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六十一話

 それと、並行してやらざるを得ないのがこの我儘放題暴力放題だった王子様の修正であったが、話し合いという名の丸め込みが上手く作用したようで良かったとホッとする。

 悪行は、愛情不足ゆえのものだったようだし、王子という立場に置かれたわりに散々な貶めを受け続けてきたための反動でもあったようだった。

 (たった15歳、ではなあ)

 誰か指導役がいればまた違うんだろうが、どうも引き出した情報を照らし合わせてみると悪態を付き合える幼馴染みを除くとしても、王から嘲笑を受けるような境遇に遠巻きながら見守る勢力ぐらいしかいないようだった。

 (私も殴られたが、まあ)

 別にどうだっていい。ただ、やられたほうはいつまでたっても覚えているものだ。その償いを、本人がちゃんと返すことができなければ、まあ、それまでのこと、か。その返し方も、また人によるから何とも言いようがないが。


 「二人は、幼馴染みと聞いたが」

 「はあ」

 「そうです」


 おい、と金環国の王子様に呼ばれて、のこのこやって来たこの二人組。

筋肉ダルマと細身の男である。彼らは目論み通り、この隊長殿の護衛を兼ねてもいたようで、私と隊長殿の会話を耳をそばだててしっかと聞いていたようである。だからか、私と相対するように席につく隊長の後ろを立ちんぼで守りながらも、騎士団長である私を見る目がどことなく怪しいと訴えていた。

 

 「なら、話は早い。

  協力してくれないか」

 「……何故ですかねぇ」

 

 細身の男は胡乱げである。


 「私は死にたくないからな」

 「逃げ出さなかったくせに?」

 「まあ、わざと捕まった節はある」

 「……隊長、胡散臭いですよ、コイツ」


 筋肉ダルマも同様のようである。

 (第二関門、ってやつだな)

 まずは説得か。


 「だが、私の提案は、

  貴公らにとって最大のチャンスだぞ」

 「……何がチャンスか、敵国の騎士の戯言なぞ、」 

 「だいたいにおいて、

  他国からの抑圧は自国の革命に利用しやすい」

 

 細身の男の喋りを遮り、私は言いきってやった。


 「……ハ、」


 それに驚きを隠しきれぬのは、肝心の王子様である。

筋肉ダルマは私の言葉の真意を探るために、誰よりも、私の顔を注意深く見定めていた。

 

 「革命?」

 「そうだ。

  さっきも言った通り、このままだと、

  そこの隊長殿の命は使い古されて終わりだ」

 「使い古い、……なんて酷い奴だ、

  やっぱこの場でやっちまいましょーよ、隊長」

 「待テ」


 沸点が低いのか、細身の男は私を睨みつけてきた。

それに、隊長殿が制止をかける。


 「話ヲ聞こう」


 先ほどの、罪を被せられる、という私の話が効いているのだろう、筋肉ダルマも置物のような佇まいである。

私は彼らの三者三様の顔色をおおっぴらに眺めながら、わざと煽るような発言を続けた。


 「言っておくが、これは私のためでもあるが、

  この金環国、ひいては、君らのためでもあるんだ。

  留意してほしい」


 舌打ちを頂戴した。

が、にっこりと態度悪すぎる細身の男を視界の隅にて捉えながら、口角を上げる。


 「まず、問題なのが、隊長殿。

  貴殿の王子という立場だ。

  それも暗黙の了解の。

  なんともあやふやな立場だ」

 「……マァ、な」

 「……隊長」


気遣わせる視線をご両人から送られたというのもあってか、隊長殿は胸の内を吐く。


 「それは、分かっていル。

  キツイ、汚い仕事バカリを与えられるのハ、

  オレっちだって望んでやってたことダ。

  けど、それハただの……、

  王子という立場を利用した断罪だったんダナ。

  王族が自ら殺したんダ、

  裁判も、何も、イラナイ」


 一応、この金環国にも司法制度のようなものがあるそうだ。

ただし独裁国家にありがちな特例がつきもので、彼のような王族の身分は、容易に断罪できる、というものがある。つまり、王子である彼は、この金環国の人間、その誰を殺したって罪に問われないのである。王族無罪。なんという独裁か。


 「……親父ハ、オレッちを見ているようで、

  見ていなかったんだナア……」


 ぼやく隊長殿には、他にも兄弟がいるらしい。

だが、厳しい王位継承争いによって、彼より年齢が上の人間は皆、死亡。

 後宮にいるのは現在、幼い弟や妹のみ。すなわち彼、隊長殿が第一の王位継承者でもあられるわけだ。ただいつ死んでもおかしくはない、暗殺業に手を染めているため、その王位継承に不満を持つ者も多々いるとか。

 (だから、番犬だのなんだのと、散々馬鹿にされて、その地位を貶められているのか)


 「ですが、隊長、こんな奴の話、

  信用できるんですか?

  こいつ、自分が助かりたいからって、

  適当なこと言ってるんじゃねーんですか。

  敵ですよ?

  隊長、隊長はこいつのことなんて気にしなくったって、

  いーんですよ、さくっとやっちまいましょ、

  それで、王を……、」

 「駄目ダ!」


 思いっきり大声を出した王子様に、細身の男は怯み、筋肉ダルマは、それみたことかと重たそうに肩を揺らす。


 「駄目ダ、それだけハ……」

 「……隊長ぉ……」

 「駄目ナンダ、あんナ腹立つ奴デモ、

  オレッちに犬の餌を食わせて笑いものにするような奴デモ、

  オレッちにとって、たった一人の……、

  肉親ナンだ」

 

 細身は、嗚呼、と天井を仰ぎ。

筋肉ダルマはまごうことなき置物以下省略。

 (いやはや)

思っていた以上に、この王子様は、父であるヒナミキ=バージル王の、父性愛に飢えているようだった。

 (その視点に、ちっとも、金環国住民の命が入っていないのが、

  利己的というか、いや、15歳、といえばいいか)

 王族教育だってまともに受けていない少年なのだ、これぐらいが当然、だな。

私は、彼らが言い合う姿を第三者の視点で眺めた。

 金環国の後宮問題も取り沙汰され、金遣いの荒い美姫ら。

そうして、第一王位継承者になってしまった番犬。それを補佐する二人組。さらに、番犬を王子として、王になってくれたらいいとさえ考えている勢力の姿は薄すぎてまったくもってその正体が見当つかぬが、まあ。

 (色んな情報を、彼らは喋りまくって討論してくれている。

  が。

  ううむ、やはり予想通り、綺麗に問題ばかりが積み重なっているな)

 脳裏に、誰かの暗躍があるんじゃないか、なんて。

ついぞ思ったりもするが、あまり突きたくもないので黙っておく。

 所詮は陰謀論のようなものだし。あまり、そこは掘り下げても大した成果は出ないだろう。それよりも、問題は。

 

 「さあ、どうする」


 私は、彼らに声をかけた。

三者三様、再び私に視線が集まる。

 (ふむ。いけそうだな)

 なんとはなしに、上手くいくような予感がした。

彼らは、私に乗ってくる、だろう、と。


 「私に策がある」


 自身のこめかみに人差し指を突きつけ、私は彼らに問い正した。


 「このまま、犬として生き、リヒター殿下の要望によって

  死体となってアーディ王国に引き渡されるか。

  あるいは、処刑されるか。

  それとも、私の手をとって王になるか。

  ――――生き延びる、ただそれだけでも構わんが、

  さあ、どうする、隊長殿。

  ……いずれにせよ、このままだと、

  貴殿は早晩殺されるだろうことは明白だ」

 「こいつ、言うに事欠いて……、

  全部、妄想なんだろーが」

 「そうではないと感じたからこそ、

  私の言葉に耳を傾けるんだろう?

  ……いくら鎖国してるとはいえ、

  四方国家が次々と、我がアーディ王国に国交条約を

  結んだり、結び直していることを危惧しないのは、

  さすがに呑気だと言わざるを得ないな。

  ――――それらの成果は、すべからく、王太子殿下であられる、

  リヒター殿下の手腕によるものだ」

 「……だろう、ナ」

 「隊長!?」

 「でないと、辻褄ガ合わなイことばかりなんだヨ」


 国境沿いで展開しているはずの騎士団、おべっか使いの耳触りの良い言葉ばかり鵜呑みにするバージル王の隣国を舐め腐った行動、黄金時代の騎士の噂は本当のことだし、あらゆる情報が彼らの頭の中を駆け巡っているんだろう。

 (廃墟となった亡国、ぐらいは想像しているかもしれん)

 それぐらいの危機感は持っていてほしいものだが、残念ながら口答えをしようとした細身の挙動、を止めたのは意外にも筋肉ダルマだった。

彼は、私の傍へと近づき、一言。


 「もし、うちの隊長を傷物にでもしようものなら、

  容赦はしない」


 鋭い視線を投げ、そうして護衛すべき主のもとへと、のっそりと戻っていく。

その後ろ姿はさっぱりと決めた武士といった風である。


 「ちっ、まあ……、

  このままじゃ、隊長は……、

  何もしないで終わりそうだしなぁ」


 次に威圧するような目を向けてきたのは、細身だった。


 「おい、騎士団長さんよ、鋼の騎士さんよぉ、

  うちの隊長はさ、

  馬鹿だから、父親の言う通りに動くんだよ。

  アホだから、王にハメられたって、

  そのまま殺されたって笑って死にそうなんだよ、

  テメーなら、なんとか生かすことができんか? あ?」

 

 私は、隊長殿が彼ら背後の者たちにとって、どれだけ大事なのか知れたことにようやく知ることができて胸をなでおろした。

 肝心の、彼らの王子様の顔は、ざっくばらんな茶の髪によって妨げられているため、表情は分からんが……、唇を噛み締めているを見てとり、やっと、彼の中にも、実感が湧いたんだろう。


 「ああ。大丈夫だ。

  生きることは、大事なことだ」

 「本当だろーな」

 「ああ」


 三者三様、彼らに期待される。

まさか、ここまで話がうまく回るとは。

 (だが、頼まれた以上、してやってみせるさ)

 

 「リディール・レイ・サトゥーン騎士団長、いや、伯爵殿。

  よろしくお願いする、

  オレっちは、

  いや、オレは……、」


 ひとまわり小さな手の平、私は、おずおずと差しのべられた隊長殿の手を握り返す。


 「よろしく、隊長殿」

 「あア」

 




 ――――明日はやることが多い。

なんせ処刑される日、だからな。


 頬に触れると、いつの間にやら完治しているのが、王子の腕の骨折と同じで似通っているのが気がかりであるが……、

まあいい。

 明日は、明日、だ。

 

 

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