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ある日の放課後、帰り支度をしていたら、突然千葉さんから声をかけられた。
「梶原さん」
振り返ると、千葉さんの後ろにはそのお取り巻きもいた。かなり怖かった。これはもしかして、つるし上げとかお呼び出しというやつではないだろうか。多美は今まで慎重に目立たずにきたので、そういった経験はしたことがない。
遠くで亜季がこちらに来ようとして、あっちゃんに止められているのが、遠めに分かった。
「訊きたいことがあるんだけど」
「何?」
「伊東くんとつきあってるの?」
「それはないよ」
身構えていたので、即答で否定した。絶対ない。ありえない。もう語尾の?にかかるくらいのすばやさで全否定する。
「でもこの間の月曜日、一緒にいなかった? 二人で欠席してた時」
そもそもそんなことを訊かれる筋合いはない。少し多美がむっとしていると、千葉さんは、ああ、と突然気付いたように方向を変えた。
「ねえ、私、ちょっと梶原さんと話してくるから、先行っててくれる?」
突然そう言われて、お取り巻きのみんなはちょっとびっくりしたものの、あっさりと、じゃあ後でね~と去っていった。
「ごめん、びびるわよね。何人も引き連れてこんな話聞くのって」
あっさり千葉さんはそう言って、ちょっと教室で注目を浴びてしまったのが分かったのだろう、場所替えない? と提案してきたので、渋々付き合うことにした。ここできちんと否定しておかないと後が怖すぎる。亜季が何か言おうとしたのが分かったが、多美が目でそれを止めた。今こじれさせることの方がよくない。
千葉さんが多美を連れてきたのは、裏庭とか屋上とか用具室裏とか部室棟のような、人気のない場所ではなくて、校門正面入り口の花壇前にいくつか設置されているベンチだった。正面入り口だけあって、人の出入りだけはそれなりにある。
「梶原さんをいじめようと思われるのは心外だもの」
と、意外に気を使った反応が出てきて、ますます困惑する。
「月曜日、伊東くん、大事な人のお葬式に行ってたはずなの」
千葉さんはそう言って、多美を見つめた。
「樫井先輩って言って、うちの一中ではけっこうかっこよくて有名だった先輩が、病気で亡くなって」
千葉さんから、梓の名前が出てきて多美はびっくりした。
「知ってるの?」
「え?」
「梓のこと」
千葉さんが妙な顔をした。「梓って、樫井先輩のこと?」
うん、と頷くと、そりゃそうよとあっさり返ってくる。
「一中では有名だったから、門倉も堀口さんだって名前だけなら知ってるわよ」
「そうだったんだ……」
多美は中学時代の、元気だった頃の梓のことはまったく知らない。
「ってことは、梶原さんも樫井先輩と知り合いで、お葬式出てたってこと?」
「うん」
「そっかぁ……そうだったかぁ」
千葉さんはちょっと上を見上げた。話しかける言葉を慎重に選ぶ仕草。
「あの日、樫井先輩が亡くなったらしいって、同中の子からメールがあってさ。それで伊東くんがカキでお腹壊したのがウソだってわかった。私は伊東くんとはさ、二年の時にクラスメートになって知り合ったから、実際に伊東くんと樫井先輩がどんな付き合いだったかは見たことがないんだけれど、でも、伊東くん、本当に先輩のことが好きだったから。
学校終わった後、部活さぼって、海に行ったの。海水浴なんてできない海だから、普段から人気があんまりなくて、伊東くんが好きな場所だって知ってたから、きっとここにいるって。必要なら側にいたかったし、……心配だったから」
そして蓉子は苦しそうに泣く伊東と、それを見守る多美の姿を見かけた。




