第1話:退屈な青空と、四角い窓
終わりからの始まり
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許されることのない罪を背負ったまま、私たちはそれでも、ここで生きている。
罪と罰の十字架を静かに背負いながら、私たちは立ち上がり、もう一度、自分たちの足で歩き出す。
誰に言い訳をするわけでもなく、誰の許可を求めるわけでもなく――これが、私たちの選んだ終わりの、そして本当の始まりだった。
これは、私たち二人が歩んだ小さくて大きな物語
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毎日が楽しい、というのは嘘じゃない。
友達とお喋りしながら食べるお弁当は美味しいし、放課後にカラオケで歌う流行りのポップスも盛り上がる。テストの点数も、親や先生に大声を上げられるほど悪くはない。
何か不満があるわけでも、誰かにいじめられているわけでもない。
――それなのに、時々、猛烈に息苦しくなる。
「一六立さん、次、移動教室だよ」
「あ、うん。すぐ行く」
揺里は机の上に広がったノートを雑に鞄へ押し込み、立ち上がった。
窓の外には、雲ひとつない、どこまでも突き抜けた青空が広がっている。その眩しさが、なぜだか今の自分を置いてけぼりにしているような気がして、揺里は小さく息を吐き出した。
誰もが「これが青春だ」と疑わない毎日のなかで、自分だけが、透明なカプセルに閉じ込められているみたいだ。このまま何事もなく卒業して、大人になって、なんとなく生きていくのだろうか。
楽しい。楽しいはずなのに。
この胸の奥にある、名前のない「退屈」と「息苦しさ」の正体が、揺里にはどうしても分からなかった。
5時間目の自習時間。揺里は「資料を探してきます」と適当な理由をつけて、教室を抜け出した。向かったのは、校舎の最上階の隅にある図書室だ。
放課後はそれなりに人が集まる場所だが、授業中の図書室は驚くほど静まり返っていた。
古い紙の匂いと、微かに香る木製ワックスの匂い。エアコンの低い駆動音だけが、静寂を優しく満たしている。
揺里はあてもなく、背表紙が並ぶ棚の間を歩いた。
小説の棚を通り過ぎ、歴史の棚を通り過ぎ、たどり着いたのは、普段なら絶対に足を踏み入れない、一番奥の薄暗いコーナーだった。
『哲学・思想』
棚のインデックスに書かれた、その少し堅苦しい文字を見つめる。
哲学なんて、自分とは一生縁のないものだと思っていた。難しそうな顔をした昔の偉い人が、あーだこーだと理屈をこねているだけの本。そう思って、通り過ぎようとした時。
一冊の、色褪せた文庫本が目に留まった。
タイトルは、シンプルだった。
ただ一言、自分の心を見透かされたような言葉が、そこに佇んでいた。
揺里は吸い寄せられるように手を伸ばし、その本を引き抜いた。
ページをめくると、色褪せた紙の上に、小さな文字が整然と並んでいる。パラパラと指を滑らせ、なんとなく目に入った一行に、揺里の指がぴたりと止まった。
『人間は、自由という刑に処されている』
その言葉が、心臓の奥にストンと落ちた気がした。
自由だから、何にでもなれる。何にでもなれるから、自分が今どこに向かっているのか分からなくて、息が苦しくなる。
「ああ、そうか」と、揺里は心の中で小さく呟いた。
私が抱えていたこの息苦しさは、決して「悪いこと」でも、「我が儘」でもなかったんだ。
窓から差し込む西日が、古いページをオレンジ色に染めていく。
チャイムが鳴るまでのあと十数分、揺里は図書室の片隅の椅子に腰掛け、その本をそっと読み進めた。
毎日楽しいけれど、退屈な日々。
何かが劇的に変わったわけじゃない。明日もきっと、同じように学校へ来て、同じように友達と笑うのだろう。
けれど、揺里の手の中には、今、一冊の本がある。
誰に言い訳をするわけでもなく、誰の許可を求めるわけでもなく――ただ、この言葉と出会えた。それだけで、私のなかの何かが、静かに、けれど確かに、変わり始めていた。




