2 「この娘が……そうなのか」
聖王国ルーディロウムにある冒険者ギルド本部──。
ギルド長の執務室でラフィール伯爵は彼女と初めて対面した。
「この娘が……そうなのか」
三つ編みにした黒髪に、そばかすの浮いた野暮ったい顔立ち。
温和な笑みを浮かべた少女──セフィリア・リゼは一見して無害そうな雰囲気を漂わせていた。
だが彼女の力は、世界に混乱と災厄と……そして変革をもたらすのだという。
「意外と普通っぽい娘だねぇ」
ギルド長のテオドラもどこか拍子抜けした顔だ。
この場にいるのはラフィールとテオドラ、そしてバネッサ、エレクトラ、セフィリアの五人だった。
今日は顔合わせと、そしてとある『実験』を行うために集まったのである。
(こんな平凡そうな娘に、世界を変えるほどの力があるというのか)
ラフィールは内心でつぶやいた。
未だに信じられない話である。
だが、彼は知っていた。
各地の遺跡に記されている、超古代の神々──。
現在、信仰されているのは主に至高神ガレーザや戦神ヴィム・フォルス、癒しの女神であるアーダ・エルあたりだ。
他にも、すでに信徒は失われたが、守りの女神イルファリアや殺戮神メルギアスといった名前もある。
彼女たちはそんな神々から選ばれた使徒らしい。
バネッサたちは明言しないし、もしかしたらできないのかもしれないが──ラフィールは種々の状況からそう判断していた。
ならば、利用しない手はない。
神の力──まさしく人知を超えた圧倒的な力。
バネッサたちがラフィールやテオドラを利用しようとするなら、その裏をかいて、こちらも彼女たちを利用する。
宿願であるアドニス王国の強国化も成し遂げられるかもしれない。
この国を裏から牛耳り、世界に覇を唱える支配者にすらなれるかもしれない。
ラフィールの野望は燃え盛っていた。
こんな日が来るのを、ずっと待っていた──。
(ハルト・リーヴァにもそろそろ接触してもいい頃合いか)
収集した情報から判断すると、彼もバネッサたちと同じく神の力を持つ使徒の可能性がある。
(不肖の娘たちを利用してもいいかもしれん)
アリスとリリスは先日ランクAになったと聞いた。
その辺りを口実に使えば、彼を屋敷に呼べるだろう。
来たるべき日に備え、手駒は多ければ多いほどいい──。








