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「受験の時、同じ教室だったから」
「ちょっと待て、いくらなんでも受験の時にいた奴の顔なんて覚えてられるか?」
亜季が反論するが、古沢さんはそうじゃなくて、と冷静だった。
「昼休み、裏庭で泣いてなかった?」
「どうして……」
「なんか緊張しちゃって、人気のない場所でちょっと落ち着こうって、うろうろしてたんだ。そしたら見つけた」
そしてちらっと笑った。
「あんまり酷い泣き方だったんで、よっぽどダメだったんだと思った」
多美はそんな古沢さんの言い方に、思わず笑った。
「だから入学式で多美を見かけて、ああ、あの子受かってたんだって思った。で、同じクラスだったから、なんとなく見ちゃってて。最初のインパクトのせいかな。ずっと多美が気になって仕方なかった。生物の組になる時、私を見つけて声かけてくれるまで、どうやってこの人と知り合おうか、結構マジメに考えてた」
あの時名前を呼んでくれたのは、クラスメート全員ではなく、多美のことを覚えていてくれたからなのだと、初めて知った。
古沢さんがそう言うと、亜季もそうそう、とのってきた。
「それ分かる。私も最初っから、多美が気になってしょうがなかった。だから声かけたの。ちょうど前の席だったしさ。――なんか、多美、目立ってた。別に派手だとかそういうんじゃなくて、クールで、すっごくキレイなのに、どっか変わってて何かしんどそうでさ。危なっかしいっていうかさ。でも、話してみたら声がすごく綺麗で、話す言葉が少なくてもきちんと正しくて、そういうところがすごく好きになった」
あっちゃんもちょっと笑って付け足した。
「初めて紹介されて、その時の亜季の興奮ぶりといったら! でも亜季の言ってること、会ってみるとよく分かった。きっと何か大変なものを抱え込んでるんだってことも、それは多美ちゃんが言いたくなるまで、聞いちゃダメなんだってこともね」
多美は三人をまじまじと見た。
こんな風に思われていたんだと思った。そして黙って見守ってくれていた。
「――あの日。受験の、日」
多美はそっと目を伏せた。古沢さんは同じ教室にいたというのだから、きっと多美だけが呼び出されて、周囲が動き出す前に一人帰されたのを見ていた。あの日の多美を。
「妹が」
多美はやっと他人に向かって言うことが出来た。「亡くなったの」
――実加。
実加のあの頃の様子が、何度も見かけた風景や表情や、些細な会話が一気によみがえってきた。……私、ちゃんと、こんなにも実加のこと覚えていたんだ。三人に話そうと思った途端に、びっくりするほどいろんなことが鮮やかに思い出せた。
やっと妹が故人になっていく。
友達に語れるような私の思い出になっていく。
「ずっと言えなくて、ごめん……」
「そんなことないからー」「大丈夫だってー」と口々に慰めたり、「これ食べてとりあえず」と広げられたお菓子を片っ端から手渡したりする三人に、多美は泣きながら笑った。




