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「待たせたな、セイナ」

 保育園の庭に降りた空飛ぶソリから、サンタの姿をしたフォレスさんは颯爽と降り立った。

「約束通り、子どもたちに夢を与えるためにサンタの格好をしてきたぞ」

 セイナさんは何も言わず、拳を握りしめ、肩を震わせている。

 フォレスさんは最近の文献にある通りの完璧なサンタの格好をしていた。

 近所に住む蛇の精、麗蘭れいらんに施された変化の術で、立派な白いひげをたくわえた老人の姿をしている。

 赤い服に赤い帽子、たっぷりとした肉のついたお腹は、普段のスマートなフォレスさんの体型とは違い、どこからどう見てもふくよかな初老の男性、サンタクロースそのものだった。

 保育園の庭に降りたソリを引く二頭の動物も、トナカイに良く似た……実際は少し違う動物だけど、茶色っぽい角があるところや毛並みは大体同で、見ようによってはトナカイに似ていた。

 フォレスさんが麗蘭に頼んで連れて来たもらった空を飛ぶ動物は、実はこの世界では伝説上の動物、麒麟だった。

 麒はオスで、麟はメスの二匹の麒麟だが、どこかのビールの印として使われているのでおなじみだろうか。

 彼ら麒麟は、知り合いの麗蘭に頼まれたのと、フォレスさんの熱意に負けて、渋々空飛ぶトナカイ役を任されているのだった。

「我々はどうしてこんな場所にいるのでしょうか?」

「仕方がありませんよ。どうしても我らで無いと務まらないと、熱心に頼まれたのですから」

 麒麟たちは困ったように顔を見合わせている。

 一方のサンタの姿をしたフォレスさんは得意げだった。

「どうだ、セイナ。この麒麟たちならば、一日に千里を走ることが出来る。これならば世界中とはいかないが、日本中の子どもたちにプレゼントを配ることが出来るぞ!」

 フォレスさんは自信たっぷりに言う。

 セイナさんはどう答えていいのかわからなかった。

「あの、フォルさん」

 セイナさんが呆れながらフォレスさんに何か言おうとした時だった。

「わあ、サンタさんだ」

 保育園の園児たちが、サンタの姿をしたフォレスさんを見て飛び出してくる。

「本物のサンタさんが」

「トナカイもいるぞ」

 園児たちが口々にそう言って駆け寄ってくる。

 見る間にサンタの姿をしたフォレスさんの周りに人だかりが出来る。

 園児たちははしゃぎながらトナカイ(麒麟)に近寄ったり、フォレスさんにプレゼントをねだっている。

 そのうちに保育園の保母さんやや園長先生たちもやって来る。

「ありがとうね、セイナさん。わざわざ保育園にサンタさんを連れて来てくれるなんて」

 園長先生のお礼の言葉に、セイナさんはどう答えればいいのかますますわからない。

「あ、いえ、そんな」

「サンタさんを連れて来てくれて、おかげで子どもたちがとても喜んでいるわ。本当にありがとう」

「あ、はい」

 セイナさんはサンタの姿をしたフォレスさんと、喜んでいる園児たち、笑顔の園長先生たちを交互に見比べる。

 結局はフォレスさんに文句を言うのを諦める。

「まあ、これはこれでいいのかな」

 溜息一つ。

 セイナさんはサンタの姿をしてプレゼントを配るフォレスさんを見て、困ったような笑みを浮かべる。

 フォレスさんと一緒にプレゼント配るのを手伝った。

「……ところで、フォレスさん。子どもたちへのプレゼントなんて買ってあったんですか? こちらでは一応子どもたちに配るお菓子を用意していたのですが」

「あぁ、これは家にある蔵書の一部だ。子供向けの絵本を持ってきた。最近発売されたものばかりだから、それほど貴重でもないし、また買い集めればいいだろう」

 セイナさんはフォレスさんの太っ腹(実際サンタの姿はお腹が出ていたが)具合に感心した。

 そして我が家の家計のことを少し考えた。

(フォレスさんの収入の範囲で買ってくれるなら、わたしは何も言いませんけどね……)

 そう考え直し、セイナさんは園児たちに絵本を配ることにした。

 後日、園児に配った絵本は園長先生が買い直して、フォレスさんへと返却された。


 *


「ただいま~」

 クリスマスイヴ。

 仕事から帰ったセイナさんは、またサンタの格好をしているフォレスさんを見て首を傾げた。

「……どうしてフォレスさんは今日はその姿なんですか?」

 何やら嫌な予感がする。

 セイナさんは引きつった笑みを浮かべ尋ねる。

 フォレスさんはふっくらとしたお腹を張って答える。

「もちろん、子どもたちに夢を与えるためだ。これから日本中の子ども達にプレゼントを配りに行くんだ!」

 フォレスさんの目は本気で、どうあってもセイナさんが断れる雰囲気にはなかった。

 その夜、セイナさんはフォレスさんの付き添いで、トナカイ(麒麟)のソリに乗って、日本中の子どもたちにプレゼントを配る手伝いをしました。

 こうしてクリスマスの夜は更けていきました。

 二人が家に帰って来る頃には、うっすらと東の空が明るくなっていました。


 にゃんたま「豪華なクリスマスの食事はどうなったにゃーー?」

 カルーア「諦めなさい。セイナさんが性も根も尽き果てて、居間の床に突っ伏しているのが見えないのですか?」

 にゃんたま「そんにゃあ! おいしいご飯、楽しみにしていたにょに~」


 夜通しセイナさんは空間術で、空を飛ぶソリが誰にも見つからないようにしていました。

 そのため家に着く頃には、すっかり疲れ果ててそのまま倒れ込んでしまいましたとさ。


 おしまい

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