↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それのどこが悪い!?【完全版】  作者: ぬこのここぬこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/62

第34話:青いインクの迷宮、涙のあとの違和感


ディープブルーの表紙をそっとめくると、真っ白な見返しのページが現れた。かすかに香る古いインクの匂いを吸い込みながら、揺里は最初の一行へと視線を落とした。


薄暗い棚の影で、私の心にチクリと刺さったタイトル。


そこに並んでいたのは、サルトルの時よりも少しだけ静かで、けれどじんわりと染み込んでくるような、こんな言葉だった。


『孤独とは、誰からも顧みられない寂しさのことではない。

それは、他人の視線から完全に解放され、自分自身を深く愛するための、贅沢で幸福な時間である』


その活字を見つめているうちに、揺里の胸の奥に、さざ波のような不思議な感情が湧き上がってきた。


他人の視線から解放される、贅沢な時間。


確かに、この図書室で一人で本を開いているとき、私は誰の目も気にしなくていい自由を感じていた。教室のあの四角い檻から抜け出して、本当の自分でいられるような、そんな心地よさがここにはあったはずだ。


でも――。


揺里はそっと自分のスクールバッグの底を見つめた。


そこには、さっき伊織くんから手渡された、ブルーのチェック柄のハンカチが静かに眠っている。


(何かが、少し違う……気がする)


本が言うように、孤独が完璧な幸福なのだとしたら、どうして私はさっき、誰もいないあのガランとした教室で、あんなに寂しくて痛い涙を流していたのだろう。


もしも伊織くんがドアを開けて入ってきてくれなかったら。あのキザでおちゃらけた言葉で、私を無理やりにでも笑わせてくれなかったら。


私は今もきっと、あの冷たい机に突っ伏したまま、暗い涙の底に沈んでいたはずだ。


一人でいることは、本当にそれだけで「幸福」なのかな。


誰の視線も届かない場所で、誰とも繋がらずにいることは、本当に私を救ってくれるのだろうか。


本に書かれている美しい正解と、さっき自分が教室で味わった、あの生々しい涙のあとのぬくもり。


その二つの間にある、目に見えない小さなズレのような違和感が、揺里の等身大の胸の奥で、小さく、けれど確かにくすぶり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。