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中庭であっちゃんのお手製弁当をつまみながら、母のことでお礼を言うと、みんなほっとした顔をしていた。
「それならよかった」
「多美も少しは楽になったんじゃない?」
そう口々に言ってくれるけれど、どうして母がそんなことになっていたのかとか、そういう肝心のことを、みんな聞かないでいてくれたのが不思議だった。
「……ねえ、どうしてみんななんでこんなことになったのか聞かないの?」
聞いてみると、そろって顔をあわせて、苦笑した。
亜季がそんなこと言われてもという顔をしている。
「言いたくないことを聞き出しても」
「……そっか」
「言えるようになったら教えて。気にならないわけじゃないし」
「……うん」
すごいなと思った。自分だったらきっとここまで割り切れなかった。多分すごく気になるけれど、詮索しないように一線を引くだろう。
そこにはけして近づかないから、こちらにも触れてこないで。分かってるよね。そんな暗黙の了解を要求して。
「おうちのことがどうにかなりそうなら、合唱部、ホント考えない?」
亜季がにっこり微笑み、あっちゃんも期待するような目で多美を見ていたけれど、多美は首を振った。今は梓が不安定すぎる。
「今は無理だと思う。ごめんね」
「今はってことは、後を期待してもいいってこと?」
そう問い返されても、先のことなんてどうにも約束できない。
梓に先がないなんて言いたくない。
「……ごめん」
多美はやっとのことでそれだけを言った。
「まぁそんなことより、花火大会見に行かない?」
「花火大会あるの?」
「ここの屋上、かなり見やすそうなんだけどな」
「さすがに鍵閉まってるでしょう?」
だからあきらめるにしてもどう? と亜季はにたりと笑った。近くにある重川河川敷で、地元新聞社主催の 花火大会があるらしい。多美は南部に住んでいるので、こちらの情報には疎かった。
「疎すぎよ、多美は! みんな最近はこの話題多いのに!」
部活に入ってないし、亜季たちしか知り合いがいないんだから、そんなこと言われても困ってしまう。
「ねぇ、古沢もどう?」
「行く」
古沢さんはきっぱり即答した。「花火は好きだし。浴衣着てく」
「え、唯ちゃん浴衣着るの? なら私もがんばって着ちゃおうかな!」
「敦子まで着るの? 私は着ないからな!」
「いや、意外と門倉が着ると面白くていい気がするが」
「似合うじゃなくて面白いかよ!」
「で、多美はどうする?」
行ってみたい気がした。けれど、もし重川でやるんだとしたら、病院の屋上からでも見えないだろうかと不意に思った。そして梓の笑顔と。私は梓の調子次第で決めようと思って、明日まで返事を保留にした。




