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2 「決戦は三日後」

「決戦は三日後……か」


 ギルド本部の巨大レーダーが捉えた複数の『黒幻洞(サイレーガ)』の出現予測時間は約七十二時間後。

 今から三日後だ。


 ギルド内の空気は重苦しかった。

 冒険者たちは口数も少なく、暗い表情をした者が多い。


 ──先日の戦いでは、ギルド側にも少なくない犠牲が出ていた。


 俺がいたチームも、アリスやサロメ、そしてルドルフさん以外はフェニックスの熱線によって灰も残らず消し飛ばされてしまった。

 他のチームも全員が無事に帰ってきたところは、ほとんどなかったみたいだ。


 今回現れた魔の者たちは、どうやら通常の個体よりもかなり強くなっているらしい。

 確かに、Dイーターやヘルズアーム、ミスティックなんかも前に戦ったときより強く感じたからな。


 より強力な種が現れたのか、それとも別の要因なのか。


 そんな連中と、三日後にまた一戦交えなきゃいけない。

 今度はもっと死傷者が出るかもしれない。


 そんな予感が、暗い空気となって周囲に蔓延している感じだ。


 俺はため息交じりにギルドの建物から中庭へと出た。

 少しでも気を紛らわせようと庭園内を散策する。

 と──、


「ルカ……?」


 木陰に青い髪の女の子がたたずんでいるのを見つけた。


「──ハルト」


 騎士鎧姿のルカが振り返る。

 その足元には、彼女が愛用する長剣『戦神竜覇剣(フォルスグリード)』が突き立てられていた。


「何してるんだ、こんなところで」


「剣と語り合っていた」


 たずねる俺にルカが答える。


「剣と……語り合う?」


「この剣には戦神ヴィム・フォルスと竜帝グリードの力が宿っている。その力たちと語り合う。もっと剣の力を深く知るために」


 ルカの説明は、俺にはよく分からなかった。


「以前に古竜の神殿でグリードからそう教わった。この剣を使いこなすためには、剣との対話が必要、って」


 じゃあ、ルカは修業の最中だったってことか。


「悪かったな、邪魔しちゃったか」


「いえ、ちょうど休憩しようとしていたところ」


 首を振るルカ。


「それに──」


 と、俺を見て、わずかに頬を赤らめる。


「ハルトと話せるのは……嬉しい、から。最近、あまり一緒にいられなかったし……」


「確かに、しばらく会えなかったよな。お互いにクエストもあったし」


「会えなくて、寂しかった……」


 消え入りそうな声でつぶやくルカ。


「えっ」


「……なんでもない」


 ルカは長剣を地面から引き抜いた。

 鞘にしまい、もう一度俺を見つめる。


「相手は強いけれど、あなたと一緒に戦えるのは嬉しい」


 わずかに上気した頬。

 柔らかな光をたたえた瞳。


 俺は思わず魅入られてしまう。


 初めて出会ったときは、氷のような女の子だって思ったけれど。

 触れれば斬れそうなほど研ぎ澄まされた刃のような剣士だと思ったけれど。


「一緒に……がんばりましょう」


 恥じらいを含んだ表情で、つぶやく。


「ああ、必ず生き残るぞ。全員で」


 俺は微笑み混じりにうなずいた。


 こうして目の前にいるルカは、ごく普通の女の子で──。

 ただひたすらに、可憐だ。


 暗い気持ちが少しだけ晴れた気がした。




 俺はギルド本部が手配してくれた宿に宿泊している。


 王都でも有数の高級宿で、ちょっとした城みたいな感じだ。

 出てくる料理も一級品ばかり。

 戦闘任務っていうより、まるで豪華な旅行にでも来た気分になってしまう。


 ちなみに、宿泊費などのいっさいの経費はすべてギルド本部持ちだ。


 リリスやアリス、ルカ、サロメたちも同じ宿に泊まっていて、夕食はみんなで一緒に食べた。

 ルーディロウム名物をふんだんに使った豪勢な料理に、サロメはもちろんリリスたちも大喜びしてたっけ。


 戦いの前だからこそ、こういうときは気分を上げていかないと、な。


 夕食の後、俺は宿の庭を散策した。

 淡い月明かりに青白く照らし出された庭園は、幻想的な雰囲気がある。


「決戦は三日後……か」


 昼と同じセリフをつぶやき、俺はため息をもらした。


 昼間、ルカと出会って少し気が晴れたとはいえ、やっぱり重苦しい気分はまた押し寄せてくる。


 前回以上に強力であることが予想される魔の者たちの襲来──。


 いくら俺自身はスキルによって無傷でも、いくつもの都市を同時に守るなんて不可能だ。

 ここには戦力上位の冒険者が集まっているし、頼もしいことは頼もしいんだけど、な。


「今から気を張ってたら持たないよ、ハルト」


 話しかけてきたのはリリスだった。

 優しい微笑みを目にして、気分がふっと軽くなった。


「といっても、大きな戦いの前だからどうしても気持ちが高ぶっちゃうよね」


「第一陣との戦いも激しかったしな」


 俺はリリスに微笑み返した。

 きっと心配してくれてるんだろうな。


「犠牲になった冒険者もたくさんいるのよね……」


 つぶやきながら、リリスが俺の手を握った。


「次のクエストでもお互い無事に戻りましょう」


 と、俺を見つめるリリス。


「リリスは、強い。大丈夫だよ」


 魔将メリエルから受け継いだ力。

 冒険者になったときからずっと貫き続けてきた、人を守りたいという強い意志。


 その二つが彼女の強さなんだと思う。


「それに──俺だって、今までの戦いで力を磨いてきた」


 不安げなリリスに、俺はにっこりと笑ってみせる。

 彼女をこれ以上心配させないように。


「なにせ俺の防御は『絶対にダメージを受けない』からな。対魔王の切り札にさえなる、って初めて出会ったときに、リリスが言ってくれただろ」


 最後に冗談めかして付け加えた。


「……そう、だね」


 リリスは真剣な顔のままだ。

 どこか思いつめたように、俺を見つめたままだ。


「リリス……?」


 どくん、と胸が高鳴る。


「約束、して」


 リリスが俺に顔を近づける。


「あたしは必ず生きて戻るから」


 彼女の声が震えていた。


 今さらながらに、気づく。


 不安なのは俺だけじゃない。

 彼女もまた、不安に苛まれていたんだ、って。


 だからこそ、それに打ち勝つための何かを求めているんだ、って。


「ハルトも──帰ってくるって」


 潤んだ瞳がまっすぐに俺を見つめている。

 何かを求めるように、その唇がかすかに開かれ、甘い息を吐き出す。


「リリスも、な。またこうやって会えるように──」


 俺は微笑み、ゆっくりと顔を近づけた。

 それに合わせてリリスが目を閉じる。


 俺たちの唇が静かに重なった。

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