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「多美は何かやりたいこととかないの?」
多美の中でちらりと、亜季と合唱部のことがよみがえった。けれどそれは無視する。
「うん。……なんにも興味もてないし」
興味のあるものなんて見つかるのだろうか。今はまだいい。勉強とかお見舞いとか家事とか、やることが沢山あるから。
「なんだ、片っ端からなんでもやってみればいいのに」
「……面倒くさい」
「でもやってみないと出会えないかもしれないし。運命の人は向こうからは来てくれないものだよ」
「でも梓は来たじゃない、実加の方から」
その多美の答えに、梓はとても意味深に笑った。
「いや、俺からちゃんと言ったよ。多美に会ってみたいって。会わせてもらえなかったけどね」
一瞬何を言われたか分からなかった。
「え?」
「分からなければいいよ」
りんごも食べたいなら剥くよ、とはぐらかされた。多美はバナナがいいと言うと、なんて剥きがいのない、と文句をいいながら、ナイフで食べやすいように切ってくれた。
「ねぇ、多美、歌って」
「え? どうして?」
「コンクール、どんな曲やってるのか、歌ってくれてもいいじゃん」
最近何度もこれを言われる。そして多美の返事も当然決まっている。
「やだ」
「なんで?」
「下手だから」
にべもない多美の答えに、梓はこらとふざけた口調で怒った。
「上手なくせにー」
「……なんで梓がそんなこと知ってるのよ」
「前、俺が寝てる時に歌ってたから」
「そんなこと、あったっけ」
多美は本気で驚いた。確かに梓が眠っているときは、起きるかもしれないので、少しだけ側にいてから帰ることにはしている。
「あった。寝てるふりしてたの。だって起きたら多美、絶対にやめると思ったから」
それは止めたと思う。
「何歌ってた? 今の課題曲かな……」
「ううん、違う。日本の唱歌」
「そんなの歌ってたっけ」
知らないならそれでいいんだよ、といった意地悪なセリフさえ、梓が語ればうっとりと聞き惚れる。




