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【完結済】没落令嬢のしれっと王国買収  〜前世の知恵でインフラを独占。契約魔法で国ごと差し押さえます。文句は契約書にどうぞ〜  作者: ろいしん


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最終話 国家差し押さえ


「この国の借金、いくらか知っている?」


 私の声が、静まり返った議場に響いた。


 ヤノフが眉をひそめる。


「何を言っている」


「三百万ディナール」


 私は、懐から羊皮紙を取り出した。


「利息を含めれば、四百万を超える。帝国への債務よ」


 羊皮紙を、頭上に掲げる。


「そして、この国債の債権者は——私」


 議場がざわめいた。


 議員たちが顔を見合わせる。

 何が起きているのか、理解できていない。


「お前が……国債を持っている?」


 ヤノフの声が、わずかに震えた。


「ええ。帝国から買い取ったの。知らなかった?」


 私は、微笑んだ。


「評議会は、利息の支払いを続けてきたわ。私に」


「なに……」


「月五千ディナール。ヤノフ侯爵、あなたの署名入りでね」


 ヤノフの顔色が、変わった。


「だが、それがどうした! お前は死刑だ! 死刑にしてしまえば——」


「私を殺す?」


 私は、首を傾げた。


「いいわ。どうぞ」


「……何?」


「ただし、私が死んだら、どうなるかしら」


 ヤノフの動きが、止まった。


「私が死ねば——ガス供給網が止まる。この国は凍える」


「……」


「凍死者が出れば、帝国は『人道的介入』の名目で軍を送るでしょうね」


 私は、一歩前に出た。


「結果は同じ——この国は帝国の属国になるわ」


 議場が、静まり返った。


 誰も、声を発しない。


 私の死は——帝国の介入を意味する。

 この国は終わる。


「さて、ヤノフ侯爵」


 私は、彼を見つめた。


「まだ、私を殺す?」



   ◇



 ヤノフの顔が、歪んだ。


「脅しか……脅しを……」


「脅し? いいえ」


 私は、羊皮紙を広げた。


「これは、商法に基づく正当な手続きよ」


「商法だと?」


「この国は、三百万ディナールの債務を返済できない。つまり——」


 私は、言葉を区切った。


「破産よ」


 議場がざわめいた。


「破産!?」


「馬鹿な!」


「落ち着け、落ち着けお前たち——」


 ヤノフが叫ぶが、議員たちはパニックに陥っている。


「商法の規定により」


 私の声が、喧騒を貫いた。


「債務者が破産した場合、筆頭債権者は担保権を行使できる」


 私は、指を鳴らした。


「つまり——国の全資産は、私のものになるの」



   ◇



 その瞬間。


 議場に、異変が起きた。


「な、なんだこれは!?」


 議員の一人が、悲鳴を上げた。


 彼の着ている豪華な法服に——赤く光るタグが出現していた。


「私のにも!」


「俺の服にもだ!」


 次々と悲鳴が上がる。


 議場の柱。椅子。絨毯。

 そして——議員たちの服。


 すべての物に赤く光る差押タグ、通称【赤タグ】が出現している。


「これは契約魔法よ」


 私は、説明した。


「国の資産に属するものすべてに、所有権移転のマークがつくの」


「所有権移転……?」


「つまり、今この瞬間から——これらは全部、私の所有物」


 私は、指を弾いた。


 瞬間——


 議員たちの服が、ボロボロの布クズになった。


「ぎゃあああ!!」


「なんだこれは!!」


「寒い! 寒い寒い寒い!!」


 豪華な法服は、国費で購入されたもの。

 つまり、国の資産——今は私の所有物だ。


 所有権が移転した瞬間、服は消え去った。


 議員たちは、下着姿で震えていた。


「さむ……さむい……」


「助けて……」


 私は、にっこりと微笑んだ。


「私物は差し押さえません。その自腹で買ったパンツ一丁で、表へ出て行ってください」



   ◇



「ふざけるな!!」


 ヤノフだけが、まだ抵抗していた。


 彼の服にも赤タグがついている。だが、彼は寒さに耐えながら、私を睨みつけていた。


「こんなこと……認めるか……」


「認める認めないの問題じゃないわ」


 私は、肩をすくめた。


「商法の規定よ。契約は絶対」


「黙れ! 兵を呼べ! この女を——」


 その瞬間。


 ヤノフの体が、宙に浮いた。


「な……なに……」


「あなたは今、私の所有物である議場に不法侵入している」


 私は、彼を見上げた。


「資産ゼロの不法侵入者は——システムによって強制排除されるの」


 ヤノフの体が、議場の外へ吹き飛ばされた。


 ドサッ、と鈍い音が聞こえた。



   ◇



 議場には、震える議員たちだけが残った。


「さて」


 私は、彼らを見回した。


「今日は選挙の日よ。せっかくだから、投票しましょうか」


「ひっ!」


「何でもします! 何でもしますから!」


「お願いです! 服を返してください!」


 私は、微笑んだ。


「次期国王に、ユーゼフ・セヴェリンを推薦するわ。賛成の方は?」


 全員の手が、勢いよく上がった。


「全会一致ね」



   ◇



 議場の扉が開いた。


 ユーゼフが、ゆっくりと歩いて入ってくる。


 彼は、パンツ一丁で震える議員たちを一瞥した。

 だが、何も言わなかった。


 私の前で、立ち止まる。


「……終わったのか」


「ええ」


 私は、手に持っていた王冠を、彼に差し出した。


「あなたが、この国の新しい王よ」


 ユーゼフは、王冠を見つめた。


 しばらく、無言だった。


 長い沈黙。そして、彼は口を開いた。


「……本当に、いいのか」


「何が?」


「俺が王になることが。お前が、すべてを握ることが」


 私は、微笑んだ。


「最初から、そう言ったでしょう」


「だが——」


「ヤノフ侯爵はきっと、こう叫ぶわ」


 私は、うんざりした声を真似た。


「『貴様らは騙されている! この女は密約で国を支配するつもりだ!』って」


 ユーゼフの唇が、かすかに動いた。


 それは——笑みだった。


「知っている」


 彼は、静かに言った。


「最初から、な」


 傍聴席から、声が聞こえた。


「ユーゼフ様!」


「聖女様万歳!」


「新しい国王万歳!」


 民衆が、歓声を上げていた。


 ユーゼフは、王冠を受け取った。


 そして——自らの頭に載せた。


「私は、民のために戦うと決めた」


 彼の声が、凍えた議場に響いた。

 パンツ一丁で震える議員たち。傍聴席で息を呑む民衆。すべてが、彼を見つめている。


「そのためなら、王冠など飾りでいい」


 彼は、私に手を差し出した。


「共に、この国を変えよう」


 握手——対等なパートナーとしての契約だ。


 私は、その手を取った。


 傍聴席から、歓声が上がった。



   ◇



 数週間後。


 王都は、すっかり様変わりしていた。


 貴族街の屋敷には、暖房が戻っている。

 ただし——料金は以前の三倍だ。


 貧民街には、無料の暖房供給が続いている。

 私が配ったカイロも、引き続き使われている。


 旧評議会の貴族たちは——


「ヴォロディナ様、本日の報告書です」


 かつてのヤノフ派の議員が、ペコペコと頭を下げながら書類を持ってくる。


「ご確認ください」


「ありがとう。置いておいて」


 彼らは今や、私の会社の中間管理職だ。


 ヤノフ侯爵だけは、領地に蟄居処分となった。

 もう表舞台には出てこないだろう。


 いい気味だ——と言いたいところだが、実際には彼らにも仕事をしてもらわないと困る。

 この国を回すには、官僚機構が必要だからだ。



   ◇



 執務室。


 私は、温かい部屋で、最高級のコーヒーを飲んでいた。


 深く焙煎された豆の香りが、部屋いっぱいに広がっている。

 あの日、凍えながら啜った安物とは、まるで別の飲み物だ。


「……美味しい」


 思わず、声が漏れた。


 前世では、この味を楽しむ余裕がなかった。

 激務に追われ、コンビニコーヒーを流し込むだけの日々。


 でも今は——


 ゆっくりと、一口一口を味わえる。


 ……なのに。


 ふと、胸の奥に、小さな空洞があることに気づいた。


 何だろう、これは。

 欲しかったものは、全部手に入れたはずなのに。


 温かい部屋。美味しいコーヒー。権力。

 前世で望んでいたもの。すべてが、ここにある。


 ——それでも、埋まらない何かがある。


 私は、その感覚を振り払うように、コーヒーをもう一口飲んだ。


 温かい部屋。美味しいコーヒー。

 そして——


 ノックの音がした。


「入っていいか」


 ユーゼフだ。


「どうぞ」


 扉が開く。


 国王となったユーゼフが、入ってきた。

 仮面は外している。今では、私の前では素顔を見せるようになっていた。


「コーヒー、おかわりは?」


 彼は私のカップを自然に受け取り、ポットからコーヒーを注いだ。


「……国王が、コーヒーを入れるの?」


「契約外の時間だ」


 ユーゼフは、肩をすくめた。


「オフの時は、対等だろう」


「そうだったかしら」


 私は、微笑んだ。


 窓の外では、雪が舞っている。

 だが、この部屋は暖かい。


 私は——満足していた。


 温かい部屋。美味しいコーヒー。そして——信頼できるパートナー。


 前世で望んでいたもの。すべてが、ここにある。


「……で、次は何を買うんだ?」


 ユーゼフが、私の前に座った。


 テーブルには、山積みの書類がある。

 隣国との貿易協定。帝国との交渉。新しい事業計画。

 私は、書類を手に取った。


「……世界でも買おうかしら」


読んでくださり、ありがとうございます!




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