記録89:追手の追手の追手の...
【中国統一戦争】
華興大聯邦側の主要作戦:上海殲滅作戦(実施中)、武漢包囲作戦
総司令官:李慧琳、鬼島吉塚
中華連邦側の作戦主要:四川奪還作戦(優勢)
総司令官:林榮樂
【損害】
華興大聯邦:九〇〇〇
中華連邦 :一六〇〇〇(推定)
市民:8,100,000(推定)
備考:特攻兵器桜花・改の無制限発射により敵軍の通信機器大破、情報の入手困難。
◆
後書きに兵器解説アリ。
「こうして二人になるのは初めてですね」
アナスタシアが思い出したように僕に言った。
僕はシカゴの街をアナスタシアと一緒にあるきながら、アレクサンダーと明日香を探していた。
確かに、初めてだ。大体明日香も一緒に居たのに、彼女が居ないだけでこうも寂しくなるのは、本物のアブラハムを思い出す。
別に恋心をいだいているわけじゃない。ただ、信頼できる仲間という感触だ。
「あの二人なら僕達よりも早くシカゴに着きそうだけどね。一体どこにいるんだろ」
「中峰さんたちに連絡は取れないのですか?」
「あ、その手があったか」
服の隙間から携帯電話を取り出して、中峰の番号にかけた。
すぐに彼女が電話に出てくれて現在の彼女たちの居場所を聞いた所、中峰は衝撃的な事を口にした。
『実は、二人につけたGPSが間違ってなければアレクサンダーが先にカリフォルニアに向かってバスで出発して、その少し後ろを明日香が追っているの。だからあなた達も急いで追って頂戴。車は手配しているから、それに乗り込んだら良いわ』
「了解、出来るだけやってみるよ。まだ何をするかも聞いてないからね」
『ええ、頼んだわ』
通話を終了したあと、アナスタシアにも同様のことを伝えて、僕達はとりあえず手配されているはずの車を探した。
盗聴されている可能性から、特徴を一切伝えられなかったが、それならそれでわかりやすい車になっているか、向こうが見つけてくれるかのどちらかだ。
「ラシードさん、あそこ、見て下さい。こちらに手を振っている人がいます」
道路沿いに立てられた立体駐車場の三階から、こちらに手を振っているアジア人がいたらしい。
アナスタシア曰く、こちらが気づいた素振りを見せると体を隠してしまったのだ。
「行こう」
アナスタシアを連れて、僕は立体駐車場に登っていった。
コツ、コツという鉄板を踏みつける音が階段を伝播し、拡散した。階段には誰もいないようだ。
そして三階に到着した時、僕達を出迎えてくれたのは、僕も、そしてアナスタシアも見知った人物、久保田だった。
無精髭を生やし、少しやつれた顔をしているが、重傷というわけではなかった。
「久保田さん!体は大丈夫なのですか?」
「少し辛いが、問題ない。話しているうちに時間はすぎる。早く行くぞ」
素早く停めていたバンにのせられ、立体駐車場を飛び出した久保田はルート66、つまり北米大陸を横断する道路に向かってアクセルを踏み込んだ。
アナスタシアと久保田が彼の怪我の具合について話し合っており、暇を持て余した僕はとりあえず車内に当然のように施されている武装を確認した。
AK-44が二丁、そしてAGS-40バルカンが一つ。榴弾は全部で百発程度だ。銃架は車体と簡単に結合されているため安定性は心もとないが、いざというときは証拠隠滅のために放棄できる仕組みになっている。
バックドアは横開きタイプでASG-40も後ろを向いていた。
「久保田、ちょっといいかい?」
「ん?なんだラシード、なにか気になることでもあるか?」
「いや、こんな装備、まるで追っ手が来るみたいだ。もしかして、バレているのかい?」
久保田はとくにハッキリとした返事をしなかった。
だが、僕はここで察した。
ああ、きっと久保田が内通者なんだな、と。
まず、久保田は中国で重傷を負っていて、そう簡単に戻ってこれるはずがないのだ。もしも戻ってこようとしても、彼の危険性を十分に知っている天菊がそれを見逃すはずがない。
そしてもしも此方側に来れたとしても、きっと中峰は許可しないだろう。勘の鋭い彼女なら、久保田が戻ってきたタイミングで任務には参加させようとはしない。それに、
最後に、久保田は決して逃げ道を用意するような男ではないということだ。
第一次沖縄奪還作戦でも、アフリカで行った日本から亡命してきた元権力者の粛清でも、どこに諜報しに行くにしても、彼は必ず背水の陣で挑んでいた。
今回のカリフォルニアへの旅でも、必ず追手の追跡はあるだろうが、それにしては武装が少なすぎるのだ。
これっぽっちだと、敵が車両でしか攻撃してこないことを見越しているようなものだ。
普通ならヘリコプターにぶつけるように自爆ドローンか小型レーダーが幾つかあってもおかしくはない。
そして、それはAGS-40の接合部にも現れている。
途中で危なくなったから投棄するなんてことは絶対にしないだろう。
安定性を極限まで高めて徹底的に迎撃なり攻撃するのが久保田だ。
「久保田、この辺りで中峰と合流するって話なんだけど、ちょっと探してきていいかな」
「ああ、良いぞ。じゃあ、ちょっと止めるか」
周囲を見渡し、良さげな飲食店を発見した。よし、あそこにしよう。
「アナスタシアも一応ついてきてくれない。僕武器持ってないからさ」
「はい。ちょっと待ってくださいね」
アナスタシアが武器の鞄を担ぎ、シートベルトを外している間に、僕はアル・メリッサの所から盗んできていた爆弾をセットし、起爆装置を靴の間に忍ばせた。
「じゃ、行ってくるよ」
扉を開けて、アナスタシアの手を取って一歩外に出た。彼女が僕だけを見ているようにするため、わざと彼女の手を強く引っ張って先程目をつけた飲食店の前までやってきた。
ここからなら、車の運転席がよく見える。
「ちょっと、ラシードさん!何を―――」
「ちょっと黙って」
振り返る。
素早く靴の間から起爆装置を取り出す。
久保田に見えるように大きくかざした。
彼の顔を見ると困惑ではなく、焦燥がにじみ出ていた。当たりだ。
「アッラーフ・アクバル」
起爆装置を起動した。
シカゴの大通りを爆風と火の粉が通り過ぎた。
火薬に引火して更に大きな爆発と轟音が鳴り響き、周辺の窓ガラスが割れた。
アナスタシアは呆然と立ち尽くしているが、僕はその手を思い切り引っ張って路地裏に駆け込んだ。
曲がりくねる路地裏を走り回り、都市の中心部からは少し離れた低層ビル群に出た。
「何を...何をしてるんですか!?ラシード!」
肩で息をしながら、アナスタシアは僕を殴り飛ばした。
サイボーグ化された右腕から繰り出された一撃は僕の腹部にめり込み、体は人形の様にはねて壁に衝突した。
目を開けると彼女はショットガンを僕に突きつけており、サングラス越しでもわかるほどの殺意をにじませていた。
「裏切りですか?」
「いいや。違う。それより、ちょっとばかし話を聞いてくれないかい?」
「......場所を移しましょう」
◆
拘束帯で手足を縛られた僕は近くの廃ビルの二階にいた。
アナスタシアは銃をしまったものの、切れ味の良さそうな黒光りするナイフを僕に突きつけている。
「言い訳を。内容によっては拷問しますから」
恐ろしいことを平然と口走るアナスタシアに、暗殺者の面影を感じた。やはり、ロシア帝国トップの暗殺者なだけある。
「......あの久保田は...偽物だ」
「なんですって?」
それから、僕は彼女から矢継ぎ早に飛んでくる質問に、全て答えた。
最初はナイフを首元に突き刺さんとしていたアナスタシアも、徐々に警戒を緩めて、最後には拘束帯を切ってナイフをしまった。
「そうでしたか...」
「やっと...分かってくれたのかい?」
「ええ。すみません、ラシードさん」
彼女の謝罪には一ミリたりとも謝罪しようという気が入っていなかったのが残念だが、まあ分かってくれただけマシだろう。
それにしても、アナスタシアがなにか怒っているように感じる。
「...ねえアナスタシア。怒ってる?」
「当たり前です。走っている時でも、もっと早くにに説明してくれたら良かったものを」
「君は聞く耳を持たなかっただろう?」
衣服に付着している泥を払い落として、僕は携帯電話で中峰に連絡を入れた。
久保田からはやはり連絡は来ておらず、中峰と杏子の二人はもう車で待機しているという。
現在僕達がいるビルの前に車を回してもらうことになり、電話を切った。
◆
「ウーヴ、もっと飛ばせない!?」
「無理です。これが限界です」
ルート66を装甲車で走り抜ける僕とCode:Clawsの一部隊員は先を行ったアレックスを追っていた。
どうやら彼は車よりもスピードの出る大型バイクで向かったようで、道中、車なら絶対に立ち寄るガソリンスタンドに、私宛に手紙が残されていた。
❖❖❖
明日香へ
MG51はお前にやる。扱えるかどうかはわからないが、無理ならウーヴにでも渡しておいてくれ。
急に一人でいってすまない。すぐに追ってくることを見越して、俺は道路を一部通行不能にした。できるだけエリア51には早く到着して欲しい。どちらかの勝敗が決したタイミングで来てくれると最高だ。
じゃあ、あとは頼んだ。
未来と人類を頼む。 ―――アレクサンダー・ハインリッヒ
❖❖❖
「くそっ、アレックス...」
手紙をクシャッと握りつぶしてため息をついていると、給油とガソリンスタンドの職員に説明を終えたウーヴが私に話しかけに来た。
「できるだけ急ぎますが、万が一を想定して、あなたにはCode:Clawsの装備を一部貸し出します。恐らく今後も我々と行動することが多くなるでしょうから」
「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」
ウーヴに連れられ、Code:Clawsの装甲車を物珍しそうな顔で嬉しそうに写真を撮る職員の間を通り過ぎ、一台の輸送トラックに乗り込んだ。
中には何着かの装備が並べられており、ウーヴがその中から自分の体格に合うものを選んでくれた。
全身装備だから、結構重くて暑いのかと思っていたが、そんなこともなく見た目に反して軽く、通気性も良い装備だった。そして、Code:Clawsといえばのフルフェイスヘルメットを被ると、内側から外の景色が見え、正面の透明ディスプレイに様々な情報が表示された。
体力の余裕、心拍の表示、筋肉の状態、内臓機能、通信状況、周辺大気の状況、温度、湿度、風向、高度、などが視界の端に表示されていた。
ちなみに、サイボーグ化された右目のソフトはオフにしておかないと、一部機能がヘルメットのものと被ることになってややこしくなるので、一つの機能だけを置いて暫くお休みしてもらった。
ちなみにCode:Clawsは下着から専用装備なので、脱いだ服はすべて近くの収納棚に入れておいた。
Code:Clawsの装備を総括すると、ヘルメット、上下謎素材のスウェットの上に、全身装甲板と同じようなセラミックと合成樹脂のシールド、靴は頑強な作りになっていて、少し歩きにくさを感じるものの、自分の姿勢によって素早く靴が最適な形に変形するので、なれるまでにそう時間はかからなかった。
グローブは思っていたよりも薄手で、理由は、普通、Code:Clawsの隊員は全身を内部から別部品で置換しているので、外部装甲や関節の多い部分は装甲を一部省略しているのだという。
つまりCode:Clawsの一般隊員なら軽機関銃は豆鉄砲扱いだが、私にとっては短機関銃が豆鉄砲扱いになるということだ。
十分頑丈だが、それでも他の隊員以上に被弾や攻撃には気をつけなければならない。
「ウーヴ、行こうか」
「はい」
とりあえず戦闘中ではないので暑苦しいヘルメットを脱いで、再び装甲車の中に戻った。
そしてすぐに私達の車列はルート66を走り、北米大陸の中央平原を駆け抜けていった。
◆十数時間後...カリフォルニア
「さて、到着か。武器は...っと」
独り言をつぶやきながら、俺はカリフォルニアのEV専用武器倉庫の前にやってきた。
心の準備をするため、空を見上げると、この都市にしては珍しく星が輝いて見えた。ふう、とため息を付いて、俺は言った。
「敵討ちだぜ、先生。見といてくれ、イッツ・ショータイムだ」
倉庫の重い扉を開けて、俺は中に入って行った。
兵器解説 AK-44
言わずとしれたロシアの多面的企業、カラシカライ・コンツェルンが設計、開発したAKである。
本銃には主にA型及びB型が存在し、これの区分は、対人戦闘においては射撃管制システム搭載の5.45x39mm弾を使用するA型、そして来るサイボーグ戦で使用され、主に特殊部隊やサイボーグ部隊に配備されている、より高性能で様々な機器を搭載しており7.62x39mm徹甲弾及び7.62x39mm装甲融解弾を使用するB型と分でかれている。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『実験場』




