1 「絶対にダメージを受けないスキルを与えましょう」
「絶対にダメージを受けないスキルを与えましょう」
いきなり現れた女にそう言われ、俺──ハルト・リーヴァはぽかんとなった。
は? 絶対にダメージを受けないって?
そもそも、あなたは誰ですか?
っていうか、すごい美人なんですけど!
しかも、おっぱいでかい!
無数の疑問がいっせいに湧く。
後半は疑問じゃなくて興奮だけど。
周りには真っ白い空間が広がっていた。
俺はそこでプカプカと浮かんでいる。
どこだ、ここは?
少なくとも、今さっきまで歩いていた町の大通りじゃないことは確かだった。
「端的に言うと、そのスキルを使用すれば、あなたの肉体は物理、魔法、その他あらゆる属性の攻撃からまったくダメージを受けなくなる、ということです。あなたは不可侵にして無敵の存在になるでしょう」
美人さんは俺の戸惑いを無視して、勝手に話を進める。
「その力を使い、何かを為すのもあなたの自由。為さぬのも、また自由。好きに選んでください」
「いきなり言われても……」
意味が分からなさすぎだ。
「申し遅れました。私は全次元世界における超越存在──そうですね、あなたにとって分かりやすい概念で言うなら」
美人さんが淡々と語る。
「女神です」
えっ、女神さま!?
いきなり言われても信じがたい話だ。
あらためて彼女をまじまじと見つめた。
腰まで届く長い金髪に、切れ長の青い瞳。
超然とした雰囲気の美貌にあらためて見入ってしまう。
確かに女神級の美人であることは間違いない。
「あら、美人だなんて。お褒めいただきありがとうございます」
女神さま(?)は照れたように頬を赤くした。
俺、何も言ってないんだけど──もしかして心の声が聞こえたのか?
「胸は女神たちの平均よりはあるかもしれませんね、ふふふ。中には私より大きな方もいますけど……うふふ」
と、悪戯っぽく微笑む女神さま。
やば、『おっぱいでかい』って心の声まで聞こえてた!
今度は俺のほうが頬を熱くする、
「それはそうと──」
女神さまが真顔に戻った。
「突然のことで信じられないかもしれませんが、私は女神。そして、あなたは現世で一度死に、この『狭間の時空』にたゆたっているのです」
「俺が……死んだ?」
言われて、全身にいきなり鳥肌が立った。
記憶が──フラッシュバックみたいに突然よみがえる。
猛スピードで迫る馬車。
『危ない!』という御者の声。
そして全身に走る強烈な衝撃。
「俺……確か、学校へ行く途中に……そうだ、馬車に撥ねられて……」
「残念ながら亡くなりました」
女神さまは無情に告げた。
「ですが、あなたの魂は特別製なのです。したがって今回の『死』をキャンセルし、もう一度生きるチャンスを与えられることになります」
「え、死ななくてすむってこと……?」
「魂には製造番号のようなものがあり、特定の番号には『やり直し』のチャンスを与えています。まあ、くじ引きみたいなものですね。おめでとうございます」
生き死にの話の割に、女神さまの口調はあっけらかんとしていた。
「その際に、あなたは強大無比な力を宿すことになります。先ほど申し上げたように、どんな攻撃でも絶対にダメージ受けない体になるのです。使いようによっては、世界を一変させることもできるでしょう」
女神さまが俺に向かって手をかざす。
その手のひらに淡い白色光が宿った。
「そろそろ現世に戻る時間ですね。心の準備はいいですか?」
「えっ? ちょっと待って、まだ聞きたいことが──」
俺は戸惑いっ放しだ。
「私がこの次元空間にとどまっていられるのも……ガガ……あとわず……か……ザー……説明は、これ以上……ガ………………ザザー…………ガ」
突然、女神さまの声にノイズみたいなものが混じり、不明瞭になる。
おい、説明タイム終了かよ!
同時に、視界がぼやけていく。
意識が──薄れていく。
「よりよき人生を。願わくば、今までよりも」
一瞬だけ、やけに明瞭に聞こえたその声を最後に──。
俺の意識はぷっつりと途絶える。
──気が付くと、俺は元の場所にいた。
「お、おい、大丈夫か……?」
すぐ傍に馬車がある。
声をかけてきたのは、その御者だ。
「……平気みたいだ」
確かに撥ねられた記憶があるけど、俺の体には傷一つなかった。
あの女神様の言った通り、ダメージを受けないスキルを身につけたのか。
──って、いくらなんでもあり得ないな。
そもそもさっきのは白昼夢みたいなもので、俺はもともと馬車に撥ねられてなんていなかったんだろう。
だって、こうして傷一つないし。
「急にこいつが暴れだして……てっきり撥ねちまったのかと思ったよ」
ほら、やっぱり白昼夢だった。
女神様が現れて、俺に特別な力を授けてくれる──そんな夢みたいな話、あるわけがない。
俺はあくまでも平凡な平民の子その一なんだ。
英雄でも勇者でも冒険者でもなく、ただの学生なんだ。
「いや、俺はなんともなかったし気にしないでください」
俺は御者さんにそう言って、別れを告げた。
急がないと遅刻である。
この国では十五歳になるまで、平民の子は王立の学校に通うのが一般的だ。
その後は高等部や大学部に進む者もいれば、就職する者もいる。
俺は前者を選び、今は高等部の二年生だった。
選んだことに深い理由はない。
やりたい仕事も特になく、とりあえず大学部まで出ておけばいいという最近の風潮に流された感じだった。
将来の目標、なんて大それたものもなく、日々退屈な授業を聞くだけの日々──。
そんなルーチンワークを今日もこなし、放課後になった。
俺は帰宅路を歩いていた。
朝は変な白昼夢を見たりしたけど、終わってみれば今日も平凡な一日だ。
「絶対ダメージを受けないスキル……ね」
ふと、自分の両手両足を見下ろす。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!
腹の底から震えるような吠え声が聞こえたのは、そのときだった。
「な、なんだ……!?」
次に聞こえてきたのは地響きと爆音。
そして町の人たちの悲鳴。
「おい、逃げろ! 町はずれに魔獣が出たってよ!」
誰かが俺に叫ぶ。
「冒険者はいないのか! 魔獣を倒せるクラスの!」
「今、町長が魔導通信でギルドに連絡を取ってるってよ! けど、うちみたいな貧乏な町にすぐ派遣してもらえるわけないだろ!」
振り返れば、町を囲む城壁の向こうに、大きな蜥蜴を連想させる顔が見えた。
ゾッとする。
竜──。
この世界で最強の代名詞ともいえる魔獣の代表格だった。
竜は城壁に体当たりをしていた。
堅牢な壁が軋み、亀裂が走っていく。
──魔獣は、この世界において災害みたいなものだ。
異空間から突然現れ、周囲のものをすべて破壊し、蹂躙し尽くす。
ある程度、魔獣が現れる前兆みたいなものがあるらしくて、それを元に魔獣警報が出されたりもするんだけれど。
今回は上手く前兆を捉えられなかったのか、警報はなかった。
不意打ちのような襲来だ。
俺も逃げなきゃ──。
理性がそう告げているけど、足が動かなかった。
恐怖とは違う。
奇妙なまでの自信と、確信。
朝の出来事が頭に引っかかっていたのだ。
『その際に、あなたは強大無比な力を宿すことになります』
女神の言葉を思い出す。
『使いようによっては、世界を一変させることもできるでしょう』
「絶対にダメージを受けないスキルって言ってたよな……」
俺は自分の拳で自分の頬を軽く殴ってみた。
ごつっ。
と、音が鳴るかと思いきや──、
がいんっ!
金属同士がぶつかったときみたいな音が響いた。
「うわっ、なんだこれ」
自分の体のことなのにびっくりだ。
手のひらで頬をさすってみたけど、柔らかい肌の感触しかしない。
なのに、殴ると妙な金属音……どうなってるんだ、俺の体は?
試しにもう一回、もっと力を込めて殴ってみる。
がいいいいいんっ!
「うわ、うるさっ!?」
さっきよりも甲高い金属音が響く。
金色の火花みたいなのも散ったぞ、今。
あの女神さまが言った通り、本当に不死身のスキルを身に着けたってことなんだろうか。
少なくとも普通の体じゃなさそうだな、これ。
だけど、仮に俺が不死身になっていたとしても、それだけで竜を倒せるはずもない。
さて、どうするべきか──。
目の前では、ちょうど竜が町の城壁を突き崩したところだった。
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