22.ミッション:落ちて来たボスを爆殺しろ
ベルンさんと別れた私は東門を出たところで大勢のプレイヤーに迎えられました。
「待ってたぜ姉御!」
「何でも言ってくだせぇ!!」
「あのボス野郎をシバキ倒してやりやしょうや」
……いやいや、ちょっと待ってください。
ノリが何故かヤクザの女幹部を迎えるときのそれみたいになってるんですけど。
違いますからね。私は一般人ですから。ベルンさんとは違うんですよ。ベルンさんとは。
「えっと、皆さん。私の書き込みを見て集まってくださったんでしょうか」
「「はい!」」
この場にざっと1000人近く居るんですけど。
無名と言って間違いない私なんかの呼びかけにこんなに集まってくれるなんて驚きです。
ベルンさんが、
『お祭り好きな奴が100人くらいは集まると思うから頑張って』
って言ってくれてたんですけど、その10倍くらい居ます。
え、この人数の指揮を私が執るんですか?
無理に決まってるじゃないですか!!
それでも何とか回さないと。
「まずは呼びかけに応じて下さりありがとうございます」
「「……」」
私が話しかけると一気に周囲から話声が消えました。
全員が私の次の言葉に集中してます。
ううっ、プレッシャーで胃が。
「先に言っておきますが、私は皆さんに対し細かく指示を出すことは出来ません。
皆さんにはその場その場で臨機応変な対応をお願いします。
またこれからお伝えする作戦が成功しても、ボスの討伐が出来るかは分かりません。
だけどあのボスに一泡吹かせるくらいは出来るでしょう」
「十分だ!」
「あの上から野郎をぶん殴ってやろうぜ」
皆さん、鬱憤が溜まってるように見えます。
やっぱりこちらの攻撃の届かないところから一方的に痛めつけられるって状況が癪に障るんですね。
私も同じことをされたらイラっとする自信があるのでよく分かります。
「では今からベルンさんと話してきた作戦内容を伝えます。
まず上空班をベルンさんが、地上班を私が率いて進む訳ですが、上空班は先に高度を取る必要があるので、私達地上班が先行します。
ボスの真下よりも少し手前まで行く必要があるのですが、これに関しては具体的な作戦はありません。
力技で邪魔なモンスターを討伐しながら全速力で移動します。
ただその、出来ればどなたか私の護衛に付いて頂けると助かります。
なにせ私、2期生ですから中ボス級に狙われたら勝つ自信はありませんので」
「任せてくれ。姉御には指一本触れさせないぜ!」
「ベルン様ほどではないが、俺達だってトップ攻略クランのメンバーだからな」
「邪魔する奴は私の魔法で炭にしてあげるわ」
そう言ってくれたのは以前、神殿の修繕の時に一緒に居てくれたお姉さんです。
何とも心強い皆さんです。
「それで目標地点に到着後なのですが、上空班がボスを叩き落すまでに、私が地上にトラップを設置します。
その間は更に私は無防備になりますし、出来れば勝手にトラップが発動しない様に、一切モンスターを近づけさせないでください。
無事にボスが地上に落ちてきて、私のトラップが発動した後は全員でボスをフルボッコにしちゃいましょう。
……という感じで、策と呼んでいいのか怪しいくらいかなり強引な作戦なんですけど、良いですか?」
「「…………」」
自分で言ってて、これだけ人を集めた割に作戦内容がただの力技っていうのが申し訳なくなってきました。
そこへ集まった人の中から手を挙げた人が居た。
「あの、要するにですよ」
「は、はい」
「俺達は目標ポイントまで姉御を護送し、到着後は一定時間護り抜けばいいって事で合ってますか?」
「そうですね。そうなります」
「上空班が失敗したらどうなりますか?」
「その時はこちらも諦めて解散になります」
「つまり、この作戦が成功するかどうかはベルン様次第、なんですか?」
「はい」
「え、じゃあ俺達が失敗しても結果には影響ないって事?」
それを聞いて皆がざわざわとし始めました。
実は居ても居なくてもどっちでもいいって言われたらやる気が無くなりますよね。
でも今回はそうじゃないんです。
「えっと皆さん。
ベルンさんは私に言いました。
『僕だけじゃ勝てないから力を貸して欲しい』って。
つまり今回は私達こそがボスを倒す主戦力だって事です」
「え、そうなの?」
「ベルン様の実力なら1人でもボスを倒せそうだけど」
「そういえば先日転生したって話だから攻撃力もかなり落ちてるんじゃないか?」
お、ちょっとやる気が回復してきた感じがあります。
これならもう一押しすれば大丈夫かも。
「頑張ればベルンさんは最初の一撃が終わったらお役御免で、私達がボスを倒すのを指をくわえて眺めててもらうことだって出来ますよ。
つまりベルンさんには私達の引き立て役になってもらう訳です」
「今まではエバテと言ったらベルン様って感じだったけど、これからは俺達の時代ってことか」
「2期生も入って来たしな!」
「いっちょ近接物理もやれるって事を証明してやるか」
うーん、こういうのを民度が高いっていうんでしょうか。
普通これだけ集まったらネガティブ発言したり他人の足を引っ張ろうって人が一定数出そうなものですが、こうして見てるとほとんどの人が前向きに頑張ろうって自発的に動いてくれます。
お陰で一緒に居る私も元気を貰えている感じです。
「では皆さん、行きましょうか!」
「「「おおーーーーっ」」」
私の号令と共に全員が腕を振り上げながら前進を開始しました。
ちらりと北の空を見てもここからじゃベルンさんがどうなってるかは分かりませんね。
まぁ今は信じて突き進むだけです。
それにしても。
「すごっ」
数の力というのは偉大です。
私を中心に紡錘陣形となって突き進んでいるのですがぶつかったモンスターがあっという間に撃破されていきます。
もちろん数だけじゃなく質も高いんですけどね。
「おらおらおらおらっ」
「邪魔だ。ぶっ飛べ~~」
「パラリラパラリラ」
「姉御のお通りだ!道を開けろ~~~」
若干名、暴走族になってるのですが、もしかして現役の方々ですか?
頼もしいのでありがたいのですが、深夜の暴走は控えてもらえると助かります。
なんて言ってる場合じゃないですね。
私も私のやるべきことをやらないと。
今の私のやることは、まず第一に死なない事。
そして上空のボスの位置と移動方向、速度から計算して目標地点を見定める事です。
「そろそろボスの攻撃範囲に入るぞ!」
「姉御。上からの攻撃は防ぎきれないんですが大丈夫ですか?」
「はい、それくらいなら大丈夫です!」
ズドドドッ!!
言ったそばから上空のボスから攻撃が降り注いできました。
なるほど、これは。
1つ1つは即死するほどの威力ではないですが、無視することも出来ません。
地上のモンスターも相手にしないといけないのでものすっごく邪魔です。
私は体力高めのキャラだから良いですけど、ベルンさんみたいにHP低い人は大変そうです。
私達はHPポーションを飲みながら進み続け、ようやく目標地点に到着しました。
「みなさん。ここで止まってください!」
「「はいっ」」
「手筈通り私はこれからトラップを仕掛けますので防衛をお願いします」
「「了解!」」
「蟻の子1匹通さねえぜ!!」
気合の入った返事に頷きながら私はベルンさんにチャットを送りました。
『ベルンさん。こちらは作戦ポイントに到着しました』
『了解。こっちはもう少し到着まで掛かりそう』
北の空を見上げれば、雨雲の下を大勢の人が走ってるのが見えます。
と言っても遠すぎて点の集合にしか見えないんですけど。
「おらぁっ」
「ちっ。ボス付近は中ボス級ばっかかよ」
「こことは別に前線にもボスが出たってよ」
「まさか2匹目か!?」
「いや、そっちは地上型の普通の奴らしい」
皆さん、掲示板を確認しながら戦ってるんでしょうか。もしくはチャット?
付近には2メートル級のモンスターがゴロゴロ居るのに、よくそんな余裕がありますね。
いや、1体倒すのに結構時間掛かってるし、戦力的な余裕はそんなにないのかも。
1体1体が強いのにモンスターの数は城壁付近とそれほど変わらないですし。
とにかく今は防衛は皆さんを信じて、私はひたすらトラップの準備を急ぎましょう。
「姉御あぶねぇ!!」
「!!」
防衛の隙間を塗って槍が私に向かって飛んできました。
こちらはトラップの設置で動けません!
【『ウォール』発動 】
キンッ!
突如、機械音声が聞こえたと思ったら私と槍の間に壁が発生しました。
これはベルンさんがよく使ってる壁魔法です。
【『ウォール』発動 】
キンキンッ!
またです。
周囲を見てもベルンさんが居る、なんてことはありません。
その代わりに真っ黒いボールが私の周りを飛んでいました。
それは別れ際にベルンさんが渡してくれたものです。
『僕の代わりに持って行って』
使い方とか何も聞いてませんでしたけど、まさか危険を察知して自動で防壁を展開するアイテムですか。
これならこの場にベルンさんが居なくても私の身を守ってくれます。
貰った防具だけでもかなり防御力アップしてるのに、過保護な人です。
今回はその過保護な人の為にも特大の花火を打ち上げてみせましょう。
あ、そういえば地上からベルンさん達が点にしか見えない様に、ベルンさんからもこちらの位置が見えないですよね。
なら災害時に上空のヘリから見えるように地上に大きな文字を書くあれみたいな感じで明かりを灯しましょうか。
「皆さんの中に光魔法を使える人はいますか?」
「あ、私使えますよ~」
良かった。これだけ人数が居れば1人くらいは居ると思ってました。
気分は飛行機の中で『お医者様はいらっしゃいませんか』ですね。
それはともかく、さっきのイメージを伝えました。
「光魔法で地面にマーキングですか~。
実戦では使う機会は少なそうですが面白い試みですね~」
そうですよね。地面光らせてもモンスターを倒せる訳でもないですし、あまり使い道は無さそうです。
なんて考えている間にスラスラとトラップの周囲を囲むように二重円を、それもクルクルと強く光る部分が回転して行くおまけ付きです。
「これでどうかな~?」
「完璧です!ありがとうございます」
これで上空からでもこの場所が分かるでしょう。
後はベルンさんが到着するまで、せっせとトラップを強化していきます。
MPポーション飲みながらせっせと造ってたらちょっとやり過ぎた気もしますが多い分にはいいでしょう。
『リアミンさん。こっちも目標地点に到着したよ。
そっちの準備はどう?』
待ちに待ったベルンさんからの合図です。
『いつでも行けます!』
言いながら私は真上に向けてグレネードショットを2発投げました。
ベルンさんならこの爆発で私の位置を見つけてくれるはず。
光魔法のマーカーもありますしね。
そして私は周りの皆さんに向けて呼びかけました。
「皆さん、これからベルンさんがボスをここに落とします。
巻き込まれない様にモンスターを押しのけながら、ここから距離を取ってください!」
「「よっしゃあーーー」」
私も慌ててその場から離れました。
「しかしベルン様はどうやってボスを落とすんですか?」
近くにいた人が私に問いかけてきましたが、残念ながら私は首を横に振りました。
「具体的な方法は聞いてないんです。
でもベルンさんがやると言ったら出来るんでしょう」
なんて言ってる間に視線の先のボスがみるみる大きくなってきました。
いえ違いますね。大きくなってるんじゃなくて近づいて来てるんです。
ほぼ真下に居た私には分かりませんでしたが、どうやらボスの上に巨大な壁を生成してボスに乗せたようです。
飛行能力のあるボスですから、ある程度は頑張って耐えたようですが、抵抗虚しく地上に落ちました。
その瞬間。
カッ、ドドドドドドッ!!!!
大爆発。
何十本もの火柱がボスの下から吹き上がり、落ちたばかりのボスを3メートル近く持ち上げました。
気分は火山噴火ですね。
下から覗けば、ボスの表面は真っ黒に焦げて、更に何か所も穴が穿たれていました。
「「おおぉ~~~~」」
「すげぇ威力だ!」
「これは初撃を譲って欲しいっていうのも納得だ」
皆さんから見ても凄い威力だったみたいで安心しました。
ちなみにトラップには以前も使用したヘビーマインの他、モンロー効果という火薬の形状をすり鉢状にすることで爆発のエネルギーを1点集中させた爆弾を多数配置してみました。
その結果があの穴だらけなんです。
「さあ皆さん。ここからが本番ですよ!
ボスが再び上空に逃げる前に全力で畳みかけましょう」
「「おおっ!!!」」
「届けばこっちのもんだぜ!」
「さっきまでよくも安全圏からチクチクと攻撃してくれたな」
「お返しだこの野郎」
巨大なボスに次々と攻撃が加えられていきます。
当然ボスも黙っている訳もなく、反撃を試みているけど、多勢に無勢。
更に上空に逃げようとしたところで今度は真上から魔法の雨が降り注ぎました。
「はっはっはーっ。上には俺達がいるんだぜ」
「上から目線で攻撃される悔しさを思い知るがいい!!」
「ベルン様の分まで私達が攻撃するわ」
それはベルンさんと共に上空へと向かった人たちでした。
いつの間にか地上50メートルくらいまで降りて来た彼らは意気揚々と魔法を連発しています。
「あれ、ベルンさんは?」
見たところ上空の人達はベルンさんの作った壁の上に立ってるので、ベルンさんは健在だと思うのですが……あ、居ました。
魔法を放ってる皆の後ろでのんびりとお茶なんか飲んでます。
まぁこの状況では壁魔法で攻撃は出来そうもないですからねぇ。
かく言う私も大量の地雷トラップを設置するのに疲れたので休憩中です。
地上班の皆さんの攻撃も激しくて私の入り込む隙がないし。
チッ、チッ、チッ、チッ……
「?」
どこからか聞き覚えのある音が聞こえてきます。
まるで時計の秒針のような……っ!?
音の発生源を探していた私は見てしまいました。
現在地上から2メートルほど浮き上がった状態のボスのお腹にデジタル時計が表示されているのを。
『2:23……2:22……』
まさか、時限爆弾!?
ボスの自爆攻撃の威力なんて想像もつきません。
少なくともここに集まってくれた人たちは全滅、でしょうか。
「っ、させません!!」
私達の呼びかけに応えてくれた人たちをむざむざ死なせる訳にはいきません。
私はメイスを持つ手に力を籠めながら走り出しました。




