3話
あの日から今日まで私は溶の姿を見ることはありませんでした。
―――その沈黙は突然破られました
溶の成長と共に・・・・
溶と始めて出会ってから一年が経とうとしていました。
その日は桜の蕾も膨らみ春らしい一日でした。
私が庭のブランコに腰をかけて月を眺めながら揺れていた時、突然携帯が鳴りました。
溶からです。
「そういえばさ、アカウントこっち使ってるんだ。」
「だから最近いなかったのー?」
「そうなんだー。」
「さすが漫画家さんだね」
「漫画家ではない」
「そっかー」
私は新しい溶と友達になりました。
溶は以前より大人に近づいているのが雰囲気でわかりました。
1歳しかかわらないはずなのに大人になった溶を私はただひたすら見つめるだけでした。
画面の向こう側のその人にこの1年間でなにがあったかはわかりませんし、もしかしたら私が子供なだけかもしれません。
「昔よく仲良くしてたよな俺ら」
「そうだね~!」
「俺は全部覚えてるよ、メッセージの内容も」
私ははっとしました。
溶と交わしたメッセージはほんのごく一部しか覚えていませんでした。
学校で当時起きたことや友だちとした会話、そんなことはおぼえているのに溶とのことは殆ど思い出せないのです。
出会ったきっかけ、どうやって仲良くなったか、どうして溶を好きになったのか・・・
まるで魔法でその記憶だけ封印されたかのように。
すっぽりと消えてなくなったのです。
覚えていることはほんのわずかな会話内容と数枚の絵だけ。
私は溶へ返す言葉が思いつきませんでした。
私は溶に嘘はつきたくなかったので
「殆ど覚えてないやー;;」
と返しました。
私は溶との記憶が無いことに今まで気がつかなかったのです。
ショックでした。
あんなに好きだった人への感情すらどこかに置き去りにしてしまったのです。
取り戻したいのに取り戻せない、たぶん一生思い出せない思い出となってしまいました。
私は溶とあまり深い関わりを持たなくなりました。
時計の針はどんどん進みます。
桜も散り、雨が降り、気温はどんどん上がりとうとう夏がきました。
私はネットの友だちが増えていく一方で、楽しいことばかりでした。
まさかこの夏が最高になるとも知らずに。
私はネットでのイメージを変えたいと思うようになりました。
アイコンを描いてくれる人を募集したのです。
なにかがカチリとはまる音がしました。
「俺が描いてやる」
名乗りでたのはなんと溶でした。
溶の絵は大がつくほど好きでしたし、お願いをしました。
3時間くらいたち、溶からアイコンとメッセージが届きました。
「2時間近くかかったぞ。お前は変態だから淫乱ピンクな!」
「私はもともとピンクがイメージカラーですぅ!ありがとう!!」
「大事にしろよ?」
「もちろん!凄く気に入った!!」
昔よりかなり、いやはるかに上手くなっていました。
人の努力ってすごいなと思いました。
「そうだ、なんて呼んだらいいかな?私ずっと勝手に呼び捨てしてたからさー。」
「好きにしろよ」
「じゃあ・・・・お兄ちゃんって呼ぶね!!」
「え!」
「好きにしろっていったでしょ!」
「わかったからもう寝なさい」
私にはこの日以来、兄ができました。
頼れる兄でした。しっかりもので優しい兄でした。
あの月は憧れでした。
美しく輝き人々を魅了するのです。
7月7日のことでした。
離れ離れになった男女は引き寄せられたのです。




