8.色々感化されている気がするけど多分気のせいです
昼休み。
私は図書室の図鑑コーナーへとやってきていました。
探し物は爆弾に関する書物です。
ベルンさん曰く、魔法はイメージ。
だから実際の爆弾の知識があるとイメージが明確になるし、使い方も幾つも思いつくようになるよとのこと。
なのでこうして調べに来た訳ですが。
「まさかここまでゲームにハマるなんて」
やっぱりあのエバーテイルオンラインがリアル以上に臨場感に溢れているのがいけないんですね。
あとベルンさん。
あの人が居なければ私はもうちょっと普通にプレイして、今頃最初の街でクエストを受けながら近くのフィールドで魔物と戦ってたと思います。
ってそうだ。わたしまだ冒険者ギルドでクエストを1つも受けていません。
多分もう、レベルだけで言ったら次の街に行っても良いくらいですよね。
うぅ、こうして普通の道からは離れて行ってしまうんでしょうか。
……でもそれが決して嫌ではない自分が居るのも確かなんですよねぇ。
正直ベルンさんと一緒に何かするのは面白いですし。
「っと、これなんか良いかも」
『兵器大全』と書かれた分厚い辞書のような本には、爆弾を始め現在に至るまでの多種多様な兵器が写真や図解付きで紹介されています。
私は受付でその本を借りると早速読み、ってこのままじゃお昼ご飯を食べ損ねますね。
でも本の内容も気になりますので、ちょっとお行儀は悪いですが教室に戻りながら触りだけでも読んでみましょう。
「ふむふむ。一口に爆弾と言っても色々あるんですね」
あの最初に出した黒くて丸いボール状の爆弾もあれば、爆竹を大きくしたような爆弾に板状のプラスチック爆弾。
って爆弾ってプラスチックで作れるんですか!?
あっ、材料は全然違うみたいです。
危ない危ない。勘違いしてみやびさんに「プラスチックで作れる爆弾って知ってる?」なんて言ったら絶対爆笑されます。
他にも飛行機から投下するのも形状は全然違いますが爆弾ですね。
あ、絨毯爆撃が空飛ぶ絨毯に乗って爆撃することじゃないのは流石に知ってますからね!
って誰に言ってるんだか。
そうして夢中になって読書をしていたのがいけませんでした。
気が付けば階段を歩いていた私は、段差の滑り止めに躓いてその拍子に手から本が離れ。
「あっ」
咄嗟にキャッチしようと身を乗り出した私は、本もろとも階下へと身を投げていました。
迫りくる衝撃に目を閉じた私が耳にしたのはゴンッという鈍い音。
だけど私の身体は一向に地面に衝突しません。
それどころか脇の下を何かに支えられてるような感覚です。
恐る恐る目を開けてみれば、目の前には顔を何かにぶつけて真っ赤にした男の子が居ました。
(助けてくれたのかな?
というか、この赤いの、間違いなく私が持ってた本が直撃した跡ですよね!
しかもいつの間にか両手で持ち上げられてたかいたかい状態!?)
「あ、あの」
突然のことに声が出ず、なんとか絞り出したのがこれだけ。
男子の方もそんな私を見てすっごく目をきょろきょろさせながら、ついでに顔も更に赤くさせながらも小さく口を開きました。
「え、あ、その。怪我、ない?」
「はい。助けて頂きありがとうございます」
自分以上にテンパっている人を見ると逆に自分は落ち着くもので、今度はちゃんと返事を返せました。
ただ、彼はまだ落ち着いてはいないようですね。
彼に持ち上げられた状態で話を続けるのも変なのでそろそろ降ろして頂けるとありがたいのですが。
そう伝えると彼は本当に慎重に慎重を重ねて私を降ろしてくれました。
さっきの第一声で私の身を案じてくれた事といい、優しい人なんだと思います。
ただちょっと挙動不審ですけど。人見知りなのかな。
「それじゃ」
と立ち去ろうとした彼の鼻からツゥーっと赤い血が流れてきました。
どう考えても私が落とした本が顔に当たったせいです。
「鼻血出ちゃってます」
急いでハンカチを差し出すと何故か拒否されました。
確かにお手洗いの後に1,2回手を拭きましたけど、そんなに汚れてはいないですよ?
「よ、汚れるから」
どうやらハンカチが汚れるのを気にしてくれている様子。
そんなの気にしなくて良いのに。
何て言ってる間に垂れちゃいます!
「いいからつべこべ言わない。血が下に落ちちゃいますから」
私は身を乗り出してちょっと強引に彼の顔を拭きました。
するとなぜか彼は彫像のようにピクリとも動かなくなってしまいましたが、どうしたんでしょう。
ハンカチを離せば新しい血は出てこないようです。
「あ、血は止まったみたいですね。よかった」
「あ、あり、が、と」
私の言葉にようやく再起動した彼は赤い顔のまま凄い勢いで飛び退りました。
もう『ズバッ!』って効果音が似合いそうなほどです。
その彼の視線が床に落ちている本に向けられ……って、ああっ!
お、女の子が『兵器大全』なんて読んでるのは変、ですよね。
これには深い訳があるんです!
なんて言い訳を考えてる私に彼は特に何も言わずにその本を差し出してくれました。
「はい。その、歩きながらは、読まない方が良い、よ?」
「そうですね。気を付けます」
「じゃ」
「あっ」
私が本を受け取った瞬間、今度こそ風を置き去りにして走り去っていってしまいました。
もっとちゃんとお礼言いたかったのに。
教室に戻ってみやびさんにその事を話すと急に肩を掴まれました。
「ちょまっ、それは出会いイベントっちゅうもんやないかい!」
「何故にエセ関西弁ですか」
「そりゃ驚き過ぎて関西弁も出るわよ。
はぁ~。いい? 階段で転びそうになったところを男子に助けられるのは、パンを咥えて登校中に道の角で男子にぶつかるのと並ぶほどの超べったべたな出会いイベントで、今時少女マンガでも敬遠されるネタよ! 分かってる?」
「は、はぁ」
すごい勢いで捲し立てられました。
言われてみれば確かに。もう1周回って新鮮な気さえしますね。
というかパンを咥えて走るのって呼吸しにくくなるから走りにくいし、のどに詰まらせたら大変だしそれならいっそのこと教室に着いてから食べた方が良いのに。
「亜美。今絶対変な事考えてたでしょ」
「そ、そんなことないよ?」
「そんなことより、その亜美を助けた白馬の王子様はどこの誰なの?」
白馬の王子様って。それこそベタベタ展開じゃないでしょうか。
まぁみやびさんも理想の王子様が迎えに来てくれるのを夢見る乙女ですからね。
ともかく、残念ながら名前も聞いてないのです。
「それがお礼を伝える暇もなく走り去って行ってしまったので」
「ぬぁにぃ~~!!
こんな可愛い亜美を助けておいて。男子なら連絡先聞いてデートの約束の1つも取り付けなさいよ。
玉ついてんのか!?」
「いやみやびさん、声大きいから」
興奮するみやびさんを慌ててなだめる。
いやでも、彼がそんな恩着せがましくデートに誘うような人なら私、お礼だけ言って金輪際会いたいとは思わなかったと思います……ん?
そっか。私もう一度彼に会いたいって思ってるんだ。
「出来れば改めてお礼が言いたいですね」
「……ふぅん。分かったわ。じゃあちょっと私の方で調べておいてあげる」
「はい、お願いします」
家に帰って夕飯や入浴を済ませた私は今日もエバーテイルオンラインにログインしました。
まずはフレンド一覧を確認して。
……あら珍しい。ベルンさん今日は居ないみたいです。
となると今日は何をしようかな。
そうだ。折角だから1人で戦う練習してみよう。
今まではベルンさんにおんぶにだっこでしたからね。
そうと決まれば何か適当な討伐依頼を受けつつ進めましょうか。
「……うーん。推奨レベルが低い」
推奨レベル15までのクエストがほとんどですね。
まぁ最初の街だしこんなものでしょうか。
最初にベルンさんを追いかけて行った森のモンスターのレベルは20とか言ってましたけど。
仕方ありません。次の街に向かいましょうか。
それにベルンさんが居ない間にもう次の街に行っちゃいましたって報告したら少しくらい驚いてくれるかもしれないですし。
そうと決まれば早速街を出て街道を走ります。
課金アイテムを買えば移動に便利な馬とかも買えるそうなんですけど、贅沢は敵ですからね!
そう言えば。
以前ベルンさんは凄い速度で歩いてましたよね。
体力という意味では私より劣る筈なのに全力で走っても追いつけないあの速さ。
あれも壁魔法の応用だったりするんでしょうか。今度聞いてみましょう。
私は私の出来る事をします。
私のスキルといえば爆弾魔法です。
……例えばですが、爆弾の爆風で背中を押して加速するとか?
一応このゲーム、自分やパーティーメンバーの攻撃ではダメージを受けない仕様ですし、試しにやってみましょう。
ボンッ。バタッ。
「いたい」
駄目でした。
自分の背中に爆弾をセットして起爆してみたのですが、吹き飛ばされて地面にダイブしてしまいました。
あと爆弾自体は無傷ですが、地面に激突するのはダメージになるみたいです。
でもです。
1回失敗しただけで諦めるのは違うと思うんですよ。
なので今度は足裏に爆弾をセットして、っと。
ドンッ。
「うわっとと」
爆発の勢いだけで2メートルくらい飛び上がってしまいました。
何とか転ばずには済みましたが、これは威力や角度を調整してあげればどうにかなりそうな予感がします。
ドッドッドッ。
「よっとっはっ」
試行錯誤を繰り返す事、十数回。
何とかオリンピックの三段跳びみたいにピョンピョン飛び跳ねながら前に進めるようになってきました。
が、こんな事してたらあっという間にMP切れです。
そう言えばベルンさんは転生をした結果、MPは余ってるとか言ってましたね。
残念ながら私はそんなにMP多い方ではないですし、この移動方法は緊急時の瞬間加速用に温存して普段はちゃんと走ることにしましょう。
そうして走っていると何やら前方に人だかりが見えてきました。
何かあったんでしょうか。
「あの、すみません。皆さん何をなさってるんですか?」
「ん?あぁ。ボス待ち」
適当に暇そうにしている人に尋ねてみたらそう返ってきました。
ボスと言われて思い出すのはベルンさんと一緒に戦った白い虎です。
この先にあんなのが待ち構えているかと思うとちょっと怖いです。
あ、でも今の私はあの時より多少強くなってますし、今なら勝てるかもしれませんね。
ちなみにボスに挑戦する人はここに集まっている人の内の半分も居ないみたいです。
残りは一度挑戦したけど負けて、他の人の戦い方を参考にしている2期生や、スカウト目的の1期生だそうです。
スカウトってプロスポーツみたいですね。
兎も角少し待っていたら私の番が来ました。
『フィールドボス:ストーンゴーレムに挑戦しますか?』
確認メッセージが出てきたので「はい」を選択します。
するとさっきとはちょっとだけ違うボスフィールドに飛ばされました。
『戦闘を閲覧許可しますか?』
あ、どうやら戦っている所を他の人に見せるかどうか選べるみたいです。
確かに待っている間も観戦できる人とそうでない人が居ました。
私は露出趣味は無いので「いいえ」を選択します。
するとその直後、地響きと共に前方の地面が盛り上がってきました。
ここのボスは何故か地面から出てくるみたいなんです。
いや、確かにストーンゴーレムが空を飛んで来たらビックリですけどね。
「ふぅ~、よし!」
ボスが出てくるまでにこちらも気持ちを切り替えて準備オッケーです。
試してみたい事は幾つもありますからね。
今の私がどこまでボスに通用するかチャレンジしてみましょう。
『グゴゴゴゴッ』
「まずはこれです。『ヘビーマイン』!」
『ヘビーマイン』は爆弾魔法の応用で地面に設置するタイプの爆弾です。
起爆条件は時間ではなく上に重い物が乗った瞬間。
もちろん今日、本で読んだ兵器大全の中の対戦車地雷を参考にしてみました。
まずは様子見という事で最大魔力を籠めてみましたが、その効果のほどは……。
カチッ。ドドーン!!
『ゴガガガガッ』
見事ヘビーマインを踏み抜き、右足どころか右半身が吹き飛びました。
そのまま左側へと倒れて行くボス。
本体の重量と合わせて地面との衝突ダメージはかなりのものじゃないでしょうか。
私は次の攻撃の準備にMPポーションを飲みながら待ち構えます。
「……?」
あ、あれ?起き上がって来ません。
それどころかそのまま光になって消えてしまいました。
『フィールドボス:ストーンゴーレムの討伐に成功しました。
これより元の場所に移動します』
「えぇ~~」
まだ試したい技は沢山あったのに。
ボスなんですからもっと根性見せてください。
こうなったら再戦を申し込んで……ってあれ?
「「じーーーっ」」
なぜか物凄く皆さんから注目を集めている気がするんですけど。
これはさっさと次の街に行った方が良さそうですね。
2番目の街の近くに岩系の魔物が居る山があるってネットにありましたし、そっちに向かいましょう。