エピローグ-海辺にて
エーデルラント皇国の植民地の一つ、サン・クレスト島。
遥か南方に位置するこの島は冬でも暖かく、レアの療養にはちょうど良かった。
島は真っ青な美しい海に囲まれており、家の窓からもそれが見られた。
その景色を、彼女はぼんやりと見つめ続けることも少なくなかった。
島に来てからレアはすっかり元気を取り戻し、慣れない家事を一人でこなせる程度には回復していた。
痛んでいた髪は一度は短く切り揃えられたものの、今は背中までの長さになっており、艶やかさも取り戻している。
血色は良く、躰も丸みのある女性らしい体つきになり、むしろ娼館で働いていたころよりもずっと健康的になっていた。
「レア、散歩にでも行こうか」
「うん」
島の物価は安く、二人で生きて行ける程度の蓄えはあった。
ジークフリートには有事の際はラインハルトから呼び出されることも考慮され、毎月騎士としての手当も支給されていた。
ジークフリートとレアは浜辺を歩く。
真っ青な海を見ながら、レアは思考を巡らせる。
こんな綺麗な場所で、自分は死のうとしていたのか。
愛する者と、何不自由のない生活を送ることのできる未来が、自分に訪れるとは思わなかった。
この幸福が逆に恐ろしかった。
実は夢なのではなのではないか、いつか失ってしまうのではないか。
「ジーク、私、ずっと死にたかったの」
それに耐えかねて、レアは呟いた。
「綺麗な海に飛び込んで死ねば、私の体も綺麗になれると思ってた。
あなたの青い瞳……海の色をしていて綺麗な瞳に……あの頃の私は、死を見出していた」
「本当に、ごめんなさい……」
それを聞いたジークフリートはレアの頭を撫でる。
「俺も、ずっと死んでいたから」
「生きる理由がわからなくて、命が脅かされる状況じゃなければ、生きている実感が湧かなかった。
平和な場所でぼんやりしていたら、ゆっくりと自分は死んでいくのではないかと、恐ろしかった」
「君に出会ってから変わったんだ」
この人は残酷なほど優しい。
その優しさに、自分はどこまでも甘えたくなる。
「君がいるから、俺はまた生きられるようになった」
きっと彼は自覚すらしていないのだろう。
「愛しているよ、レア」
「私もあなたを愛してる、ジーク」
これからもジークフリートのために生きよう。
私のために戦ってくれた彼のために。
それはジークフリートも同じだった。
レアが笑うと、ジークも笑った。
二人は暫しの間見つめ合い、口づけを交わした。
ずっと切望していた未来を手に入れた二人は、きっとどんなことがあってもそれを守り抜くだろう。




