4.たまにはのんびり町探索?
お読みいただきありがとうございます。
再びの主人公視点です。
なお、この先の投稿は1日か2日おきになる予定です。
主人公視点→ヒロイン視点→その他視点
で1セットなので、極力このセットは近い間隔で投稿していきますが、次セットまでは若干間が空く事があります。
なにせ3話で15000文字前後ですから・・・
朝、僕は教室の机に突っ伏しながら昨日の事を反芻していた。
(はぁ。昨日だけで僕の一生分の気力を使い果たした気がする)
やっぱり陰キャな僕が女の子と仲良くなろうとしたこと自体が間違っていたのかもしれない。
ちらっと横目で工藤さんを見れば昨日の事なんて無かったかのように友達と楽しくおしゃべりしている。
当然僕の事なんて眼中に無いだろう。
昨日の昼は初めて距離が近づいたかも、なんて浮かれてたのに、今では見えない壁が出来ているような気さえする。
少なくとももう二度と仲良くなることは出来ないんじゃないかな。
(はぁ~~)
しかもその後気晴らしにボスで死にに行こうと思ったら邪魔されるし。
リアミンさんと名乗った鬼族の女の子。
彼女が僕の後を付いて来ているのは街を出てすぐに気が付いていた。
向こうに隠れようとする様子が無かったし、転生したとはいえ僕はずっと広域殲滅魔法を得意としてきたから空間認識には自信がある。例え後ろであってもある程度は把握できるんだ。
てっきり2期生を装った初心者狩りかなとも考えたけど、周りに人が居なくなったところで速度を緩めても襲ってくる気配はなし。
まあ放置していても害は無いかと思ってたんだけど、自分が向かう場所は初心者には厳しい場所だった。
なので向こうにモンスターが行かない様に適宜壁魔法を放ってモンスターの気を引きつつ、やって来たモンスターは壁の下敷きにして倒していった。
あ、僕の壁魔法はどうやら転生前に使えていた全属性を使えるみたいなんだ。
なので土属性で岩を生み出して、その上に風属性の壁を生み出して風圧で吹き飛ばすことで、まるで土魔法のストーンバレットのようにモンスターを潰すことも出来る。
でもボス領域に僕一人で入ると彼女を一人でその場に残していく事になるので仕方なく話しかけたんだけど、まさか一緒にボス討伐をすることになるとは思わなかった。
いや、転生前には何度かあったんだ。偶然居合わせた人と即席パーティーを組んでボスに挑むっていうのは。
その際には僕一人で全部倒してしまわない様にってサポートに回ることにしてたし、その人達も無事に楽しくそれなりに手ごたえを感じつつ勝てて喜んでくれていた。
ただ今回は死ぬのが目的だったのに、彼女まで死なせる訳にはいかないから結局普通に倒してしまった。
まあ彼女が言ってた通り、彼女が居なくても無意識にいつも通りボスを倒していた可能性はあった気がするけど。
それでもね。
普通ならそこで、はいさようならって解散するのが今までだった。
まさか今後も一緒に行動することになるなんて思ってもみなかった。
最初は工藤さんと一緒にプレイ出来るんだなって思ってたのにどうしてこうなったんだろう。
やっぱり女子の心は僕には難解すぎる。
それはともかく、やって来ました転生後のエバテ2日目。
リアミンさんは……まだログインしてないか。
それもそうだよね。
昨日の身のこなしから考えてリアミンさんはゲーム初心者って感じだったし。
僕みたいな空いてる時間は全部ゲームに使う人種とは住む世界が違う。
でもそうなると何をしようか。
彼女が居たら一緒にレベル上げしたり昨日の続きで戦闘の指南をするのもありかと思ってた。
でも僕だけレベルを上げてしまうと、レベル差による経験値配分に影響が出てしまうからそれは避けないと。
だから街の外に行くのはお預けだ。
「……よし。散歩しよう」
以前は街の探索そっちのけでひたすら先に進むことに注力してたからね。
それで行き詰まったらレベル上げとか街のクエストを消化していこうと思ってたのにほとんど止まらずにあの神殿まで行けてしまったんだから嬉しいやら困るやらだ。
ともかく方針が決まったので宿を出た。
「急ぐでも無し、普通に歩くか」
昨日は足裏の地面をツルツルの壁に加工しつつ踵からつま先に向けて波立たせることで滑るように移動してたんだけど、今日はその必要もない。
のんびりゆったり歩きながら街の探検と洒落こもう。
そうすることで色々と見えて来るものがある。
例えば。
「こっちの家とそっちの家で壁に使ってる石の材質が違うなぁ」
とか
「この隙間なくぴっちり嵌められた石畳はプロの仕事だな」
とか
「うわっ。この罅はちょっと大きすぎるな。これじゃあ地震が来たらすぐに崩れちゃうぞ」
とか
「この柱は見た目大丈夫だけど中はボロボロっぽい」
「あらあなた。柱を見てなにをしてるのかしら?」
ジッと柱を調べてたらこの家の人と思われるオバサンに声を掛けられた。
「あのこの柱壊れる寸前っぽいんですけど、修理してもいいですか?」
「あらあら。修理できるのならぜひお願いしたいわ。
そうだわ。ついでに母屋の方も全部全部ぜ~んぶお願いね!」
「は、え?」
『隠しクエスト【始まりの町のアステル神殿を修復せよ】を受注しました』
……勢い余ってクエストまで受注してしまった。
しかも僕は最初に目に付いた柱だけを修復しようと思ってたのに、いつの間にか建物すべてを修復することになってしまった。
というかここ、神殿だったのか。
壁と柱ばかり気にして本体を見てなかった。
ま、女神アステルには転生の時にもお世話になったし、これくらいは恩返しのうちかな。
そうと決まればまずやることは建物全体を見て回ることだ。
『大きい仕事をする時、リーダーはまず全体を俯瞰してみるべし』
って何かの本で読んだ気がする。
まあ今回はリーダーもメンバーも僕だけなんだけどね。
兎も角まずは外周をぐるっと回って損傷具合をチェックしていく。
「ここは大丈夫。
こっちは、マズいな。土台を修復したらそのはずみで崩れそうだ。
げげっ。ここなんて既に崩れてるし。こういう所から鼠が侵入したりするんだよな」
「あの、そんなところに這いつくばって何をしてるんですか?」
「この穴の向こうに鼠の巣が出来てないか確認してるんだ」
「また妙な事を始めたんですね」
「……ん?」
僕は誰と話をしてるんだろう。
這いつくばったまま振り返ってみれば、そこにあったのはすらりとした白い足。
そして更にその上には。
「……どこを見ようとしてるんですか?」
「いや、リアミンさんの顔をね」
スカートを抑えながらジト目で僕を見るリアミンさんが居た。
惜しかったと言うべきか、その後の気まずい時間を考えれば見えなくて良かったと考えるべきか。
ちなみに全年齢対象ゲームなので仮に覗き込んでもスパッツが見えるだけだ。
と、それはともかく。
「こんにちは、リアミンさん。今日は私服なんですね」
「はい。ここに来る途中に着替えてきました」
「落ち着いた色合いが凄く似合ってますよ」
「えへへ。ありがとうございます」
よし。今のやり取りは花丸100点じゃないだろうか。
先日読んだ『はじめましてから始める恋愛講座』に「女性と会ったらまず何か褒めろ。初対面なら髪でも指でも名前でも、2回目で服装が前回と違うなら服を。出来る事なら具体的にここが良いっていう言葉を添えて!」とあったから実践してみたけどうまく行ったようだ。
「それで、どうしてここに?」
「はい。どこかの誰かさんが街中で家の壁を触りながらうんうん唸ってたという情報を得ましたので」
「ええ~。一体誰がそんなことを?」
「結構大勢見てたみたいですよ」
そうだったのか。
始まりの町で初心者装備のエルフなんてありふれてるから気にもされないと思ってた。
今後はもうちょっと人目を忍んで行動することにしよう。
「……たぶん無理だと思いますけど」
ジト目でため息をつくリアミンさん。
お願いだから僕の心を読まないで欲しい。
「でも良かったです」
「ん?何が?」
「ベルンさんが普通に会話してくれてるのが、です。
昨日は大分たどたどしかったので」
「うっ。ごめん。慣れない内はどうしても上手く喋れないんだよね」
「その割にはモンスターの討伐方法を説明する時などは活き活きしてましたけど?」
「あれはほら。得意分野だし。
あっ、もしかして僕一人で喋りまくってて煩かった?」
「いえそんなことは。私も聞いてて楽しかったですし」
「なら良かった」
僕も経験あるけど、興味のない話を延々と聞かされるのって苦痛だからね。
リアミンさんがそうじゃないと知れたのは良かった。
今後も一緒に活動するなら同じような場面は今後もあるだろうし。
「それで今日はどうしよっか?」
「はい?鼠探しをしてたんじゃないんですか?」
「いややってたのはこの建物の修復。その下準備ってところ。
でも今日中にとか急ぎの案件じゃないし、リアミンさんが来たならギルドでクエスト受けたりレベル上げに行くのもありだよ」
「そういうことでしたら修復のお手伝いをさせてください」
「良いの?多分力仕事とか掃除とか面白くない作業ばかりだよ」
「良いんです。
昨日はベルンさんの邪魔をしてしまいましたし、それに掃除とかも誰かと一緒なら楽しいじゃないですか」
「そう、だね」
リアミンさんって、なんていうか育ちが良いんだろうな。
昨日だって僕の言葉を聞いて心配になって後を追ってきてくれたらしいし。
「よし、じゃあやりますか!」
「はい!」
「あ、でも」
「はい?」
ふと思ってしまった。
これ2人でやっても厳しくないかな。
更に僕と彼女だと担当分野が違い過ぎて結局別々に作業することになりそうだ。となると一人で作業してるのと気分的に違いがない。
それじゃあ詰まらないだろう。
「えと、リアミンさんさえ良ければ他の人にも声掛けようかなって思って」
「ベルンさんのお友達ですか?」
「でもないんだけど。というか、どんな人が来るかは未知数なんだけど呼んでも良い?」
「私は、はい。大勢でやった方が早く終わるでしょうし」
よし、そうと決まれば早速僕はゲーム内掲示板に書き込みをした。
【急募:始まりの町の神殿修復要員。先着30名】
依頼人:ベルン
必須スキル:なし
あれば尚良:土魔法や建築関連のスキル、または治療系のスキル
作業内容:柱や壁の修復、がれきの撤去および室内清掃
報酬:一律1時間1万ジェニー(サボってるだけの人は減給)
募集人数:先着30人
開始時間:今から10分後
予定時間:1~2時間
その他:
修復対象は女神アステルの神殿です。
徳を積むと将来的に良い事が起きる可能性があります。by『女神アステルの寵愛』所有者。
また希望があれば僕の知っているスキルの使い方をレクチャーします】
さてこれで掲示板見てる人は反応してくれ、るって。
一瞬にして枠が埋まったんだけどどうなってるんだ。みんな暇なのか?
そして通りの向こうから砂埃を上げて駆け抜けてくる一団が見えた。
でもおかしいな。30人しか募集してないのに、明らかに100人超えてる。
「掲示板見てきました!」
「ぜひベルンさんのお手伝いをさせてください」
「あの募集人数にあぶれたんですけど、給金なくて良いんで参加しちゃダメですか?」
「お、おう」
凄い勢いだ。なんでこんなにみんなやる気なんだろう。
しかも見たところ2期生だけじゃなくて1期生も混じってる。
給金の1万ジェニーっていうのは2期生にしてみればそれなりに美味しい仕事だけど、1期生にとってはぶっちゃけ小遣い程度だ。
僕の預金残高も億超えてるし。
それよりこの集まってくれた人を何とかしないと。
「えっと皆さん。集まってもらってありがとうございます。
やってもらいたいことはこの神殿の修復です。
スキルの有無によってやってもらいたい作業が違います。
土木系、治療系スキルのある人は僕の所に残ってもらって、それ以外の人はそちらのリアミンさんの指示に従ってください。
リアミンさん。神殿内部にある瓦礫やゴミを外に出して中の清掃をお願いします。
何がゴミなのかは神殿の人に聞けば分かると思います」
「わわ、分かりました」
「急に振ってごめんね。
で、残った人はまずは僕と一緒に修復ポイントに向かってやり方や手順をレクチャーするので、それを見て神殿の各所に散らばって修復を行ってください。
MPが切れたら言ってくれたらポーションを渡します。
それで募集にあぶれてしまった方々なんですけど、すみません。
僕が面倒見切れないのと神殿もそれほど広くないので人が多すぎても身動きが取りにくいんです。
なので折角集まってもらったのに申し訳ないのですが一度解散してください」
僕の言葉を聞いて多くの人たちが肩を落としてしまった。
うーん、折角集まってもらったのに本当に申し訳ない。
何か補填が出来れば良いんだけど……そうだ。
「あ、その。今後も同じように募集を掛ける事があると思うので、その時は優先して採用させて頂きます。
あともし時間があるなら2時間後にまたここに来てくれたら参加してくれた方にするレクチャーと同じものをお伝えさせて頂きます」
「「おおおおぉ~~~~」」
下がっていた肩が飛び上がる勢いでみんな喜んでくれた。
よし、じゃあ手早く、だけど丁寧に神殿の修復を終わらせようか。