経緯
ブラム「私を含めた一般の人たちに事実として知れ渡っているのは•••」
「敏腕刑事が麻薬の密売に関わっていたという事」
「テムズ川のコンテナ船で麻薬を密輸していた」
「キースさんは自分の地位を利用し監査を逃れさせ密売ルートの確保をしていた」
「警察と海運会社、ロンドン港湾局と環境省などの国家機関までが結託していたという事件」
「だが最後は取り分のいざこざで揉めた末、仲間同士の殺し合いにまで発展した事で事態が明るみなってしまった」
「私が知るのはこんな感じですね」
「当時は驚きました」
「人は見かけによらないなと」
「報道によればキースさんは学生時代は優秀で仲間思いで周りからは信頼できるリーダー的存在だったと皆が口を揃えて言っていたと」
「私の見る限り当時の写真からも人柄の良さそうな印象しかなかったです」
キース「今はやってそうか?」
ブラム「ま、まあ当時よりは•••」
キース「そりゃ刑務所であれだけ理不尽な目に合えば顔つきも変わるだろう」
ブラム「コンラッドさんから事前に聞いた話では、報道の内容は事実と違うと」
「なので真実はどうだったのか」
「そしてマフィアの存在と警察などの国家機関との癒着」
「そのあたりを聞かせていただきたいと思っています」
キース「俺は昨日出所していきなり連れてこられただけだからな」
「全てを包み隠さずに話すかどうかは気分次第だ」
「ただその前に本当にその覚悟が有るかどうかは聞いておかないといけない」
ブラム「??」
キース「知り過ぎれば俺のように命を狙われる」
「コンラッド、証拠を見せてやれ」
コンラッド「あ、ああ」
コンラッドは昨日の一件の動画をブラムに見せる。
真剣にスマートフォンを覗き込み驚きを隠せないブラム。
キース「ここに写っている俺が自分と入れ替わっていることを想像してそれでもいいと思うなら俺は話す」
ブラム「ええ、問題ありませんよ」
「記者もある種アウトローな職業ですから」
キース「わかった」
そういうとキースは一呼吸おいて覚悟を決め、真剣さを感じさせる表情に変わった。
それはコンラッドとブラムにもビリビリと緊張感を与えるほどだった。
キース「きっかけは一件の殺人事件」
「テムズ川に上がった一体の死体だ」
「身元は海運会社の人間ですぐに輸送中の事故とされた」
「だが遺体の状態から明らかに事故や一般人の揉め事ではないとわかった」
「常軌を逸する程の拷問を受けた形跡があった事と遺体を隠す気が全く感じられなかったからだ」
「まるで見せしめやメッセージのようだった」
「少なくとも俺はそう感じた」
「そして捜査する中でいくつか気になる点が出てきた」
「事件前と後で被害者の会社の積荷の量が減るなどの変化があった事」
「会社内の人事が大改変されている事だ」
「事件の影響で管理体制の見直しや顧客のキャンセルが生じた為だと言っていたがそれにしても変更が多すぎだった」
「会社の売上3割減はやりすぎだ」
ブラム「私はその業界の事はよくわからないのでそういう事もあるのかとしか•••」
キース「確かにそういう事もあるのかもしれない」
「だが不自然だ」
ブラム「刑事の勘ってやつですか?」
キース「まあそういうことなのかもな」
「大した理由もなく会社の利益を捨てるのはおかしい」
ブラム「大した理由って•••」
「警察の発言とは思えませんね」
キース「従業員が1人コンテナ船から落っこちたくらいで1億ポンドもの売り上げを捨てるのか?」
「死んだのは下っ端の作業員だ」
「決してお偉いさんのご子息とかではない」
ブラム「遺体の状態的に奇妙な事件だと顧客の皆が思ったのではないですか?」
キース「拷問の形跡などはなぜか一切公表していない」
「発表ではテムズ川で海運会社の人間が死体で見つかったとだけだ」
「事件直後に取引先に個別にした連絡も同じだ」
「まあ俺の勘の良さの話はもういいだろう」
「こんな事は俺でなくても気付くはずだ」
「それでこの会社を調べれば出るわ出るわ」
「コンテナ船で大量の麻薬を運んでいた事を突き止めたあたりまではよかったがマフィアの存在と警察との繋がりがわかったあたりで何人もの殺し屋を送り込まれて大変だった」
「何がなんでも俺を消すという覚悟を感じた」
「なりふり構わず家にまでやってきて住宅街で撃ち合いになった」
「それで全部失った」
「育ててくれた両親•••」
「妻と生まれてくる筈だった娘」
「それが全部取り分のいざこざということで上手いこと片付いてしまったというオチだ」
ブラム「それは警察が関与していないと無理な展開ですね」
「外国のマフィアと繋がっていたという事ですか?」
キース「いや、この国のだ」
「あんたアングラ系の記者なんだろ?」
ブラム「そうですけど今となってはこの国でマフィアなんて都市伝説みたいな扱いですよ」
「マフィアは根絶したと発表されていますし」
キース「そうなると憶測で好き勝手に書き放題だな」
「いくらでも創作で食っていける」
ブラム「確かにそういう輩はいますが私は違いますよ」
「真実しか書かない」
「ただ平和すぎて書くことがなくなっていたところでした」
「仕方なく興味のないスポーツや経済の記事を書く事に苦痛を感じてたところにキースさんが戻ってきた」
キース「平和ね•••」
「俺はギャビストンファミリーというマフィアに命を狙われている」
「警察の上官もギャビストンファミリーのメンバーだ」
「他にもあらゆる国家機関や企業にもギャビストンの手先がいる」
「俺の知らない10年の間にそれはさらに増えている事だろうな」
「あんたが平和だと思って呑気にスポーツ記事を書いている裏で着々とこの国はマフィアに侵略され続けている」
「まあ何の証拠も出せない今の俺が何を言っても頭のおかしいやつの街頭演説でしかないだろうがな」
ブラム「確かになかなかスケールの大きい話なので鵜呑みにはできないですね」
「その辺りはこれから時間をかけてしっかり調査して裏取をする必要があります」
「実際に出所直後に襲撃を受けたという証拠がありますからね」
「個人の恨みレベルではあそこまでの人間は動かない」
「私は真実であるという前提でこれから動きます」
キース「じゃあギャビストンファミリーについて話そう」
「ギャビストンファミリーはヴィンセント•ギャビストンとルイス•テューダーという2人の人間が中心となって結成された組織だ」
「その中のルイス•テューダーはロンドン警察の警視正だ」
ブラム「・・・まあそれくらいでないと犯人のでっち上げなんてできませんよね」
キース「ルイスは買収されたわけではなく最初から警察の権力を利用するために警察になった」
「ヴィンセントとルイスの2人は幼馴染だ」
「ガキの頃から2人でそこらじゅうのギャンググループを潰して回ってたそうだ」
「その時から使えそうなやつを取り込んで大きくなっていった」
「そしてその頃から名だたる数多くの企業や国家機関に手先を送り込んでいた」
コンラッド「弁護士会にも何人かいます」
ブラム「規模はどれくらいですか?」
キース「さあな、10年前の時点で相当な数の機関への根回しが完了していたとしか言いようがない」
「何より全然尻尾を出さないからな」
ブラム「昔のように群れて幅を利かせてた時代とは違うという事ですね」
キース「昔はとにかく看板を大きくするのが目的だった」
「今はその存在を知っただけで脅されるどころか消される」
「だから奴らは何としてでも俺を殺しに来る」
「刑務所に入れられたのは俺を殺すことに失敗した事による苦肉の策だ」
「刑務所(中)でなら確実にやれると思ったんだろう」
「飯に毒を盛られたり色々あったがその辺の悪運は強いらしく俺はなかなか死なないらしい」
「違和感に気付いたりする能力に長けているんだとその時思い知った」
「俺が生き延びられた要因は刑務所の中枢まではファミリーの人間を入れる事が出来てなかったのが大きい」
ブラム「なるほど、刑務所の話も色々ありそうですね」
「ギャビストンファミリーについて知っている事はそれで全てですか?」
キース「ギャビストンファミリーのボス、ヴィンセント•ギャビストンだが、こいつはロンドンでカジノを経営している」
「目立ちたがりだから行けばすぐに顔を拝める」
「こっそりとマフィアやってる割にはこいつだけは昔ながらの派手好きな男だ」
「ただルイスをはじめ周りのサポートがしっかりしてるんだろうな」
「こいつからも何も出てこない」
ブラム「ではどうやって辿り着いたんですか」
キース「意外な繋がりをいくつか見つけただけだ」
「海運会社と警察」
「そして何で生計立ててるのかよくわからん奴らの繋がりだ」
「ここに警察が入ってなければそこまで疑うこともなかったんだけどな」
「特定の刑事に逮捕された過去を持つ者が後に貨物船の会社の従業員に多くなっている」
「コンテナ船の事件絡みでヴィンセントのカジノの従業員が書類送検されたことからヴィンセントについて調べていたら、当時の俺の上司にあたるルイス•テューダーが昔ヴィンセント•ギャビストンと仲良しだった過去が出てきて繋がったわけだ」
「昔ギャングをやってたやつらがこの2人にチームを壊滅させられたと口を揃えて言っていた」
「これに関しては調べればすぐに裏は取れる」
「こればっかりは今更隠しようがないからな」
「あとコンテナ船事件でマフィア側の人間だった警官が証拠隠滅のために多くが尻尾切りで殺されたり俺と一緒に刑務所に行ったんだが1人だけ難を逃れた奴がいる」
「理由はわからんがもしかしたらギャビストン側の人間で少し上の立場にいたのかもしれん」
「アルバート•グリーンウッドという男だ」
「俺の助手のような関係性だった」
「だからアイツもマフィア側からしたら消すべき存在のはずだ」
「今はどうしているんだろうな」
ブラム「こっちでも調査します」
キース「と、まあ事件の概要はこんなもんだろう」
「あとは刑務所の中の話でもするか?」
ブラム「刑務所の中はファミリーの人間はどれくらいいたんですか?」
キース「少なくとも刑務官に3人いた」
「囚人の中には立ち替わり入れ替わりで常に10人くらいはいた」
「皆が俺を殺そうと躍起になっていた」
ブラム「毒を盛られたりしてよく生きていられましたね」
キース「流石に致死性のあるものは持ち込めなかったんだろうな」
「解剖すれば証拠が出るからな」
「苦しみはしたが死ぬまでには至らなかった」
「何度かやられるうちに匂いやら周りの雰囲気で何となくわかるようになった」
「それに刑務官長が公平な人でな」
「俺に対する嫌がらせ等はすぐに見抜いて守られていた」
「その人のおかげで奴らはあまり大胆なことが出来なかったのもある」
「刑事になるもっと昔からそう言う土壇場の運みたいなのにはよく助けられていた」
ブラム「コンラッドさんとはその時から連絡を取り合っていたんですか?」
キース「こいつは勝手に嗅ぎ回って首突っ込んで来ただけだ」
「服役中は面会も手紙も一度もなかった」
「会うのは15年以上ぶりだ」
コンラッド「面会も手紙も監視の目があってどこにファミリーの人間がいるかわからない以上コンタクトを取る事はできません」
「ましてや私は法律家ですからね」
「近づけば必ずマークされる」
「そして襲撃現場に立ち合わせた今まさにマークされているでしょうね」
「私はキースがあのようなことをする人間ではないことを知っている」
「真実を•••」
話をするコンラッドをキースが遮る
キース「こいつは弁護士事務所をクビになって独立を余儀なくされた貧乏弁護士で俺を使って名を上げようとしているだけだ」
コンラッド「事務所を辞めたのは自分の意思だ」
キース「同じ事だ」
「どちらから話を切り出すかの違いだ」
コンラッド「•••」
「(まるで見ていたかのようだ•••)」
キース「まあ全体の流れとしては以上だ」
「今話した事の証拠はもちろんもうない」
「ギャビストンファミリーの奴らに家ごと燃やされたからな」
「警察には隠蔽だらけの捜査資料があるだけだろう」
ブラム「それは調査のしがいがありますね」
キース「そうだな、この10年で変わったことも多々あるだろうからな」
ブラム「キースさんはこれからどうされるんですか」
「生活とかその他諸々」
キース「まだ出所の翌日だ」
コンラッド「しばらくは私の助手として働いてもらおうと思います」
キース「はぁ?ふざけるなよ」
「何でお前の下に付かないといけないんだ」
「第一お前貧乏弁護士だろ?」
「俺のギャラが払えるのか?」
コンラッド「職につくにしてもどこにマフィアの人間が潜んでるかわからない」
「他に選択肢はないぞ」
「確かに金はないけど切り詰めればバイトの1人くらいは雇える」
キース「俺は刑事の適性がある」
「お前なんぞに雇われなくても私立探偵でもやればいいだろう」
コンラッド「10年も社会から消えてたのにうまくいくのかね?」
キース「泥舟に乗るくらいなら泳いだほうがマシだ」
コンラッド「まあご心配には及びませんよ」
「私の仕事が軌道に乗るまでの辛抱ですからね」
ブラム「これから2人は共に行動するわけですね」
キース「(勘を取り戻すまでの間の我慢だな•••)」
ブラム「今回はここまでとしましょう」
コンラッド「もういいんですか?」
ブラム「つけられている可能性も考慮するとあまり初めのうちから長々とはやれないですね」
「今後も都合を合わせて何度か取材させて頂き情報の共有ができればと思っています。」
キース「最終目標は何なんだ?」
「本でも出すのか?」
ブラム「どのような形で世に出すのかはまだ未定です」
「内容にもよるので」
キース「ま、1番金になるやり方、だよな」
「2人共がそれ基準で動いてるだろ」
コンラッド&ブラム「•••」
キースは立ち上がりながら言う
キース「次もノリノリで喋るとは限らないぞ」
ブラム「ええ、これからキースさんにとって有益な情報を仕入れて共有できればと思っています」
「それならまたキースさんの対応も変わってくるでしょうからね」
そう言うとカバンから封筒を取り出し2人の前に置く。
ブラム「今日の取材料です」
すぐさま封筒の中を確認するキースを横目にコンラッドが言う。
コンラッド「え、いいんですか?」
「こんな短時間で」
ブラム「これだけの時間でも濃い内容でした」
「ありがとうございます、またの機会に」
そう言うとキースとコンラッドを先に行かせて部屋を後にした。
キースは敵地に潜入したかのような警戒具合で出口へと歩を進める。
コンラッドの車の周辺を見渡しGPSなどが無い事を確認すると軽くため息をつきながら車に乗り込むと後に続いて乗り込むコンラッドに囁く。
キース「少し回り道しろよ」
コンラッドが車にエンジンをかけ発車するのを見送るブラムを警戒しての事だ。
車が発車するのをニッコリと笑顔で送り出すブラムを気にかける事もなく辺りを警戒するキースと微笑みを返すコンラッド。
キースはバックミラーに映るブラムを見えなくなるまで警戒しつつも周囲の警戒も怠らなかった。
そして車を走らせる事15分が経ったくらいでキースが閉じ切っていた口を開ける。
キース「もうそろそろいいか」
コンラッドは車を急転回させて帰路に着く。
コンラッド「帰ったら仕事だ」
キース「•••」
コンラッド「何で嘘をついた?」
キース「•••」
コンラッド「アルバート•グリーンウッドはマフィアの人間じゃないだろ」
キース「何でそう言える?」
コンラッド「あまり馬鹿にするなよ」
「こっちはこっちで調べてるんだ」
「キースの右腕のような存在だったはずだ」
キース「あの記者がどう出るか試してるだけだ」
「アルバートは俺が安心して接触できるであろう唯一の人間だからな」
「今も警察でいてくれればいいが」
コンラッド「今も変わらずパトロールに精を出しているよ」
キース「そうか、変わらずか・・・」
「アイツの周りにも撒き餌をしておかないとな」
「マフィア側も俺が接触しに来るだろうと思うはずだからどう出るのかを見たい」
「アイツの巡回ルートは変わってるか?」
コンラッド「10年変わっていないそうだ」
キース「じゃあ行こう」
コンラッド「待ってくれ、何をする気なのか聞かせてくれ」
キース「何を心配しているんだ?」
「ただ注意喚起しに行くだけだ」
「俺に近しい人間だったわけだからこれから危険が及ぶ事になるのは目に見えている」
コンラッド「それはこっちからマフィアに接近しに行くのと同じ事では?」
キース「危険である事は承知の上だがそれはアルバートにも当てはまる事だ」
「俺のせいで殺されるわけにはいかない」
コンラッド「出所直後は流石にマフィアもピリついているんじゃないのか?」
「もうちょっと時期を見たほうがいい」
キース「ならいつならいいんだ?」
「来週になったら何か変わるのか?」
「それとも俺はまた10年待たされるのか?」
「そんなことだから弁護士のくせに貧乏なんだろ」
コンラッド「関係ないだろそれは」
キース「今頼れる唯一の警察関係者だぞ」
コンラッド「関係者と言っても万年窓際警官の男に何ができるんだよ」
キース「失礼な、アイツには警察としての素質は十分だ」
「とにかく会いに行くぞ」
コンラッド「俺にも仕事があるんだ」
キース「出所のご挨拶だけだ」
「さっさと行け、窓際弁護士」
コンラッドは不満を感じながらもキースに従うことにした。




