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記録87:デトロイト市警

【中国統一戦争】

華興大聯邦側の作戦:重慶奪取作戦(成功)

          次→上海殲滅作戦

総司令官:李 慧琳


中華連邦側の作戦:四川奪還作戦(失敗)

          次→上海防衛作戦

総司令官:馬慶(重慶奪取作戦終了後のSB-49の支援爆撃により戦死)

     後任→林榮樂


【損害】

華興大聯邦:七〇〇〇

中華連邦 :一〇〇〇〇


市民:8,000,000


備考:大都市での思想、人格の弾圧開始により死者増加が懸念

そこら中に麻薬の匂いと火薬の匂いが充満するデトロイトに足を運んだ私達は、とある人を探していた。


「本当にここに中峰はいるのか?」


アレックスが嫌な顔をして言った。こんなに廃れきって政府も見放した街に来たくなかったのだろう。それは私も同感だ。汚いし臭いし景観は最悪。

観光するには最悪の場所だ。アメリカ人も仕事でも来たくない場所ナンバーワンだろう。


「ここなら、きっとね」


道端を見ると煙草の吸殻のように見えるものがいくつも散乱していた。恐らく大麻などの喫煙タイプの麻薬だろう。

それに、そこら中に浮浪者のおっさんがいっぱいいる。

中には多分死んでる人もいるだろう。


デトロイト、一度は聞いたことのある都市だろう。

かつでは自動車産業で栄えた街だが、グローバル化と日本車の犠牲となり、連邦政府の奮闘むなしく完全に没落し、いまや誇るべきところは何もなく、ギャングの住処となり、昼夜問わず、サイバー空間であろうとどこでも犯罪が発生している場所だ。


ほとんどの通信は外部に出ないようにと中央政府から電波を遮断されているが完全に遮断されたわけではない。わずかに漏れ出ている電波を使ったりしてこの街のブラックハッカーは犯罪に及んでいるのだ。


そして、これは中峰や杏子にとっても非常に都合の良い場所なのだ。


治安が悪く迂闊に外に出られないという欠点こそあるものの、デトロイト市内からの犯罪ではどこが犯罪の発信源なのかを特定することは極めて困難であり、重大犯罪でない限り中小企業の情報流出程度ならデトロイト市警は本格的に動かない。

まあデトロイト市警なんて本格的に動いても全然怖いものでもないし...それよりも怖いのはデトロイト市警が軍に要請を出したときだ。


ここには一度Code:Clawsが一個小隊レベルではあるが乗り込んできて数々のギャングを手当たり次第に鏖殺していたという記録が残っている。

それは新兵訓練のためだったとも、ただの暇つぶしだったとも言われている。

なにせ、ちょっとしたことでCode:Clawsが乗り込んでくるというのは、あまりない...と信じたい。

中峰たちがやろうとしている事を、大国と言えども混乱中の国家がそれほど強気に探し出してくるとは思えない。


「きっと彼女たちなら、この辺に...ん?」


コツン、という足音が聞こえた気がして、私はとある廃ビルの前で足を止めた。

ビルの上を眺めていると、少しだけ物音がする。

たぶんここに人がいるのは確実だろう。ギャングの可能性も否めないが、ならこれだけ静かにしようとしているのも意味がわからない。

何かあるのは確実なので、登ってみることにした。


寂れて今にも崩れ落ちてきそうな入口を抜けると、すぐに非常階段が見えてきた。

エレバーターはすでに使い物にならなくなってるようで、うんともすんとも言わなくなっていた。

階段を登っていくに連れ、どうやらこの建物はホテルだったということに気がついた。

きれいに並べられた客室の扉の縁は瓦礫が山になって入れないようなところも多々見受けられた。


所々に血痕が付着しているのはこの都市が故の愛嬌といったところだろうか。

しかし、血痕に混じって少し新しい感じの弾痕もあるというのは少し怖いところだ。

扉を開けた瞬間にズドンとイカれる可能性がある以上、こちらも慎重になって探索を続ける他無いだろう。


「アレックス。武器出しといて」

「了解」


彼がカバンから武器を出している間、私はサイボーグ化されている右目の付属のソフトウェアを起動した。

実はキョウメイムルが混じった影響で、父の目の中にいた母の記憶も一部合流しているのだ。

そして目の中で母はいつも父を手助けしていて、父は気づいてすらいなかったソフトウェアを母は父の意識外で使いこなしていた。

そのノウハウが私にも受け継がれているというわけだ。


まず、私は温度センサーを起動した。

ミスった場合は片目が可視光線の視界、もう片方の目が赤外線のサーマルカメラの視界と全く使い物にならないが、意識外でこのソフトウェアを起動して、温度に反応して電気信号を発する設定にすれば...よし、できた。


アレックスの方を見てみると、若干不快感はあるが、温度に反応して彼をよりくっきり捉えている気がする。


そして階段の上に目をやってみると、早速反応した。

マズイ...見られてる。

だが、見えない。光学迷彩マントだ。本当にマズイ事になったかもしれない、きっと合衆国でもかなりの有力者がバックに付いている勢力だ。


「アレックス。そういえばだけど、拳銃持ってる?流石にここで機関銃乱射はマズイからさ」

「ああ、そうだな。持ってるぜ」

「ちょっと見せて」

「了解、えっと確かここに...あった、ほらこ―――」


アレックスの手から拳銃を奪い取って熱源の方に向かって拳銃を発砲した。


乾いた銃声の後、階段の上の空間が歪んだ。

命中し、撃たれた人間が倒れたかと思ったが、光学迷彩マントを脱ぎ捨てて襲いかかってきた。


「明日香!」


咄嗟のところでアレックスが飛び出して機関銃の銃床のフルスイングを相手にお見舞いし、階段の上まで弾き飛ばした。

そこで始めて彼、いや彼女の顔が確認できた。金髪の長い髪に青い瞳、それはまさしくCode:Clawsの隊長のウーヴだった。


「ゴホッ、ゴホッ...やり過ぎです...」

「チッ...何で生きてるんだよ」

「こら、アレックス」

「フンッ」


ウーヴだと分かった瞬間に態度が急変したウーヴに、私は聞いた。


「何をしにここへ?場合によっては君を殺さなきゃならない」

「恐らく...目的は同じでしょう。ブラックバード政権の打倒です」


銃床が命中した腹部をさすりながらウーヴは言った。

階段を下ってくる途中、服の上から装備していたCode:Clawsの特殊アーマープレートの破片がボロボロと崩れ落ちていた。

そして私が撃ち、命中したはずの弾丸は腕の特殊プレートで弾かれて、小さな傷程度にしかなっていなかった。

アレックス、一体どんな力で殴ったんだ...そしてそれに耐えられるウーヴも銃も一体何なんだよ。


「さて、お二人の目的は?」


ウーヴはそう言って被っていたヘルメットを脱いだ。

それと同時に、アレックスが青ざめた。そして、母国語で呟いた。

「女だ...」と。

そういえばアレックスはまだ彼女の素顔を見たことがなかったのだった。ジブラルタル基地の戦闘でも、アフリカから中国へ移動するときでさえ、アレックスの前でそのヘルメットを脱いでいるところは見ていなかった。

逆に私、いや、父の前では何度か見せていた。


「おい、明日香。こいつアナスタシアに似てないか」


え?いや、そんなわけ。でも、確かに、目元が、少し似ている?それに性格も若干似ている気もしなくもないが......


「まあ、気のせい...じゃないかな。本人に聞いてみたら良いんじゃない?」

「でも、アナは兄弟は一人も居ないって言ってたぞ」


アレックスとヒソヒソ話していると、不機嫌を剥き出しにしたウーヴが私の方を掴んで言った。


「何の話ですか?任務中ではないのですか?今回は利害の一致で見逃しますが、次はありませんよ」

「ごめんってば、ウーヴ......それで政権打倒のために何をしていたの?」

「恐らく貴女達と同じでしょう。エージェントの討伐です」

「エージェントだって?」


驚いた表情でアレックスが私を凝視した。


まあ、ここまで隠し通せた分、及第点と言ったところであろうか。

私は階段に腰掛けて少し低い声で言った。


「この国で、私はエージェントのうちの一体を殺す。番号はエージェントⅢ、名前はビナーだ。場所は旧エリア51、今は無人の住宅街が立ち並んでいる。現在、そこにいるとの情報がとある情報筋から入った。そこを急襲する」


ウーヴも頷いてくれた。同じタイミングで襲撃を開始してくれるのだろう。


「...まあ、分かった。俺はその命令にしたがう。それに、俺は個人的な―――まあ、大丈夫だ。それで、いつになるんだ?」


別に襲撃のタイミングはウーヴに知らせても良かったのだが、このタイミングで出会ったからには、まだ彼女を完全に信用し切るわけには行かないので、私はアレックスの耳元で囁いた。


「中峰と杏子とアナスタシア、ラシードがシカゴに集合し次第、武器供給地点のカリフォルニアに向けて出発する。アナスタシアとラシードは諸々の準備を終了させてから来るだろうから、少なくとも三日程度は準備できる」

「そうか。なら、俺は少し先に行ってていいか?」

「なにかあるの?」

「ああ、ちょっと野暮用だ。先に行くぞ」

「あ、ちょっと―――」


アレックスは踵を返してビルの出口に向かった。

私が後を追おうとしたが、彼の去り際の眼光を見て、私は背筋が凍った。


カルロスと同じような目をしていたのだ。

暗くて、冷たい目だ。今までの温かい雰囲気はどこにも見当たらず、カルロスのような、いや、カルロス以上に目に光がない。

そこにある感情が一体何かもわからない。


手が、震えている...?


「明日香さん!」

「あっ!ごめんウーヴ。アレックスを―――」

「あれは止めないほうが良いですよ」


悔しそうな表情で地面を見るウーヴに、私はどうすることもできずにその場に立ち尽くすだけだった。


「ねぇ、ウーヴってさ―――」

「隠れて!」


彼女が私の手を引き、階段裏の影に身を潜めた。何をするのだと言う前に、誰かが階段を上がってきて叫んだ。


「デトロイト市警だ!隠れても無駄だ!いますぐ出てこい!」


まずい、警察が動いている...ということは、こちらの動きが読まれたか...ん?まさか、アレックスが?いや、そんなまさか、あるわけ無い。

彼に限って、今こんな裏切るようなこと。でも、もし、裏切られたのなら、マズイことになっているだろう。


「先を急がないと。ウーヴ、今からでも急襲しに行かないとマズイかもしれない」

「そうですね。もしもを想定して動きますよ」

「了解」


ウーヴは階段の影から飛び出してデトロイト市警の顎元を拳で突き上げて気絶させた。それから拳銃を奪って私に渡した。


「Glock47ですが、まあ護身用です。持っておいて下さい」

「え、良いの?奪ってるけど」

「この街では日常茶飯事ですから」

「なら、申し訳ないけど...有り難く借りるよ」


大切に使います、とぐったりしている警察官に手を合わせてからビルの裏口から外に出た。

警察官に話しかけられれば即座に気絶させるウーヴに内心引いていたが、彼女のその強引さもあってか、割とすぐにデトロイトを出ることができた。


その時、私の携帯電話に着信が入った。

ポケットを弄って携帯電話の画面を見ると、次の任務についてのさらなる詳細が送られてきていた。


それも、中峰と杏子からだ。

メッセージには端的にこう書かれていた。


『ターゲット、現地到着』

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『前線崩壊。目標、南京』

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