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最近放課後になると、屋上に寄り道するのが習慣になった。遠くで発声練習が聞こえる。おそらく合唱部なのだろう。亜季や唯も今そこで歌っている。屋上では一人ではなかった。何人かのグループが話し込んだり、本を読んでいたり、みんな好きにいろんなことをしていた。
多美はぼんやりとベンチに座っている。あの日、唯が助けに来てくれた時に、自分の中から聞こえてきた梓の声を、何度でも何度でも思い出す。
――もし多美が死んだら、俺は泣くよ。
梓の声が好きだった。心の中にすっと入ってくるあの声で、多美がどれだけ壊れても大丈夫なように、梓は沢山の言葉を多美の中に残してくれていた。
そしてそれを多美はちゃんと覚えている。
「……何も残さないって、言ってたくせに……」
多美に告げられたたくさんの思いが、諦めて生きろと背中を押す。
ふと、小さく、小さく呟くように、歌を口ずさんだ。
梓の病室でも、時々気まぐれに歌ったかもしれない。子守唄のように、彼が眠っている間だけ。眠っている梓を見ているのは、次に目を開けてくれるのか不安で心配で、なのにひどく安らかで邪魔をしたくないとも思えて、黙ったまま側にいるのが辛かった。
今日の日はさようなら。気がつくと、口ずさむのはなぜかいつもこの曲だった。小学校の下校の音楽に使われていて、小学生の多美は、毎日この曲を聞きながら、誰もいない家にひとり帰った。
じゃあね、また明日ね。そう友達と別れながら、明日を約束できない妹のことを想っていた。
それはそのまま、妹への祈りだった。
「……また、あう、日まで」
いつか必ず来るその時まで。実加、……梓。
「あ、いたいた、多美ちゃん~」
何故か入口付近から、あっちゃんの声が聞こえてきた。びっくりして振り向いたら、あっちゃんは笑って手を振ってから、こちらに来る。




