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4話

溶と私はまた深く関わるようになりました。


しかし、以前の“恋人”のようなやりとりではありませんでした。

それはまるで家族のような、そうでなくても近くにいるような安心感がありました。

私たちの住むところは遠く、声も顔も知らないというのにヌクモリは確かにここにありました。


食欲がなかなか戻らず食べない日が続くと、食べないと倒れるぞと声をかけてくれました。

人に心配させることばかりするからと人一倍心配してくれました。


夏休み最終日の8月31日の夜のことでした。

宿題は早々に終わらしてしまうタイプだったので、夜まで宿題の心配は全くしていなかったのですがなんとやり残しがあったことにきがつきました。

しかも「嘘」についての小論文でした。

私はすごく焦りました。よりによって時間がかかるものがこんな時間に発掘されてしまったのですから。



「小論文やってないことに気がついてしまった・・・」



私はそうつぶやくと早速取り掛かろうとしました。

しかし焦燥感からか、まったく進まず諦めかけました。



「そういう哲学的な題材の場合――――」



タイミングよく溶からメッセージがとどきました。

私はまってましたと言わんばかりに溶からのアドバイスを開きました。



「いかに自分の主張に対する問題点の提示とその解決を語れるかが重要だ。」



私は溶の頭の良さにうっとりしつつも目の前にある課題という名の壁を乗り越える努力をし直しました。


「ナルホド」

「お前理解できてんのか?」


画面の向こうから心配そうな表情と疑う目が感じ取れました。



「できてるよぅ!そんなおバカじゃないよ!!」

「こんな時間まで課題残してるんだからおバカだろ」


「むぅ・・・」



ごもっともな答えでした。



「例えば嘘の全くない世界ってどんな世界だ?」

「なんでも正直にいうと争いとかも多くなりそう。少しは嘘も必要だと思うなー。」


「お前がそう考えるなら嘘をなくす方法について考えるのは少し違うな。それじゃ嘘だけの世界になったらどうだ?」

「それはもう誰も信じられなくなるね・・・それこそ争いになりそうだ。」


「じゃ、嘘を無くしたらどうなるかっていうのを考察してそれが正しいかどうかを述べる方が賢いな。」

「うはー!ありがとう!!!」


「そんなことより早く書き出しなさい、起きててあげるからわからないことあったらメッセージして。」

「うん!」



溶はその晩、私が小論文を書き終えるまでずっと起きていてくれました。

くじけそうになってメッセージをしたときも、わからなくなって聞いたときにも応援してくれました。



「あとなん文字くらいだ?」

「あとねー100文字くらいかな・・・」


「もう少しじゃないか頑張れ」

「もう泣きそうだよぉぉお」


「100文字なんてネットだったら簡単に打てるんだから大丈夫だろ、ほら頑張れ」

「ふえぇ・・・」



この時書いた小論文は6000~8000字でした。

あと100字は本当にもう少しのところでしたがひとりでは到底書けそうになかったです。

文用が浮かんでも、やる気や集中力、そして睡魔を乗り越えることはできなかったでしょう。

この時時刻はすでに始業式の日の午前4時30分でした。


この小論文を書き終えたとき、溶はまだ起きていて私を褒めてくれました。

学校に行くまでにあと15分しかありませんでした。



「溶が褒めてくれるなんて嬉しくて倒れそう」

「布団に倒れて少しでも寝なさい」


「今寝たら起きられなくなるよー」

「学校で倒れないだけいいだろう」


「大丈夫だって!」

「あのな、会えなくても元気でいてくれたほうがいいに決まってるだろ」



私はその言葉を聞き布団に倒れました。

きっかり15分後溶から「起きろ」とメッセージがきて起きました。



その後、私が溶に手伝ってもらって書き上げた小論文は優秀賞に入りました。

嬉しくて嬉しくて、一番に溶に報告しました。



「あのね!あの小論文優秀賞だったんだよ!!」

「そうかい、よかったな」


「溶がいたからだね!そうじゃなかったら今頃反省文書いてるところだったよ!」

「著作料取ってもいいくらい俺の案だったけどな」


「むぅ・・・いくら欲しいの」

「うーん。10円。」


「図書券2000円分もらったから10円くらいならいいよ!!」

「ずるい」



「雪はネットだったけど溶に会えてよかったよ!」

「突然だな。俺もよかった。」


「なにそれ、嬉しいいんだけど」

「うるせー」



相手の顔色や本音が読めないネットでは、こうしてはっきりと言葉で伝えるしかありません。

それも、声で伝えるのではなく文字で伝えるのです。

なので私ははっきりと溶に好きだと伝えようと決意しました。


その夜、溶に話があるからとメッセージを送りました。

それはそれは緊張するものでした。



「雪ね、溶のこと好きだよ」

「そうか」


「付き合ってくれる?」

「俺はお前のこと好きだけどそれだけで付き合う云々は飛びすぎじゃないか?」


「好きなの?」

「はい」


「え?本気?」



「本気ってどういう意味ですか――――――」



「人として?」

「お前は物じゃないだろう?」


「雪、喜んでいい?」

「好きにしろ」




とてもキレイでとても遠い

だけどもその日は近くに月がみえました――――

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