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5 「ようやく会えた」

 何もない空間にぽっかりと黒い穴が開いた。


 そこから二人の女が現れる。


 一人は東方風の巫女衣装を着た美少女。


 エレクトラ・ラバーナ。

 未来を予知する神のスキル保持者(ホルダー)だ。


 そして、もう一人はきらびやかなドレスを身に付けた美女。


 バネッサ・ミレット。

 天翼の女神(ガ・ゼガリア・フィオ)のスキル保持者(ホルダー)であり、彼女が作り出した異空間通路のおかげで、目的地までの移動はあっという間だった。


「ここね」


「ああ、わたしが見た光景とまったく同じだな」


 バネッサの問いにエレクトラがうなずいた。

 予知の通りなら、この先に二人の求める人物がいるはずだった。


「では、行くわよ。エレクトラさん」


 艶然と微笑むバネッサ。


 その笑顔を、エレクトラは静かに見返した。


 気品と色香を兼ね備えた、魅惑的な笑顔──。

 だが、目だけはまるで笑っていない。


 どこか醒めたような光をたたえ、静かにエレクトラを見据えている。


(彼女の真意はどこにある)


 内心でつぶやくエレクトラ。


 バネッサを無条件に信頼しているわけではない。


 何度も予知を試みた。

 少なくとも──近い将来、バネッサがエレクトラを陥れたり、裏切ったりするような場面はなかった。


 それでも安心はできない。

 いちおう協力関係を結んではいるが、彼女を信頼してよいものかどうか、未だに判断がつかないでいた。


(だが、わたしは──破滅の未来を回避しなければならない。そのために、今は)


 利用できそうな相手ならば、利用する。

 それだけだ。


「こっちの道だ」


 エレクトラはバネッサを先導して歩きはじめた。


 この先に、目的の人物がいる。




 ──山岳地帯を進み始めてから二時間が経った。


 バネッサはドレス姿だというのに、険しい山道を苦もなく歩いている。


 いや、歩いているのではない。


 よく見れば、足元はわずかに地面から浮いており、空中を滑るように移動していた。

 彼女のスキルの賜物である。


 エレクトラも同様のスキルをかけてもらっており、二人はまたたく間に山の中腹までたどり着いた。


「どうかしら、エレクトラさん? 彼女の行方は」


「この辺りのはずだ」


 ──山道の奥まった場所。

 ──いくつもの白骨。

 ──その向こうにたたずむシルエット。


「まっすぐに進めばいい」


 予知の光景を思い出しながら、答えるエレクトラ。


「では、ここからは徒歩で行くわね」


 バネッサがスキルを解除し、二人は歩き出した。


「……これも予知で見た光景だな」


 表情を険しくするエレクトラ。


 じゃり、じゃり、と山道を踏みしめ、進んでいく。

 前方にモンスターの死体がいくつも連なっていた。

 いずれもミイラ化している。


 ──いや、モンスターだけではなかった。


「人間……か」


 装備品から見て冒険者だろう。

 ミイラ化した死体が四つほど倒れている。


 予知で一度目にしているとはいえ、気持ちのいい光景ではなかった。


「……いるぞ、彼女だ」


 エレクトラがバネッサにささやく。


 死体の向こうに人影がいた。


 艶のある黒髪を三つ編みにした少女だ。


 そばかすの浮いたあどけない顔立ち。

 野暮ったい雰囲気ではあるが、よく見ればその顔はハッと息を飲むほど整っている。

 小柄な体に身に付けているのは、僧侶のローブだった。


「……だーれ、あなたたちー」


 少し間延びした声で振り返る少女。

 眼鏡をかけたつぶらな瞳が、エレクトラとバネッサを見つめた。


 セフィリア・リゼ。

 地と風の王神(アーダ・エル)の力を持つという能力者。


「ようやく会えた」


 エレクトラがふうっと息をつく。


 ──とにかくセフィリアの足取りは神出鬼没だった。

 彼女の行方を予知しても、そこへ到着したときには、すでに別の場所まで移動していることなどザラである。


 予知といっても、あまり遠い未来になると正確さに欠けるし、そもそも未来が視える時間や範囲もある程度限られている。

 かなりの集中力を消耗するため、いたずらに乱発することもできない。


 追ってはすれ違い、また追っては入れ違いになり──。

 今日、やっと対面できたというわけだ。


(最後の能力者、か)


 緊張が込み上げる。


 未来予知できたのは彼女と対面する場面まで。

 それ以降は視えなかった。


 果たして、彼女がどんな行動を取るのか──。

 ごくりと喉を鳴らす。


 見たところ、こちらに対して敵意もなければ、警戒心も抱いていないように思えた。


 だが、相手は自分たちと同じ神の力を持つスキル保持者(ホルダー)だ。

 気を抜けるような相手ではない。


「バネッサ・ミレットよ。こちらはエレクトラ・ラバーナさん。初めまして」


 バネッサが貴族の夫人らしく優雅な一礼をした。


「あたしはセフィリア・リゼだよー。よろしくねっ」


 セフィリアが朗らかな声で挨拶をした。


「んー」


 と、エレクトラをじろじろと見る。


「な、なんだ?」


 戸惑うエレクトラに、セフィリアは無造作に近づき、


「かわいー!」


 嬉しそうに叫んで抱きついてきた。


「は……?」


 予想外の反応に、エレクトラは硬直してしまう。


「しかも、けっこー胸おっきーね。ふふふ、さわり心地もいいし。形もよさそう……あ、綺麗なピンク色──」


 気が付けば、巫女衣装の胸元をはだけられていた。


 しかも妖しい手つきで揉みしだかれていた。

 ぐに、ぐに、と豊かな胸の感触を味わうように、丹念に。


「ち、ちょっと待て、何をするっ……!?」


 エレクトラはさすがに狼狽する。


「えへへー。可愛い女の子を見ると、つい。ごめんね」


 謝りつつも、ついでのようにエレクトラの胸の先端部を指先でさするセフィリア。


「と、とにかく、手を離してくれ……」


 体中がぞわぞわするような甘い感覚に声が震えてしまう。


「おねーさん、初心だねー。そーいうところもかわいい。ねー、キスしていい?」


「え、遠慮する……」


「うーん、残念」


 セフィリアは笑いつつも、胸元から手を離してくれた。

 先ほどの感触に浸るように、両手をわきわきと開閉している。


(なんなんだ、この子は──)


 緊張感がまるでない少女に、すっかり拍子抜けだった。

 と、


「あれあれー? おねーさん、ケガしてるねー」


 セフィリアがエレクトラの足に目を向ける。

 ここにたどり着く直前に一度転んでしまい、膝を軽く擦りむいたのだ。


「あたしが治してあげるね。地と風の王神(アーダ・エル)ちゃん、お願いー」


 つぶやいて、手をかざすセフィリア。


 その手のひらに輝く紋様が浮かんだ。


 二つの顔と四本の腕を持つ、女神の姿。

 エレクトラやバネッサと同じ──神のスキル保持者(ホルダー)であることを示す紋様だ。


 輝きに照らされた膝は、またたく間に切れた皮膚がつながり、痛みも嘘のように消えた。


(これがセフィリアのスキルか)


「本物のようね」


 バネッサが満足げにうなずく。




 ──刹那、エレクトラの眼前に別の光景が映し出された。




 空に、無数の黒い穴が出現する。

 そこから飛び出す禍々しいシルエットをした大軍。


 焼き払われる都市。

 逃げ惑う人々の悲鳴と苦鳴。

 響き渡る哄笑。


 紅蓮の炎に染まった世界──。


(これも……予知か……!?)


 基本的に彼女のスキルは己の意志で発動する。


 だが時折、意図せずに未来の風景を視てしまうこともある。

 今も、そうだ。


「なんだ、これは──」


 エレクトラがうめいた。


 一瞬にして数千数万単位の人々が死んでいく。

 視界が鮮血に染まる。


 さながら地獄絵図だった。


「どうかしたの、エレクトラさん?」


「おねーさん、ボーッとしてるね。今ならおっぱい揉み放題かな、ふふ」


 訝しげなバネッサと、にっこりとした笑顔のセフィリア。


「……いや、なんでもない」


 二人に対して、エレクトラは弱々しく首を振った。


 漠然とした不安が込み上げる。

 胸の奥に暗く澱む不安感だった。


 自分は、踏みこんではいけない場所まで来てしまったのではないか、と。


 自らの破滅の運命を回避するために。

 より大きな破滅をもたらそうとしているのではないか、と──。

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