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7.いつでも危険な接近遭遇

 昨日は結局神殿の修復と集まってくれた人達への壁修復技法のレクチャーだけで終わってしまった。

 終わった後で何人かが今日来てない人にも伝えて良いですかって聞いてきたけど、もしかしてこれから全国各地で神殿の修復をして回るんだろうか。

 まぁ、女神の称号が手に入ったって喜んでたからそれ目当てかな。


 それはともかくとして。

 僕は昼休みの廊下を歩きながら一人の少女の事を思い浮かべていた。

 鬼族のリアミンさん。

 ゲームの中でしか会っていないから実際の年齢などは分からないのだけど、大体同い年くらいかな?

 それはともかくとして、珍しく僕が普通に会話が出来る相手で、一方的な僕の話を聞いても逃げずにいてくれた珍しい子。

 ちなみにエバテ内でこれまでに何度か野良パーティーを組んだことはある。

 そのいずれもが有難い事に向こうから手を貸してくださいって話し掛けて来てくれたものだ。

 むしろ僕から声掛けるとか無理だし。

 僕だって出来る事なら色んな人と仲良く冒険するとかやってみたい。それがオープンワールドのオンラインゲームの醍醐味でもあるのだし。

 だけど人見知りで慣れていない人と話をしようと思うとどうしてもどもってしまって真面に話すことが出来ない。

 話そうとしても何度も相手から聞き返されて、余計委縮してしまって相手をイライラさせる悪循環。

 結果、リアルでもネットでも僕と話をしてくれるのは両手が余るくらいしか居ない。もちろん家族を含めて。

 だからパーティーを組んでも僕はほぼ無言。

 「あの」とか「それ、どうぞ」とか短い言葉で何とか意思を伝えるだけ。

 そんな僕を見て相手は気分を害して二度と声を掛けてくれたりはしない。

 フレンド登録とかも僕から提案出来る訳無いし相手からもされたことない。


「あっ」


 突然頭上から切羽詰まった声がしたと思って声の方を見上げると、放物線を描いて宙を舞う本とそれをキャッチしようとして階段から身を乗り出そうとする女子の姿が見えた。


「っ」


 僕は反射的に階段を数段飛ばしで駆け上がりながら彼女に手を伸ばす。


 ゴンッ

 ……痛い。


 漫画とかだとこういうのって、落ちて来た少女の胸を触っちゃったり偶然キスしちゃったりとラッキースケベが付き物だけど現実はそう甘くない。

 僕の顔にキスしてくれたのは辞書かなと思うくらい重厚感のある本の背表紙だった。

 そのせいで僕の視界は本に遮られてしまったんだけど、それでも直前の光景を頼りに手を伸ばし続けた僕の手には確かな手ごたえがあった。


「あ、あの」


 驚いて声が出ない女子と、ようやく本が離れて視界が戻った僕の目が合った。

 僕の手は彼女の両脇を掬い上げた状態なっていて、ラッキースケベにならずに済んでいた。

 よかった。

 いやだって、ここで間違って胸を触ってたら変態のレッテルを貼られて明日から学校来れないし。

 ただ落ち着いてくると初対面の女子と至近距離なんだけど!

 その事に気が付いた僕の視線はぐるんぐるんしてる。


「え、あ、その。怪我、ない?」


 何とか絞り出してそれだけは言えた。

 それを聞いた彼女も落ち着いてきたのか、優しく笑って答えてくれた。


「はい。助けて頂きありがとうございます。

 それであの、降ろしてもらえるとうれしいです」

「え、あっ!ごめん」


 よく考えれば今の格好って脇に手を入れて持ち上げて曰く「たかいたかい」状態だった。

 慌ててゆっくり慎重に彼女を地上に降ろす。


「そぉっとそぉっと……はぁ~~~」

「くっ、ふふ。そんなおっかなびっくりしなくても大丈夫ですよ」

「いやでも女の子は繊細に扱えってばっちゃんが言ってたから」


 よしこれでミッションコンプリート。

 あとは早々に立ち去るのみ。というか女子と会話するとか僕のキャパはもう限界です。


「それじゃ」

「ああっ!」


 立ち去ろうと思った所で急に声を上げる女子。

 もしかして今になってやっぱ訴えようとかそういう話?

 ではなかった。

 慌ててポケットを漁った彼女は真っ白いハンカチを取り出して僕に差し出した。


「鼻血出ちゃってます」

「え、あ」


 言われてツーっと鼻から垂れる感触に気が付いた。

 多分さっき本が顔に当たったせいだろう。


「これ使ってください!」

「よ、汚れるから」

「いいからつべこべ言わない。血が下に落ちちゃいますから」


 そう言ってあろうことかハンカチで僕の顔を拭きだした。

 ここからじゃ見えないけど真っ白いハンカチはみるみる赤く染まってしまった事だろう。

 それと僕の顔もハンカチに負けず劣らず赤くなってると思う。

 だって女の子に顔を拭かれてるんだぜ。信じられないだろ?

 頭の中で「綺麗な顔してるだろ?死んでるんだぜ」なセリフがリフレインしている僕は絶賛混乱中だ。


「あ、血は止まってるみたいですね。よかった」

「あ、あり、が、と」


 拭き終えてにっこり笑う彼女を見て、慌てて後ろに飛び退くと、足元にさっき落ちて来た本があった。

 拾い上げて表紙を見てみれば、それは辞書ではなく事典の類だった。


「『兵器大全』?」

「あ、それはその……」


 一瞬「ミリオタなの?」と聞きたくなったけど、グッと堪える。

 そういう趣味って人によっては秘密にしたいものだし、相手は女子だし。

 それになにより本物のオタクなら辞典などではなく外国のミリタリー雑誌だろう。

 つまりにわか、いやいや、何か理由があって調べ物をしてるだけと考えるべきだ。

 「何調べてるの?」と聞いて「良く聞いてくれました。それはね!」と聞いてもいない事をべらべら喋り出す女子も居るけど、今の反応からしてあまり聞かれたくない方だと推察。

 この間2秒。

 そんな話をするよりも、僕としてはこの空間から逃げ出したい。


「はい。その、歩きながらは、読まない方が良い、よ?」

「そうですね。気を付けます」

「じゃ」

「あっ」


 本を彼女に渡して颯爽とその場を逃げるように走り去る。

 角を曲がってようやく一息。


「ふぅ」


 急な女子とのエンカウントイベントは心臓に悪いから止めてもらいたい。

 それにしても兵器か。

 久しぶりにあのゲームやってみるかな。


 家に帰った僕はいつものエバテではなく、その前にハマっていたFPSゲームを立ち上げた。

 このゲームの特徴は何と言っても扱える兵器の多様さにある。

 ハンドガン、サブマシンガン、ライフルなどは当然として、バズーカや手榴弾などもある。

 極めつけは乗り物で、なんと戦車まであるんだ!

 ソロのキャンペーンモードだと敵に対地ヘリも出てくるけどプレイヤーは乗れない。あくまで地上戦を楽しむゲームって事だね。

 しかし二足歩行のロボットが無い世界では戦車っていうのはまさに陸上最強の兵器で、その大砲にかかれば防御陣地も簡単に破壊出来てしまう。防御力だって相当なものでアサルトライフル程度では表面に傷を付けるのが精々だ。

 もちろん、そんな戦車にも弱点は用意されてるんだけど。


「懐かしいな」


 格納庫で携行する装備を確認し終えた僕は早速サバイバルモードへと乗り込んだ。

 幾つかあるマップの内、今回選ばれたのは荒野の野戦跡。

 起伏の激しい荒野と、そこに点在する野戦基地を舞台に最後の1人になるまで戦うのだ。

 マップ内に降りたった僕は周囲を確認してすぐに近くの岩陰に隠れた。


 プレイ人数を見れば92/100。


 この短い時間の間に8人が退場したことを意味している。

 このマップで生き残るには、まずはすぐ近くに敵が居ない事を確認し、居れば早打ち勝負になる。

 ここでの勝ち負けはぶっちゃけ運。

 なにせ最初に向いてる方向とかランダムだし、偶然相手がこっちに背中を向けていたからトップランカーを倒してしまいました、なんて事も良くある話だ。


 現在のプレイ人数は80/100。


 次に倒されるのはこのマップに慣れていない初心者がほとんどだ。

 起伏があるとは言ってもマップの半分は遮蔽物の無い荒野。

 丘の上に立って周囲を見回してる人はどうぞ狙撃してくださいって言っているようなものだ。

 他にも。


「!」


 視界の端で動く影に気付いた僕は反射的にメイン武器のスナイパーライフルを向けて発砲。


タンッ!

【Kill がるっこ】


 不用意に動き回るとこうして撃たれる訳だ。

 かといってずっと同じ場所に留まっている訳にもいかない。

 なにせ時間経過と共にフィールドは狭くなっていく仕様だから。

 ただ移動する時もそれなりのコツと言うものは存在する。

 初歩的なもので言えば常に壁を背にして動くっていうのがあったりね。

 後は敵のスナイパーが隠れていそうな場所は逐一チェック。

 一昔前のゲームだと一定以上離れたら相手が視界に映らない、なんて事もあったそうだけど、今は2キロ離れていたって大丈夫だ。

 もちろん2キロ先の2メートル足らずの人影を視認できるかどうかはその人次第だけど。


「……よし」

タンッ!

【Kill Azoth】


 1キロちょい先の監視塔の上で銃を構えていたプレイヤーを狙撃。

 慣れれば着弾前に狙撃が成功するかどうかは何となく分かるものだ。

 よしよし。まだ腕は衰えていないらしい。

 と、その時視界の端にメッセージが表示された。


『From Azoth:やられたぜベルン。まさか帰って来てたのか』

『To Azoth:久しぶりに硝煙の臭いが嗅ぎたくなったんだ』

『From Azoth:はっはっは。お前が居ない戦場は緊張感が無くて困る。もっと頻繁に顔を出せ』

『To Azoth:善処するよ。っと、戦場で無駄話はご法度だ』

『From Azoth:違いない。また戦場で会おう!』


 先ほど倒したプレイヤーとは顔なじみだ。

 何度か協力プレイをしたこともあるし、逆に対戦で撃ち合った事もある。

 自分を倒した相手の名前は表示されるのでこうして連絡してきたんだろう。


 現在のプレイ人数は48/100。


 倒された52人の内、10人位は彼の狙撃の結果かもしれないな。

 彼は根っからの狙撃手だからこれでだいぶ動きやすくなっただろう。

 とその時。遠くから地響きが聞こえて来た。


ガタガタガタ……


 どうやら誰かが野戦基地に残されていた戦車を稼働させたらしい。

 このマップで早めに動く最大のメリットはこの戦車を手に入れる所にある。

 戦車さえ手に入れられれば上位2割には確実に入れるしそのまま1位になれる可能性もある。

 ……実際は良くて5位くらいだけど。

 僕はマップを開き現在位置から最も近い野戦基地に向かう事にした。

 野戦基地には戦車以外にもバズーカを始めとした特殊兵装が落ちている。

 何があるかは運だけど、普通にプレイするより優位に立てるのは間違いない。

 だから当然他のプレイヤーも野戦基地に集まることになる。


タンタンッ

タタンタタンッ


 野戦基地からは複数の発砲音が響いてきた。

 あの音はサブマシンガンとアサルトライフルだな。

 どちらも中近距離での銃撃戦の主兵装だ。

 市街地戦するなら絶対に持って行きたい武器だな。

 しかし僕の手元にある主兵装はスナイパーライフル。サブでハンドガンとナイフもある。

 要するに正面から撃ち合うのは無謀だということ。

 ならどうする?ってそんなの決まってるよね。


「っ!」

タンッ

「ぐぁっ」

【Kill べっつぁん】


タンッ

【Kill スミス様】


タンッタンッ

【Kill ごりあて】

【Kill Amandon】


 建物の影や曲がり角を利用して待ち伏せし、出会い頭に脳天に一発。

 残りHPに関わらず頭は即死判定だ。 

 心臓は防弾チョッキを装備している可能性があるのでハンドガンでは心もとない。

 そうやって野戦基地を占領した僕は既に他のプレイヤーによって色々と物色された格納庫からお目当ての兵器を回収した。


 現在のプレイ人数は12/100。


 さあいよいよ佳境だ。

 戦車は健在。他にもジープと思われるエンジン音も遠くに聞こえる。

 乗り物に乗る最大のデメリットはやっぱりこの音だよね。

 無人機は存在しないので確実にそこに誰かがいるって分かるんだから。


「じゃあボチボチ戦車には退場してもらいましょうか」


 現在位置と戦車のキャタピラ音、そして残りフィールド範囲から考えて経路を考えれば……ここだな。

 僕は当たりを付けた箇所と他に幾つかトラップを仕込み近くの建物の屋根の上で伏せた状態で待機。

 少ししてやってきた戦車は僕の予想通りのコースを走ってきた。


ガタガタガタ……

カチッ。ドドドーーーン!!


 火柱と共に爆砕される戦車。当然搭乗員も一緒にゲームオーバーだ。

 うんうん。何度見ても対戦車地雷による花火を見るのは楽しい。

 普通はこんなに派手じゃないんだけどこれもゲームの演出ってことだよね。

 運営いい仕事してる。

 ちなみに今回は無かったけど、他にも戦車を破壊しようと思ったら、対戦車ライフルとかロケット弾とか果ては対戦車ミサイルなども野戦基地に落ちている場合がある。

 要するに戦車は慣れている人からしたら格好の餌ってことだ。


「さて残りプレイヤーは3人。

 おっと、戦車が破壊された音に惹かれて顔を出したら危ないよ。

 これで2人」


 あっちの建物が臭いな。

 対戦車地雷には幾つか使い方があって、さっきみたいに直接戦車に踏ませるほかにも色々できる。

 あまり知られてないみたいだけど。


タンッ。ドドドーーーン!!

「ぎゃあああっ」


 僕のライフル弾が仕掛けておいた地雷に命中し、大爆発。爆炎は隣の建物を包み込み、中に隠れていたプレイヤーをあぶり出した。


ダダダッ

「おっと、他の人に倒された。でも欲を出したらダメじゃないか。

 折角隠れていたのに」


 目の前にぶら下げられた獲物に釣られて僕に位置を教えてしまった最後の一人を壁越しに撃ち殺して終了。

 リザルトは文句なしにランクS。

 やっぱり偶にはこういう肌がひりつく臨場感を味わうのは良いものだ。



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