その隣でジャックさんがもう一度頭を下げる。


「あたしたちはスキルを持つ仲間だもの」


 振り返ったバネッサさんは艶然と微笑んだ。


「助け合うのは当然でしょう?」


 言葉とは裏腹に、その瞳はまったく笑っていない。


「いちおう忠告しておくけど、自己治癒力を『強化』してその傷を治そうなんて考えないことね。それ以上に体力を失って──最悪、死ぬわよ」


 斬りつけるような視線をジャックさんに向けた。


「今は自然回復に専念するべきね。セフィリアさんは治癒の力を持っているけど、また妙な小細工でもされたらたまらないし……」


「──じゃあ、やっぱりジャックさんの暴走はあの娘の仕業なんですか」


 俺の言葉に、彼女は冷たい視線を返しただけだった。


 次の瞬間、空間に溶けるようにしてバネッサさんの姿が消える。


 セフィリアにしろ、バネッサさんにしろ、心のうちで何を考えているのか──何を企んでいるのかは分からない。


 ジャックさんを暴走させたセフィリア。

 それを止めるために、リリスやアリスを平然と犠牲にしようとしたバネッサさん。


 二人は俺たちにとって味方になり得るのか。

 それとも──。


「敵でしかないのか……」


 俺のつぶやきは白い空間の中に流れ、消えていく。




 ──バネッサさんの言葉通り、ほどなくして俺とジャックさんは元の場所に戻ることができた。


「ハルト、無事だったのね──」


 リリスが俺を見て、安堵したような顔になる。


「ああ、ジャックさんも元に戻ったよ」


 俺は異空間での顛末をかいつまんで話した。


「……戻ってきた早々で悪いんだけど、他の地域でも魔の者たちが大量に出てきてるみたい。空を見たら、黒幻洞(サイレーガ)がいくつも見えたよ」


 と、サロメ。


「私たちも加勢に行きましょう」


「そうね」


 アリスとルカがうなずく。


「俺も、手助けを……したい……」


 ジャックさんが申し出た。


「せめてもの、償いに……」


 だけど体がふらついていて、とても戦える状態には思えない。

 さっきバネッサさんが忠告した通り、自己治癒力を『強化』して治すって方法も使えないみたいだし……。


「私が治癒魔法をかけます──癒しの大地(アーダキュアリー)


 アリスが進み出て、右手をかざした。

 治癒魔法の青い輝きがあふれる。


 次の瞬間、ジャックさんの全身から、バチィッ、と赤いスパークが弾けた。


「っ……!? 弾かれる──」


 戸惑いの声をもらすアリス。


「私の魔法を受けつけません……どうして」


 さらに何度か試すものの、彼女の治癒魔法はいずれもジャックさんの体の表面から弾けたスパークに跳ね返されてしまった。


 神のスキルが、なんらかの干渉を引き起こしてるんだろうか。

 あるいは俺のスキルによって受けたダメージだから、そっちが原因……?


 魔法のことは詳しく分からないけど、治癒魔法でジャックさんを治すことはできないみたいだ。


「大丈夫だ……少しずつ、体は治ってきている。自然治癒で……自分で分かる」


 ジャックさんが弱々しく首を振った。


 どうやら命に別状があるような傷じゃなさそうだ。

 とはいえ、もちろん急激に回復したり、まして戦闘なんてとても無理だろう。


「ジャックさんは休んでいてください」


「……すまない」


 ジャックさんは頭を下げた。


 ──俺たちは他の冒険者たちの担当区域に行くことにした。

 前回を超える二十以上の地域に、大量の黒幻洞(サイレーガ)が出現しているはずだ。


「行こう」


 リリスやアリス、ルカ、サロメに声をかけ、歩き出す。


「……ハルト。それにお前たちも」


 背中越しにジャックさんの声がした。


「今回は迷惑をかけた……体が治ったら、償いをさせてくれ」


 さっきから謝られてばかりだ。


「さっきも言ったでしょう。悪いのはジャックさんじゃありません」


 俺は静かに言い含める。


 振り返らなくても、ジャックさんの悲痛な表情が目に浮かぶようだった。


 本当は──この人には、戦いなんて向いてない。

 あらためて実感する。


 体が治った後も……もうジャックさんはこういう場所にいるべきじゃないのかもしれないな。


 戦闘能力はこの上なく高いけれど。

 本質的に、この人は『戦士』ではない。


 じゃあ、俺はどうなんだろう。


 俺の、本質は──。

朝6時→7時投稿にもどしました。引き続きよろしくお願いいたします<(_ _)>

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