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10 「いつだって俺がやるべきことは」

「待て……」


 ルドルフさんはよろめきながら、俺に向かってきた。


「そいつは私の獲物だと言ったはずだ……手を出すな」


 さっき反射防御で、攻撃を何十何百と浴びせたのに──。

 信じられないタフさだった。


「私の『因子』は戦士型だ。膂力も耐久力も常人をはるかに超える……この程度で参るものか……!」


 槍を構えるルドルフさん。、


 ……なるほど、ルカやサロメと同じ力を持っているのか。

 しかも、彼女たちがスピードや隠密系統の因子を持っているのに対し、この人はパワーやタフネスを強化するタイプらしい。


「ハルトくん……」


 サロメが心配そうに俺を見た。

 アリスの方も不安げだ。


 厄介な状況だった。


 ただでさえ超Sクラスともいうべき魔獣を相手にしているのに、さらに味方であるはずのルドルフさんとも対峙しなきゃいけないなんて──。


「今は味方同士で争っている場合じゃないだろ」


 告げた直後、フェニックスが熱線を放つ。

 俺はそれをスキルで弾きつつ、ルドルフさんをにらんだ。


「私に味方などいない。貴様らは露払いだけしていればいい」


 傲然と言い放つルドルフさん。


「魔の者は私が狩る。ましてフェニックスなど滅多に現れない極上の獲物だからな。逃してたまるか」


 ああ、駄目だ。

 この人に説得は通じない。


 俺は諦めて、ルドルフさんから背を向けた。


 力で叩き伏せることはできるかもしれないけど、その間にフェニックスを取り逃がしてしまったら目も当てられない。


「いいのか? 私が背後から斬りつけるかもしれんぞ」


「やってみろよ」


 俺は怒りをにじませて告げる。


「……貴様」


 ルドルフさんが槍を振り上げる気配がした。


「舐めるなぁっ!」


 怒りの声とともに斬りかかってきた。


 俺は振り返らない。


 がきんっ、と金属音が鳴り響く。

 張りっ放しの防御スキルで、やすやすと攻撃を弾き返したのだ。


 さらに二度、三度──。

 続けざまに叩きつけられる槍は、いずれも俺の防御の前に弾かれるのみ。


「おのれぇっ!」


 けれど、何度攻撃を跳ね返されても、ルドルフさんは打ちかかってくる。


「無駄だって分からないのか」


 何を考えてるんだ、この人は……!


「壊す……すべてを」


 昏い声で告げるルドルフさん。

 俺は振り返って彼を見た。


「壊す……人も、魔も……何もかもを……っ!」


 ルドルフさんの眼光がますます淀み、その攻撃はますます鋭くなる。


「……『因子』の力に取りこまれてる」


 サロメがつぶやいた。


「えっ?」


「ボクは以前に古竜の神殿で聞いたんだ。因子のことを」


 サロメの声には苦々しい響きが混じっていた。


「神や魔、竜──超常の存在の力を受け継いだ者。それが因子持ち。あまりにも強大なその力に心を乗っ取られ、力のままに暴れ回る存在になることもある──」


「要は……自分でも制御できないほど強い力に理性を失って暴走してる、ってことか?」


 たずねる俺に、サロメは険しい表情でうなずいた。


「あの気配はたぶん魔族の因子──ルドルフは人間の体に魔族の力を備えた存在になっている。言ってみれば、魔戦士ってところかな」


 サロメが告げる。


「だから、その人はもう止まれないよ。すべてを壊すことしか、考えられないんだと思う」


 まさに前門の虎、後門の狼──。


「……ボクとアリスがフェニックスを倒す。ハルトくんはその人を抑えて」


「けど、二人だけで──」


 言いかけた俺に、


「ボクたちだってやれるんだからねっ」


「ですぅ」


 サロメとアリスが力強く言い返した。


「……わかった。けど無茶はするなよ」


 言って、俺はスキルを二カ所に分割して発動する。


 一カ所は俺自身に。

 もう一カ所はサロメやアリスの周囲に。


 これで二人がフェニックスの攻撃にさらされても大丈夫だろう。




 準備を終えた俺は、ルドルフさんとあらためて対峙した。


 冒険者同士で争っている場合じゃないっていうのに……。

 苦い思いを噛みしめ、右手に虹色の光球を生み出した。


「貴様の防御、今度こそ打ち破る!」


 ルドルフさんが巨大な槍を振り上げた。


 繰り出される連続突き。

 さらにパワーを上げたのか、大気が砕け、衝撃波を生み出し、俺に向かって穂先が繰り出される。


 だけど、通じない。

 俺には、どんな攻撃も──。


 虹色の輝きで槍撃を弾き、その威力を乱反射してルドルフさんに叩きつける。


「魔法ならばいずれは魔力が尽きる。そのときまで私は攻撃し続けるだけだ。千でも万でも億でも──無限に続く私の槍を受けろ! そして砕けろぉっ!」


 尽きない闘志のままに、ルドルフさんは槍を繰り出し続ける。


 実際には、俺の力は魔法じゃない。

 ルドルフさんの目論見通りにはいかないんだけど、それをいちいち説明する必要はない。


「なら、その破壊そのものを封じる」


 俺はため息交じりにスキルの種類を切り替えた。

 虹色の輝きが俺の周囲から消え、ルドルフさんの全身とその手に持った槍をまとめて包みこむ。


「これは──!?」


 破壊エネルギーを無効化するスキル『虚空への封印(ヴォイドシール)』。


「もうあんたは何も壊せない。フェニックスとは俺たちが戦う」


 言って、俺は彼に背を向けた。


「これ以上、邪魔はしないでくれ」


 ルドルフさんが槍を叩きつけたみたいだけど、その一撃は当たったことすら気づかないレベルの衝撃しか生み出さない。


「馬鹿な、私の攻撃が……!?」


 戸惑うルドルフさん。

 破壊無効のスキルに包まれた槍撃は、もはや俺になんのダメージも与えられない。


「俺は魔獣を倒す。破壊や暴力の悦びのためじゃない。俺は、あんたとは違う」


 赤い戦士を無視し、俺はアリスとサロメの元に歩き出した。


「いつだって俺がやるべきことは──」


 苦い思いを噛みしめ、自分自身に言い聞かせる。


「この力で、人を守ること。それだけだ」


 胸に去来する失望感。


 ルドルフさんほどの戦士なら、きっと多くの人を守ることができる。

 なのに、どうしてそれを破壊のためにしか使わないのか。


 歯がゆいし、口惜しい。

 でも、今は目の前の敵に集中するんだ。


 アリスとサロメを守り、魔獣を倒し、クエストを果たし。

 大勢の人を、守ってみせる──。




 俺はアリス、サロメと合流し、フェニックスに立ち向かった。


 相手はさすがにクラスLSと称されるだけあって手ごわい。

 だけど、フェニックスの体全体を俺の『虚空への封印(ヴォイドシール)』で包みこむことで、相手の攻撃を完封することができた。


 スキルを複数個所に分散する場合、すべて同一の形態にする必要がある。


 ルドルフさんに虚空への封印(ヴォイドシール)をかけっぱなしだから、ここで使える形態は同じ虚空への封印(ヴォイドシール)だけだ。

 このスキルは物理攻撃しかシャットアウトできず、魔法攻撃は封じられない。


 だけど、幸いにもフェニックスの攻撃手段に魔法はなかった。

 熱線や翼の羽ばたきによる衝撃波が主武器のようだ。


 それらは俺が完封した。


 そしてアリスが補助魔法でサロメの攻撃力を倍加し、連続攻撃を仕掛け──。

 時間はかかったものの、どうにかフェニックスを倒すことができた。

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