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9-二度目の謝罪


 アランのレッスンはとにかく厳しい。

 問題を一問でも間違えれば最初から全てやり直しが当たり前、レアの身のこなしの一つにすら、彼は目くじらを立てて注意をする。


「理想では来月のパーティで婚約破棄を言い渡されることですが、あのラインハルト皇太子がそんな軽率な真似をされるはずがない……」


「いいですか? 王女として振る舞うのはスタート地点に過ぎません! その後さらに嫌われる努力をしていただくので、ご理解くださいよ!」


 アランが机をバンバンと叩く。


「こらこらアラン、君の礼儀作法がなってないじゃないか」


 二人の様子を見に来たオーギュストが、アランを(いさ)める。


「殿下! これは失礼いたしました、私も熱くなりすぎているみたいです……」

「熱意があるのは君の良いところだけどね、ヴィヴィアンをあまりいじめちゃだめだよ?」


 所在なさげに頭を掻くアランを尻目に、オーギュストはレアに近寄る。


「ヴィヴィアン、よかったら気分転換に庭でも散歩しないかい?」


 オーギュストはレアに微笑みかける。


「しかしオーギュスト殿下……彼女はまだ……」

「大丈夫、僕が一緒だから。さあ、行こう」


そう言ってオーギュストはレアの手を取る。

 朝から勉強漬けで疲れていたので、レアは素直にその申し出を受けることにした。





 宮殿の中庭を、レアとオーギュストは手を取り合って歩く。


「ヴィヴィアン、調子はどうだい?」

「……最近は、とても調子がいいです」


 レアは慣れないドレスにまだ歩き辛さを感じている様子だが、幸いなことに中庭には二人以外誰もいないかった。

 オーギュストはレアのそんな様子が微笑ましいのか、笑顔を絶やさず、じっとそれを見つめている。


「ヴィヴィアン、」


 オーギュストはレアを見つめながら、妹の名を呼ぶ。


「ごめんね」


「え……?」


 謝罪の言葉。

 彼から謝罪を受けるのはこれで2回目だったが、今回は親しい人間へ向けるような、悲しみの込められた声音だった。


 オーギュストはレアの様子などお構いなしに、ぽつりぽつりと呟き始める。


「ヴィヴィアン、君を殺したのは僕だよ」


 オーギュストの表情は笑顔のままだが、その目は暗かった。


「外国になんて嫁ぎたくない……そう言って君は僕に縋り付いて、

 お父様とお母様を説得してほしいと何度も懇願していた」


「僕は君を窘めて、その場を後にした。

 でも深夜に突然目が覚めた。


 ひどい胸騒ぎがしたんだ」


 彼の笑顔は崩れない。


「君の寝室を訪ねたら……

 ヴィヴィアン、君は既に首を吊って……」


 オーギュストは俯き、ハンカチで目頭を抑える。

 表情が見えなくなり、ポピーの刺繍が入った、かわいらしいハンカチだけがレアの目に映る。


「弱いお兄さまでごめんね、ヴィヴィアン」


 オーギュストはすぐに顔を上げた。

 いつもの笑顔で、涙は一滴たりとも流れていない。


「大丈夫、君をエーデルラントに嫁がせたりしないからね」


「愛してるよ、ヴィウィアン」


 レアは黙って頷く。

 今この場で、レアがオーギュストに対して抱いているのは『恐怖』だった。


 この青年が呼ぶ『ヴィヴィアン』がレアと妹のどちらを指しているのかがわからない。

 どんな時でも崩れない貼り付いたような笑顔が、その不気味さに拍車をかける。


(もうこの人と散歩はやめよう……)


 レアの直感が、この男は危険だと警戒信号を鳴らしていた。


読了ありがとうございました。

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