5.私って巻き込まれ系女子?
朝、私は教室の机に突っ伏しながら昨日の事を反芻していた。
(はぁ。昨日だけで私の一生分の戦闘をやった気がする)
元々よく言えば大人しい悪く言えば根暗な自分を変えたくてエバテを始めた私です。
運動神経はそれほど良くは無いですし、もちろん荒事に関わった事も一度もありません。
でもゲームの中ならモンスターとの戦いも頑張れるかもしれない。
そうすれば楽しく明るい自分になれるかもしれない、なんて期待をしてました。
でも実際には最初のモンスター(ボスだったんですけど)に襲われそうになって怖くて動けなかったんです。
「はぁ~~」
「つんつん。おーい、どしたの?」
盛大なため息をついた私の頭を突くのは中学校からの友達のみやびさんです。
私とは対照的に明るくて人当たりの良い彼女はクラスでも人気で私以外にも友達は大勢いるはずなんですが、よくこうして私に構ってくれます。
私にとっては数少ない友達であり良き理解者です。
「えっと、昨日ようやくエバテを始められたんですよ」
「うん、そうだったね」
「そこで知り合った男の子とモンスター退治をしていた、させられた?のですが大変だったんです」
「わたしは亜美が初日から男の子と仲良くなってることに驚きだけどね」
「何というか放っておけない感じだったんです」
「お、一目惚れかな」
みやびさんが目をキラキラさせてます。
そう言えば彼女、少女漫画とか恋愛小説が大好きでした。
でも残念。少なくとも私は見た目の良し悪しよりも性格を重視したいのでゲーム内でいかにイケメンでも気にしません。どうせ作られたビジュアルですからね。
「そう言うのじゃないんだけど、その人に戦い方をレクチャーしてもらったんだけど、厳しくて」
「え、亜美がそう言うってことは相当なスパルタだったんだね」
あれ、確かにスパルタでしたけど、私厳しかったとしか言ってませんよ?
普通私みたいなか弱い女の子が厳しいって言ったら体育会系のノリくらいで、苦行みたいなレベルは想像しないと思うんですけど。
ちょっと私の事どう思ってるのか聞いて見たくなってしまいました。
「ほら私って地味で大人しいでしょ?」
「んにゃ」
「自分から積極的に行動することも無いですし」
「そうだっけ?」
「……」
「……」
「みやびさんは私をどういう人だと思ってるんですか?」
「一緒に居ると面白い子、かな。
大人しいかと思えばみんなが躊躇するところに飛び込んでいくし、正義感もあれば母性のような面倒見の良さもある。
それでいて肝心なところでドジするけど好意の結果だからみんな笑って許してしまう、そんな素敵な女の子よ」
「あぅ」
みやびさんは突然私をべた褒めしてくるので侮れません。
しかも茶化してるとかではなく真面目な表情で言ってくるので冗談だと流すのも難しいんです。
そういう真っすぐな所が友達が多い理由なのかもしれないですね。
「おまけに先月行われた学年別お嫁さんにしたい女子ランキング2位よ」
「え、そうなの?というか、そんなのいつ行われてたの?」
「まあ、やってたのが男子だけだからね。
ちなみに1位は3組の中島さんだったわ。
ほか彼女にしたいランキングの1位は2組の工藤さんで2位はわたしよ」
「みやびさんもしっかりランクインしているのは流石ですね」
「ありがと。
ま、それはともかく、その男の子とは仲良くなれそうなの?」
「どうでしょう。昨日会ったばかりですから」
もしかしたら強引に迫り過ぎて嫌われてしまったかも。
いや、あの帰りのスパルタ特訓を考えればそれは無い気がします。
お陰で昨日だけでレベルが17まで上がってしまいましたから。
そして学校も終わり帰宅後、少し早めの夕食を終えてからエバテにログインしてあの人は……居ますね。
昨日見た感じ本腰でゲームをしてる、所謂ガチ勢だと思いますし、他の用事がない時はずっとインしてるのかもしれません。
つまり私が見てないところでまた死にに行ってたりするかも知れないんですね。
なんて危なっかしい。
それで今は何処に居るかと言えば、意外な事にこの町の中に居るみたいです。
てっきりずっと先まで進んでるのかと思っていたのに。
ただフレンドリストを見ても具体的な位置までは分かりません。
冒険者ギルドに行っても居なかったので仕方なく地道に探して、いえ、人に聞いて回った方が早いですね。
このゲームは所謂ロールプレイングゲームですし、人との交流も立派なプレイです。
と言うわけで広場で鳥にエサをやっていた男性(これもこの人のプレイスタイルなんでしょうか)に声を掛けました。
「あの、ベルンさんっていうエルフの男性を見ませんでしたか?」
「エルフのベルンっていうと、ベルン様の事か?」
「ベルン、様?」
え、ベルンさんって有名人なんですか?
いや、あの人の場合、変な意味で有名人な可能性が高そうです。
「えっと、その人かは分からないですが、変な行動をしてる人です」
「あぁ、ならベルン様で間違いないな」
(間違いないんだ)
「それで君は……あぁ。そっか。うんうん」
なにか納得してるようですが、なんでしょう。
「あの、なにか」
「いやごめんごめん。
ベルン様なら少し前にそっちの家の壁を眺めながらうんうん唸ってたぞ」
「はい?」
何ですかそれ。
どうやら自殺を図っている訳では無さそうですが、やっぱり変な行動をしてるみたいです。
「それで何処に行ったかわかりますか?」
「えっと、そうだな。たしか西の商業区の方に向かっていったよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「おう、頑張れよ」
なぜか応援されつつ向かった商業区には、ベルンさんとおぼしき人影はありません。
代わりではないですが、お洒落な服を着た人がちらほら見受けられます。
どうやらこの辺りは衣服や日用品を扱ってるお店が多いみたいです。
私の今の服装はと言えば、最初から着ている地味なズボンと上着。
冒険者としては悪く無いんでしょうが、街中を歩くならそれらしい服を着たいですよね。
ということで、ちょっとそこのお店で私服に着替えて行きましょう。
予算なら昨日のモンスター退治でそれなりにありますし。
そうして着替えた後もベルンさんの姿はないので仕方なくまた近くの人にベルンさんを尋ねたところ、
「ああ、君が。ベルン様なら石畳を眺めながら北区に歩いて行ったよ」
なんでしょう。
ベルンさんの名前と一緒に私の噂も流れてるのかも。
まあ今は気にしても仕方ないのでそのまま移動します。
更に北区で、
「ベルン様は神殿のおばちゃんに捕まってたぞ。
そのあと神殿の裏庭の方に向かってたから行ってみるといい」
「ありがとうございます」
「頑張れ。応援してるぞ」
「は、はい」
んん?何を応援されてるんでしょう。
まぁいいです。
今はとにかくベルンさんです。
えっと、何処に居るのかな、あ、居ました。けど。
地面に這いつくばって壁の穴を覗き込んでます。
「何をしてるんですか」
ベルンさんは私の声を聞いて這いつくばったまま振り向いて私を見上げ……
「!?」
慌ててバッとスカートを押さえました。
み、見えてないですよね?
ベルンさんも男の子ですから視線には気を付けないと行けません。
そして改めて話を聞いてみたところ神殿の修復を頼まれたそうです。
成り行きで私も手伝うことになりました。
それは良いんですけど何故か私が手伝いに来てくれた人達の纏め役に抜擢されてしまいました。
というかベルンさん普通に指示出してるし。
あれですか、土壇場になったら本気出すみたいな感じですか。
「あの姉御。俺達は何をすれば良いでしょう」
「姉御、ご指示を!」
私の所に集まって来た人たちが私をよいしょします。
私なんて急にベルンさんに押し付けられただけのただの女の子なんですから別に凄くも何ともないですよ。
あと見た感じほとんどの人が1期生だからどちらかというと私が妹なのですけど。
「あ、えっと、まず私はリアミンです。
決してあなた達の姉ではありません」
「「分かりました。リアミンの姉御!」」
いや分かって無さそうです。
訂正も、難しそうですね。
仕方ないのでこのまま行きましょう。
「えっと直接的な壁や床の修復はベルンさんのグループに任せて、私達はまず邪魔な瓦礫の撤去を行って修復班が活動しやすいようにします」
「「はい」」
「あ、こういう所にありがちな謎のオブジェは、実は重要なモニュメントでゴミじゃなかった、なんて可能性もあるそうなので、逐一神殿の人に確認しながら行って下さい」
「「分かりました」」
「撤去したものは一度向こうの空き地に集めます」
と、私がこっちに抜擢されたのって爆弾魔法で瓦礫を破壊することも含まれてるからですよね。
「あと、撤去したゴミや瓦礫を焼却したり破壊するスキルがある人は申告してください」
「え?」
「は?」
「……?」
私の言葉になぜか疑問符が飛び交いました。
何か変な事を言ったでしょうか。
お互いに首を傾げているとおもむろに一人の男性が手を挙げました。
「あの、ゴミを焼却するスキルって何ですか?
瓦礫を破壊するスキルってのも聞いたことが無いんですけど」
えっと?
どういうことでしょうか。
「あの、例えば火炎系の魔法が使える人は居ますか?」
「私使えます。けど」
「その魔法をゴミの山に放てば焼却出来ますよね」
「え、無理じゃない?攻撃魔法はモンスターしかターゲティング出来ないですよ?」
「そうなんですか!?じゃあもしかして他の人も?」
「「うんうん」」
そんな馬鹿なと言いたくなるところですが、1期生みたいですしこのゲームでは彼らの方が先輩です。
つまり彼らの考え方がこのゲームにおける常識、なんですけど。
私の基準はベルンさんです(あの人が常識からかけ離れてるのは何となく分かっていますが)。
その基準で言うとこのゲームに【攻撃】魔法という魔法は無いと思うんです。
なにせ普通に考えれば明らかに防御魔法の壁魔法で戦ってるのがベルンさんですから。
だから火炎魔法だってモンスター以外にだって使えるはずです。
でもそれを口で説明するのは難しいかも。
「分かりました。では焼却云々は後回しにしてまずは手分けして瓦礫や不要なものを集めましょう」
「「はい!」」
彼らを納得させる方法を考えながら、まずは瓦礫を集めてもらいました。
すると30分と掛からずに集まる大量の瓦礫とゴミの山。
やはり人手が多いと楽ですね。これを私とベルンさんだけでやってたら何日掛かった事か。
「あの、大体集め終わりました」
「ありがとうございます。では次の工程に移りましょうか。
その為にはまず、先ほど火炎魔法が使えるって言ってくれた方、手伝ってください」
「はい。何をすれば良いですか?」
「私と決闘してください」
「ええ!?」
驚くその人をそこに置いて私はゴミの山の反対側に陣取りました。
「ルールは、お互いにその場から動かないで魔法の撃ち合いです。
試合時間は10秒で引き分け。良いですね?」
「あの、撃ち合いって言っても間にゴミの山があるんですけど」
「はい。放った魔法はゴミの山に当たると思いますが気にせず撃ってください。
あ、出来れば威力は抑えめでお願いします」
「わ、分かりました。(威力?え?初級魔法でいいのかしら)」
「では開始です」
「えっとぉ……【火弾】」
恐る恐るって感じで放たれる火魔法。
それは狙い外さず私に向けて一直線に飛び、ゴミの山に当たりました。
「あっ」
「「おぉ!」」
燃え上がるゴミの山を見てみんなから感嘆の声が上がりました。
その間に10秒が経って決闘は終了。
でも私が伝えたいことは無事に伝わったと思います。
「分かりやすく私をターゲティングしてもらいましたけど、例えば単純に前方に真っすぐ魔法を放つって事も出来ると思うんです」
「え、でもそれじゃあ避けられちゃうんじゃ」
「見ての通り、今回の相手は動かないゴミの山ですよ?」
「で、ですよねー」
「ちなみに火炎魔法だけじゃなく他の魔法やスキルも同じように応用が利くはずです。
その証拠にあれ見てください」
私が指差した先ではベルンさんの指導の下【ストーンバレット】で生み出した石で壁に空いた穴を塞いでいました。
更に別の人がそこに手をかざして何かの魔法を唱えると、石の輪郭が溶けるように周囲の壁と結合されてしまいました。
どうやら魔法で生み出しただけだと時間で消えてしまうので、追加で加工することで消えなくしてるみたいです。
私の周りに開いた口が塞がらない人が量産されてしまいましたが、昨日までの私だったら彼らと同じようになっていたと思いますので咎められません。
でもお陰でようやく既成概念が取り払われたみたいなのでテキパキ作業が進みますね。
「さあ、こちらも続きをやりましょう。
瓦礫の破壊が出来そうな人はここをお願いします。
風魔法が使える人はそれで埃をかき集めてください。
水魔法が使える人はそれでバケツに水を汲んで机や床、窓など拭いてください。
魔法の水は時間で消えると思うので乾拭きする手間が無くて良いですよね」
「「確かに」」
そんな感じで役割分担を決めつつテキパキと作業が進んだお陰で、無事に開始から1時間半で全ての工程を終えることが出来ました。
「みなさんお疲れ様でした」
「「お疲れ様でした~~~!!」」
皆で揃って終了の挨拶。こういうの声が揃うと気持ちいいですよね。
そしてそれと同時にシステムメッセージが届きました。
『称号:【女神アステルのまなざし】を獲得しました』
女神のまなざしって。
説明文には「女神はあなたの善行を見ています。町の住民からの好感度に若干の+補正」とあります。
見られてるのはどうかと思いますが、この効果は地味に嬉しいですね。
他の人達も同じように称号が獲得出来たみたいで盛り上がってます。
「リアミンの姉御、ありがとうございました!」
「俺、初の称号だよ。姉御万歳!」
「あたしも!!」
「あ、はは。お礼ならベルンさんに言ってくださいね。
私は皆さんと同じように手伝っただけなんですから」
言っても皆のテンションじゃ聞いてない気がする。
完全に姉御呼びが定着しちゃってるし。
ベルンさ~ん。責任、取って下さ~い。




