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1 「宣告します」

 全身が岩石でできた巨人──六魔将ビクティムは魔王城の回廊を進んでいた。

 もちろん、身長二十メティルを超える本来の体のサイズでは通れないため、魔法で一時的に二メティルほどの身長まで縮めている。


 これから魔王との謁見に向かうところだ。


 前回の出撃で魔将メリエルは裏切り、魔将ザレアは討たれた。

 魔王の腹心である六魔将で残っているのは、もはや彼とイオのみ。


 果たして魔王は人間界への侵攻をどう考えているのか。

 何か対策があるのか。

 半数以上が欠けてしまった魔将の補充はあるのか。


 そして、宿願である神や聖天使たちを討つための戦略は──。


 聞きたいことは山ほどあった。


(一番気になるのは、やはり我らの扱いだ)


 岩でできた歯を食い締め、ぎしっと音がなる。


 敗れて戻ってきたビクティムに対し、魔王はいっさい咎めなかった。

 だが、それは寛大さによるものだとは思えなかった。


 すでに、腹心である魔将すらも意に介していないような態度がほの見えた。


(我らがどうなろうと、すでに興味がないというのか。まさか)


 まるで自分たちを捨て駒のように使っている魔王に対して──。

 少なからず不審が芽生えていた。


 通路の最奥まで行くと、ビクティムは巨大な扉の前で立ち止まった。

 この向こうには、魔王のいる謁見の間がある。


「『冥天門(コキュートスゲート)』の起動実験はどうだった?」


 扉をわずかに開きかけたところで、魔王の声が聞こえた。

 ビクティムは反射的に手を止め、会話の内容に聞き耳を立てる。


「門の力で強化した魔族や魔獣を人間界に向かわせましたが、人間どもの戦力は想定以上で──全滅の模様です。フェニックス級の魔獣までもが退けられました」


 答えたのは、涼しげな少女の声。

 六魔将のイオだ。


「稼働率三割程度では効果が薄いかと……全開状態まで引き上げるのはともかく、せめて七割程度は必要だと感じました」


「分かった。調整は汝に任せる」


「はっ」


(長らく起動させていなかった冥天門の力を、とうとう使ったのか)


 イオは、実戦部隊であるビクティムたちとは違い、普段はほとんど表に出てこない。

 いわば裏方専門の魔将である。


 彼女の持つ力──『冥天門』は魔の者の力を増加させるのだと聞いていた。

 それ以外にもう一つの特性もあるらしいが、詳しいことを知っているのは使い手であるイオ自身をのぞけば、魔王だけだろう。


 その力を使って中位や上位の魔の者を強化し、人間界へ向かわせるという話は、ビクティムも聞いていた。


 ちょうど折よく、この世界と人間界を繋ぐ通路『黒幻洞(サイレーガ)』が大量に現出したこともある。


(だが、分からん)


 本来、黒幻洞(サイレーガ)の出現は自然現象である。

 そう頻繁にいくつも現れることはない。


 魔王の力でこれを生み出すこともできるが、限度がある。


(ここ最近は黒幻洞(サイレーガ)の出現頻度が高すぎる……何かが、おかしい)


 何かが、動き出している──。

 胸騒ぎがした。


 不吉な予感を覚えながら、ビクティムはその場を離れた。


 謁見は別の機会でいい。

 先に現状を調べておくべきだろう。


 そして自分の立ち回りを決めてから、あらためて魔王に謁見するのだ。

 思案しつつ、回廊をしばらく進んでいると、


「そんな大きな体をして、こそこそと覗き見ですか。ビクティム殿」


 ふいに、冷え冷えとした声が頭上から響いた。


「──イオ」


 少女の姿をした魔族がビクティムの頭上に浮いていた。


「ちょうど儂も魔王様に謁見しようとしていたところだ」


 一体いつの間に現れたのか──。

 魔将である自分にすら気づかせない神出鬼没の少女に戦慄しつつも、ビクティムは冷静に返した。


「君が先に謁見中だったため、自重しただけのこと」


「聞いていたのですね。わたしと魔王様の話を」


「いや、すぐにその場を離れた。魔王様の謁見を覗き見するような無礼はせん」


 ビクティムの態度は揺るがない。


 だが胸の内には、かすかなざわめきが生まれていた。

 嫌な予感がする。


「では、最初の話は聞き逃したのですね」


「最初の話だと?」


「魔王様の──お父様からのお言葉を、です」


 イオの瞳に冴え冴えとした光が浮かぶ。

 嫌な予感がさらに増大した。


「今までご苦労だった。もう用はない、と」


「な、何……!?」


 ビクティムは戸惑いつつ、身体強化系の魔法を即座に発動する。

 岩石の巨体が亜音速でバックステップした。


 その、直後──。

 闇の中で赤い輝きがきらめく。


 直前まで彼がいた空間を、その輝きが薙ぎ払った。

 攻撃の気配を察知したおかげで難を逃れたが、並の魔族ならば今の一撃で両断されていただろう。


「この攻撃は、まさか……」


 ビクティムがうめく。

 ただの斬撃が通過しただけで、空間そのものが揺らいでいた。


「避けたか……さすがはビクティムだ」


 鉄が軋むような声とともに、イオの背後に黒いシルエットが現れる。

 六魔将最強の破壊力を持つ、黒騎士の姿が──。

 さらに、


「だが、ワタシたちに囲まれて──無事でいられるとは思わないことであるよ」


 今度は背後に強烈な敵意が出現する。


 ふたたび身体強化系の呪文で亜音速機動をかけるビクティム。

 サイドステップで避けた直後、床が大きくえぐれた。


「空間圧縮攻撃──だと」


「ふひひひ、殺し損ねちゃいましたねぇ」


 今度は側方から。

 巨大な鎌を携えた美貌の少年が、闇からにじみ出すようにして姿を現す。


「君たちは死んだはずの──」


『破壊の黒騎士』ガイラスヴリム。

『呪と虚無を統べる者』ディアルヴァ。

『死神』ザレア。


 ビクティムと同じ六魔将たち──。


「あらためて宣告します、『鉄槌巨人』ビクティム」


 イオの指先がまっすぐにビクティムを指し示す。


「魔将たちの役割は済んだ。お前たちの働きのおかげで、神の能力者たちの分析を終えられた。これからは魔将としてではなく一兵士として働け。その命尽きるまで」


 前方に出現する虹色の輝き。


「いや、その命が尽きた後も──それがお父様の望み」


「一兵士として? まさか、儂を使い捨てに──」


冥天門(コキュートスゲート)開錠起動(フルオープン)


 うめくビクティムに対し、イオは冷たく告げたのみ。

 彼女の背後に黄金に輝く門が出現する。


魂魄吸引(アブソーブ)


 呪言とともに、その門扉が左右に開いた。


「ま、待て、儂は──」


 逃げようにも、魔将たちに囲まれていては動けない。


 うかつに動けば、その瞬間に殺される──。

 それだけのプレッシャーを、魔将たちは放っていた。


冥素融合(フュージョン)


 開いた扉の奥から、黒い霧があふれ出る。


「よ、よせ……」


 後ずさるビクティムの周囲を、霧が包みこんだ。


「う……ぐぐ……ぐ……」


 ねっとりと絡みつく霧によって、体が重くなる。

 思考が鈍くなり、薄れていく。


 そして。


真魔進化(エボリューション)


 イオが最後に告げた呪言とともに──。


 ビクティムの意識は霧散した。

次回更新は10月29日(日)です。

以降も投稿→2日休み→投稿……というペースで章の終わりまで更新予定です。

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