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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若ちい
第5章 聖教国のデジタル化(魔導化)

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21話 神の威光は「不透明な非課税資産」

砂漠の熱気を後にした我がローゼン・ホールディングスの移動本社(魔導大型船舶)は、大陸北西に位置する「聖教国エルドラド」の国境へと差し掛かっていた。

 窓の外には、白亜の城壁と、天を突くような大聖堂の尖塔がそびえ立っている。一見すれば神々しい光景だが、私の目には「維持費ばかりかさんで生産性の低い、巨大な負の遺産」にしか見えなかった。


「……マックス。聖教国の直近の財務諸表、抜き出し終わったかしら?」


私が冷徹に問いかけると、マックスは眉間に深い皺を寄せて、分厚い羊皮紙の束をデスクに置いた。


「……CEO。正直に申し上げまして、これは『帳簿』と呼べる代物ではありません。歳入の八割が『寄付金』および『免罪符の売上』。しかもその使途の半分以上が『聖域の維持』という名目の使途不明金……。要するに、神の名を借りた巨大な脱税シェルターですな」


「……プッ、あははは! 傑作ね。全知全能の神様が、これほどまでに杜撰な管理を許しているなんて。神様も、会計監査コンプライアンスの概念は持ち合わせていないのかしら?」


私は、手にしていた最高級の魔導万年筆を回しながら、ホログラムで映し出された聖教国の人口動態データを眺めた。


「見てなさい、マックス。国民の九割が、明日のパンにも事欠く生活を送りながら、なけなしの銅貨を『天国への通行手形(免罪符)』に替えている。……一方で、教皇庁の地下金庫には、使い道のない金銀財宝が腐るほど眠っている。……これこそ、経済の血流を止める『血栓』そのものよ」


「……いかがいたしますか? 武力で制圧するには、彼らの『狂信的な自爆兵』がコストに見合いませんが」


「暴力? そんな野蛮なことしないわ。……私はただ、『神のサービスを最適化』してあげるだけよ」


その時、執務室の窓を激しく叩く音がした。

 見ると、飛行船の外壁に素手で張り付いたアルヴィスが、こちらに向かって満面の笑みで親指を立てている。気圧と寒風で顔が引き攣っているが、筋肉の熱量だけで生存しているらしい。


「セシリア! この聖教国の空気に漂う『祈りの力』を感じるぞ! 俺の筋肉が、神の御前でさらにビルドアップされる予感がする! 許可をくれ、今すぐ大聖堂の門を素手でこじ開けてこようか!?」


「寄るなイケメン! 貴方のその『暑苦しい信仰心(筋肉)』が、私の精密な演算装置に熱暴走サーマルスロットリングを起こさせているのが分からないの!? ……貴方は、船底の魔導エンジンに直結した『祈祷型ルームランナー』で、一〇万回ほど聖歌を歌いながら走りなさい。……その運動エネルギーを、聖教国のサーバーをハックするための電力に変えるのよ!」


「……っ! 聖歌ランニング! 神への冒涜と筋肉への愛が交差する、究極の修行だ! 喜んで!!」


彼はそのまま、船底へと垂直落下していった。……本当に、あの男のエネルギー変換効率だけは、物理法則を無視しているわね。


「……さて。カイル、準備は?」


影からカイルが、一足の「銀色の靴」を持って現れた。それは、我が社の最新技術で作られた『思考同期型・空間転移シューズ』のプロトタイプだ。


「聖教国の全中継基地(教会)へのバックドア設置、完了しています。……彼らが発行している紙の『免罪符』。その偽造防止用魔法陣の脆弱性を突きました。……今この瞬間から、我が社の『ローゼン・オンライン・サンクチュアリ』が、彼らの市場を食い荒らし始めます」


「素晴らしいわ。……『神に会うために、わざわざ教会へ行くなんて非効率だと思いませんか?』……。このキャッチコピーで、全世界に広告をバラ撒きなさい」


一時間後。聖教国の広場で、前代未聞の事態が発生した。

 教会の前で高価な免罪符を買おうと並んでいた信徒たちの手元にある「聖典デバイス」が、一斉に輝き出したのだ。


『——信徒の皆様、お疲れ様です。ローゼン・ホールディングスです。……神様への懺悔、まだわざわざ教会で行っているんですか? 往復の移動時間、神父様への心付け……それ、全部「無駄」ですよね?』


空中に、私のホログラムが巨大に投影された。

 信徒たちが呆然と見上げる中、私は慈悲深い(と自分では思っている)微笑みを浮かべて続けた。


『本日より、サブスクリプション型・免罪サービス「神パス(ゴッド・パス)」を開始します。月額わずか九八〇ローゼンで、二四時間三六五日、どこからでもアプリ一つで懺悔し放題。……今なら、三〇日間の無料トライアルと、初回特典として「天国への優先搭乗券(デジタル版)」をプレゼント! ……紙の免罪符なんて、もう古い。……これからは、クラウドで徳を積みましょう』


「な……何事だ!? 誰だ、神聖なる広場でこのような不敬な真似をするのは!」


大聖堂から、金糸で刺繍された法衣に身を包んだ枢機卿が飛び出してきた。彼の顔は怒りで真っ赤に染まっているが、私はモニター越しに彼を鼻で笑った。


「枢機卿様。……貴方の持っているその『免罪符』。……それ、三日前に発行されたバッチのシリアルナンバーが重複しているわよ? ……発行枚数を誤魔化して裏金を隠すなんて、神様が見逃しても、私の監査アイは見逃さないわ」


「な……ななな、何を根拠に……!」


「根拠? ……今、貴方の教会の寄付金口座、すべて私が『債権者代位権』を行使して凍結したわ。……聖教国の神様。……今日から貴方の主人は、天上の存在じゃない。……この私、セシリア・ヴァン・ローゼンバーグよ」


聖教国の民衆が一斉にどよめき、スマホ(魔導端末)を操作し始める。

 「神パス」の会員数は、一分間で一〇万人を突破した。

 古臭い宗教国家が、私のロジックによって「デジタル・プラットフォーム」へと強制解体される瞬間だった。


「……さあ、枢機卿様。……貴方の神様に伝えてくださる? 『赤字の垂れ流しは、この世界で最大の罪である』……とね」


私は、不敵な笑みを浮かべて通信を切った。

 聖教国エルドラド。その白亜の壁は、今や巨大な「QRコード」へと塗り替えられようとしていた。

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