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8 「与えよう」

 俺は庭から少し離れた場所まで連れていかれた。


 周囲にひと気はない。


 ──なのに、妙な気配がする。

 まるで、誰かに見張られているような……。


 気のせいだろうか。


「君とはゆっくり話がしたいと思っていたんだ。以前から君に注目していてね」


 ラフィール伯爵が言った。

 一見、友好的な笑顔なんだけど、目は笑っていない。


「当代随一と呼ばれた防御魔法の使い手で『金剛結界』ドクラティオという男がいたが──君はおそらく、それ以上の逸材だと思っている」


 ドクラティオって人は、ランクSの冒険者だ。

 以前に魔将ガイラスヴリムとの戦いで亡くなったと聞いている。


「さっきも言ったが、君はランクA程度にとどまる器ではない。遠からずランクSまで上がるだろう」


 と、ラフィール伯爵。


「その際にはギルドだけでなく、我が国のためにも尽力してほしいと願っている。何せ、ここ最近は魔将と呼ばれる伝説の魔族が王都を二度も襲ってきからね。三度目があってもおかしくはない」


 ……実際には、もう『三度目』もあったんだけどな。


 ザレア、ビクティム、そしてメリエル──。

 魔王が作った特殊空間の中で、人知れず行われた戦いだ。


「君とはこれを機にお近づきになりたいと思っているよ。私にできることがあれば、なんでも援助させてくれ」


「援助……ですか」


 突然の申し出に俺は戸惑った。


 ランクの高い冒険者になれば、王侯貴族と親交がある者も少なくないとは聞いている。

 俺もランクAになったことで、そういう誘いを受けるようになったんだろうか。


「アリスとリリス──私の不詳の娘も世話になっているしな」


「いえ、俺のほうが彼女たちに助けてもらってますから」


 笑う伯爵に、軽く一礼する俺。


「仲が良さそうで何よりだ。望むなら、あの二人を君に与えよう」


「えっ」


 一瞬、聞き間違えかと思った。

 だけど伯爵は冗談を言っている口調じゃない。


「二人はモノじゃありません。与えるとか、そういう話にはならないでしょう」


 俺はラフィール伯爵をにらんだ。


「あの二人はお気に召さないか? 母親に似て、なかなかの美人だと思うが。君の好みではなかったかな」


 伯爵は不思議そうに俺を見返す。


 実の娘を、まるで贈り物のように考えているとしか思えない。

 それとも正妻の子どもじゃないからなのか?


 なんにせよ、俺はこの人に嫌悪感を抑えられなかった。

 リリスやアリスをモノ扱いされているようで、すごく不快だった。


「気分を害したなら謝ろう。いや、そういう意図ではなかった」


 伯爵は動じずに笑みを深めた。


「私の娘たちが君と共に歩んでくれるなら、これほど嬉しいことはない、と言いたかったのだよ」


 どうにも胡散臭い人だ、と俺は思った。


 リリスたちの父親だし、できれば仲良くしたいけれど。


 でも、この人は──。

 腹に一物……いや、二物も三物も抱えていそうな感じがして、どうにも好きになれなかった。



 ──やがて、その日のパーティが終わった。


「今日は付き合ってくれてありがとう、ハルト」


「いろいろご馳走になったし、礼を言うのは俺の方だよ」


 実際、料理はどれも一級品だった。

 サロメ辺りを連れてきたら、きっと歓喜したことだろう。


 ……正直、ラフィール伯爵はあまり好きになれなかったけど。

 リリスたちの実の父親だし、もちろんそんなことを言葉に出すつもりはない。


「お義母(かあ)様やお義姉(ねえ)様は他国に出向いているみたいで会えませんでしたね」


「どのみち、あの人たちはあたしや姉さんには会ってくれないよ」


 アリスの言葉に、リリスが寂しげに微笑む。


「家族とも認めてないだろうし」


「そう……ですね」


 悲しげにうなずくアリス。


 うーん……やっぱり複雑な家庭の事情がありそうだ。


「あ、ごめんごめん。変な話しちゃって」


 リリスが謝った。


「ハルトもランクAまで上がったし、冒険者の人脈はあったほうがいいかな、って思って。だから気が進まない部分もあったんだけど、来てもらったの」


「気を遣ってくれたんだな」


 それで俺を招いてくれたのか。


「ありがとう」


「えへへ、ちょっとでもハルトの冒険者生活にプラスになったらいいな、て」


「健気ですね、リリスちゃんは」


 微笑むアリス。


「きっといいお嫁さんになりますよ。お父様にも紹介したことですし。ふふふふ」


「えっ!? あ、いえ、き、今日のはまだ、そういうつもりじゃ……」


「『まだ』?」


「ち、ちちちち違うのっ! 今のは勢いっていうか、あのその、とにかく、違うってば!」


 リリスがいきなり真っ赤になった。


 うん? なんの話だ?

 会話の流れが今一つ見えない……。


    ※


 ハルトたちが帰った後、伯爵の城の最奥で──。


「どうだった、ハルト・リーヴァは?」


 ラフィールは待っていた三人の女たちにたずねた。

 先ほどハルトと二人きりで話していた際、彼女たちはその様子を物陰から見ていたのだ。


「なるほど、あれが『絶対防御』の力を持つという少年ですか」


「懐柔は上手く行かなかったようだな」


「料理、美味しそうだったねー。あたしも食べたかったな」


 彼女たち──バネッサ、エレクトラ、セフィリアが思い思いの感想を述べる。


「懐柔? 別に上手くいくとは思っていない」


 ラフィールはこともなげに言った。


「不肖の娘たちを使って、こちらに取り込めればそれでよし。できなければ、他のアプローチを試すだけだ。私の提案に対する反応で、だいたいの人となりは分かったからな」


「善良そうな少年でしたね」


「ああ」


 バネッサの言葉にうなずくラフィール。


「その善良さにつけこみ、最終的に我々の側に引き入れられれば、それでよし。できなければ──」


 冷たくつぶやく。

 その口元に、酷薄な笑みが浮かんだ。


「消えてもらうしかあるまい。我らの、邪魔になるならば」

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