表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/224

11 「神を超えた領域に」

 俺の周囲に、美しい黄金色の輝きがあふれていた。


 いつもの虹色の光とは、違う。


「黄金の結界……なんだ、これは」


 グリードが訝しげにうなった。


「この力で、俺はお前のすべてを封じる」


 俺は古竜を見据えた。


 今までとは違う力を感じる。

 後は、俺が使いこなせるかどうかだ。


 いや、使いこなしてみせる。


 必ず──。


「最強たる俺を……封じる?」


 グリードの七対の瞳が、どう猛な輝きを宿した。

 むき出しの闘志は物理的な衝撃波さえ伴い、周囲に荒れ狂った。


「ならば防いでみせろ! お前が神の力を持っていても、俺の力はそれを砕く。竜とは神をも屠り、滅してきた存在なのだからな!」


 神をも屠る力、か。


 俺は今まで自分の防御スキルに全幅の信頼を置いてきた。

 防げない攻撃なんてない、って。


 だけど神の力による絶対防御は、神をも殺す存在に対しても『絶対』でいられるのか──。


 確証はない。

 でも、不思議な確信はある。


 この力なら、たとえ相手が竜でも──封じることができる、と。


「いくぞ、人間!」


 グリードが七つの口から同時にブレスを放った。


「来い、古竜!」


 俺は防御スキルでそれを撃ち返す。


 自身のブレスを全身に浴び、爆炎に包まれながら、なおもグリードはブレスを撃ってきた。

 やはり、ひるむ気配はない。


「防ぎきれると思うなよ。俺はいつでもお前の仲間たちを転移させられるのだぞ」


「──やってみろ」


 揺さぶりをかけてくるグリードに、俺は平然と言い返した。


「ほう? ならば望みどおりにしてやろう!」


 先ほどと同じく転移の竜魔法(ドラゴンズロア)を発動しようとする古竜。


「これは……!?」


 その声に驚きの響きが混じる。


 竜を囲む光球──その一つに、四枚の翼を持つ女神の紋様が浮かんでいた。


「第二の形態、不可侵領域(バリアフェイズ)


 魔法の発動自体を封じこめるスキルだ。


「ならばブレスで吹き飛ばしてくれよう!」


「第三の形態──」


 グリードがすかさずブレス攻撃に切り替えようとしたところで、別の光球に六枚の翼を持つ女神の紋様が浮かぶ。


反響万華鏡カレイドスコープシフト


 俺はやすやすと七本のブレスを撃ち返した。


「がっ!? ぐ、あ……っ」


 乱反射した数千本のブレスに打ちすえられて、グリードが苦鳴を上げる。

 そして、


「第四の形態、虚空への封印(ヴォイドシール)


 七つの口をスキルで包み、ブレス自体を封じる。


「複数の形態を、同時に操るだと……!?」


 驚く、古竜。


 これまでの俺は、スキルの種類を切り替えて扱うことしかできなかった。


 だけど今の俺は、違う。


 黄金色の空間の中では、第六の形態『時空反転(リバースリアクト)』を除くすべてのスキルが同時に効果を発揮する──。


 あらゆる攻撃を防ぎ、弾き、乱反射し、魔法の発動を封じ、攻撃エネルギーを無効化する。

 物理であろうと、魔法であろうと、すべての攻撃を封殺し、すべてを撃ち返す。


 無敵の、空間。


 ──と言いたいところだけど、俺にはすでに答える余裕がなくなっていた。


「ぐ……ううっ……」


 頭の中が焼き切れそうな感覚に、俺は苦痛のうめき声をもらした。

 噛みしめた唇から血がにじむ。


 今までスキルを使っていて、こんな負担を覚えたことはない。


 今までとは、根本的に何かが違う。


 それでも俺は、敢然と古竜を見据えた。


 弱みは見せない。

 見せれば、そこに付けこまれる。


 反撃の隙を与えるわけにはいかなかった。


「竜とは神をも殺す者。神の力ですら防ぐことは敵わない。だが──なんだ!? なんなのだ、お前の力は──俺の力ですら防ぎ、遮断し、封じる……こんな、ことが」


 グリードが呆然とうめく。

 最強の代名詞たる古竜が、俺に気圧されたように後ずさった。


「神の力を、人の心が加速させている……のか? 竜をさらに超えた力として」


 今までとはけた違いの威力と効果。


 とはいえ、欠点もある。

 それは、七つの光球を共鳴させるのに時間がかかることだ。


 歴戦の古竜がその隙を見逃すはずがない。


 だから、七重の共鳴が終わるまでの時間を稼ぐことこそが、俺たちの作戦の要だった。


「……ルカが与えたダメージがお前の反応をわずかに鈍らせた。同時に、サロメの不意打ちがお前にわずかな隙を生み出した」


 俺はグリードに告げる。


「二人の作ってくれた時間があったからこそ、俺はこの力を発現できた」


「これがお前の──いや、お前たちの力か」


「まだ続けるか? お前の攻撃はもう通じない。こっちはお前にダメージを与えられる攻撃手段がある。ルカの斬撃や俺の反射攻撃が、な」


「ふ、はははははははははははは! 見事! 見事だ、人間!」


 グリードが哄笑する。


「久方ぶりに血が沸き立った。楽しかったぞ!」


 俺のほうは答える余裕もなかった。

 黄金色の空間を維持するだけで精一杯だ。


 作戦の内容をいちいち説明していたのも、薄れる意識を繋ぎ止めるためである。


 だけど、だんだんと目がかすんできた。


 もう少しだけ、耐えてくれ。

 あと少しだけ、持ちこたえてくれ。


 俺の、意識──。


「心とは……一人では成り立たん。他者とのかかわりがあってこそ、芽生えるもの。個の力で生きる竜や神、魔──超常の存在には持ち得ぬ力」


 グリードが深く息をついた。


「……負けだ。俺の」


 敗北宣言はあまりにも突然で、あっけないとさえいえるものだった。


 ほぼ同時に、竜を囲む七つの光球が消えた。

 集中が途切れ、黄金の空間をこれ以上維持できなくなったのだ。


「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 俺はその場に崩れ落ちた。


 全身が汗びっしょりだ。

 頭の中が焼き切れそうな痛みは、少しずつ治まっていく。


 それでも息が苦しい。

 目の前が激しく揺れている。

 頭の芯が重い。

 心臓が破れそうなほど痛い。


「お前の手には、まだ余る力のようだ。乱発は避けたほうがいいだろう」


 グリードが静かに告げた。


「でなければ、力の反動で身も心も砕け散るぞ」


「……肝に銘じるよ」


 俺は息を整え、ゆっくりと立ち上がる。


「心せよ。お前はすでに人の身でありながら、神の──いや、神を超えた領域に踏みこもうとしている。今までよりも、さらに深く、強く──」


 グリードが息を吐き出した。


「その力を使い、新たな神にでもなるか? それとも魔か? あるいは──」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して

★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!




▼こちらの新作もよろしくです!▼



▼新作です! こちらもよろしくです~!▼
「攻撃されたら俺の勝ち!」悪役転生特典でスキルポイント9999を【カウンター】に極振り→あらゆる攻撃を跳ね返すチートスキルに超進化したので、反射無双します。

冴えないおっさん、雑魚ジョブ【荷物持ち】からEXジョブ【上位存在】に覚醒して最強になる。神も魔王も俺には逆らえない。俺を追放した美少女勇者パーティも土下座して謝ってきた。




▼書籍版全3巻発売中です! 画像をクリックすると紹介ページに飛べます!▼

5z61fbre6pmc14799ub49gi9abtx_112e_1d1_1xp_n464.jpg 97vvkze3cpsah98pb0fociarjk3q_48b_go_np_cmbv hkcbaxyk25ln7ijwcxc7e95vli4e_1e1o_1d0_1xq_rlkw

漫画版全3巻発売中です! 画像クリックで公式ページに飛びます。
8jyvem3h3hraippl7arljgsoic6m_15xf_qm_bx_d8k6
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ