2話
溶から離れて生活するのは案外苦ではありませんでした。
ですが恋心を振り払いきれずにいた私はSNS自体から身を引くことを決めました。
元の世界に、元の生活に・・・
夏の暑い日差しが差し込む季節がやってきました。
学校も夏休み間近となりました。
私には同じ学校の彼ができました。
毎日一緒に帰宅したり、手を繋いだり幸せな毎日でした。
しかし私には少し問題があったのです。
半年ほど離れたのにも関わらず私は溶を思い出すことが時折ありました。
しかし溶に依存していては新たな一歩が踏み出せないと思ったのです。
私は溶の存在を心の中に閉じ込めて簡単な鍵をかけることにしました。
それから半年が経ちました。
私は私の彼とうまくいっていませんでした。
くだらないことで喧嘩をし、束縛もはげしくなり。
友達からは別れることを強く勧められていました。
それでも私は反論をすることなくじっと堪えていたのです。
食事もまともに取れなくなり、睡眠も満足にできていませんでした。
そんな時。
ふと思い出したのです。
溶の絵を。
話し方を。
存在を。
そして私はSNSに再登録することを心に決めました。
同じ名前で、溶を探そうと思いました。
しかし、ネットの世界は広いのです。
何千、何万といるユーザーの中で溶を探し出すことは難しいものでした。
溶と連絡を取らなくなってからもう半年以上の月日が流れていたのですから、もう溶がSNSを続けているかもわかりませんでした。
わかることはハンドルネームと年齢、それから住んでいる所と絵を描くのが好きだということだけでした。
幸いにも私は溶を見つけることができました。
しかし、溶がそのアカウントを使っている形跡はありませんでした。
私は絶望しました。
もうこれ以上溶を探すのは不可能だと思いました。
顔の代わりに使うアイコンは、変えられるので見分けがつきません。
そもそも画面の向こう側の人は知らないわけですからみつけようがなかったのです。
私は諦めました。
でも気晴らしにはなるだろうとSNS活動を再開することにしました。
前より積極的に明るく振舞おうと心がけ、ネットでの友達を増やそうと努力しました。
次第に私と友達のユーザーは増えましたし、「ゆきりん」という愛称もつき楽しくなりました。
ネットの友達は私にとって太陽のような存在でした。
現実世界よりネットを大切にしだし、紛れもないネット依存症になってきた頃。
私には恋愛は必要ないかもしれないと当時お付き合いしていた彼に別れを告げました。
ですが彼は別れを受け入れず、付きまとうようになりました。
ストレスは増し、拒食症も悪化。最終的にはスープなどしか口にしなくなりました。
そんな時にも心の支えとなったのはSNSの友達でした。
顔や現実での生活を知らない同士なので、広く浅い関係を保てることが心地よかったのです。
個性豊かな人たちと友達になり始めてからは私に以前の大人しさはなくなりました。
そして自分の個性も薄れていき、ネット世界での私が出来上がっていったのです。
そんなある日のことでした。
見慣れたアイコンが私の目に映り込みました。
私の心を惹きました。
「―――溶だ・・・!」
思わず口にしてしまうほど嬉しかったです。
溶と再会することが、また関われることが奇跡としか思えなかったです。
運命を信じてもおかしくないレベルでした。
「溶!久しぶり!!」
「うぉあ!」
「元気だった?」
「うぃ。お前は?」
「元気だよ!」
「そうか」
実際元気なんて言えるような体調ではありませんでしたが、溶を見つけたことで一気に回復したかのように思えました。
―――時折太陽から月にメインが移ることがある。
それは人々の興味を強く惹くものである。
そう、あの日はたしか日食があった日でした。