記録86:世界大戦だ!モルヒネを売れ!
第三次世界大戦前、俺達はアメリカ内で肩身の狭い思いをしてきた。
メキシコ人だから、移民だと言って石を投げられ、どうせ麻薬カルテルの組員だと言ってどこでも働かせてはくれなかった。
ゴミ箱の食べ物をあさり、ホームレスから物資を略奪し、時には犯罪にも手を染めた。
生きるために、最低な人間を実行した俺達は、ある日カルロスに偶然出会ったのだった。
ひと目見たときから、こいつは違う、絶対にビッグな存在だと思っていた。なにせ、目に一切の光がなく、そこに広がるのはただの深淵、生きている人間の目をしていなかった。
それなにも関わらず、人間をやたらと引き寄せ、味方につけていく。そんな姿に、俺は憧れ、カルロスに近づき、そして流れるようにAtlantic Committeeに入会して、すぐに幹部まで上り詰めた。
カルロスのこともだんだん分かってきたかもしれないと思った矢先、アジアを主戦場とする第三次世界大戦が始まった。
アメリカは旧敵の日本と手を組み、日本に主戦場を任せ、アメリカは物資支援を行った。
そして、戦争に負けるかもしれないという不安から、国内が不安定化して犯罪率も上昇した時、ブラックバード政権がギャングの取り締まりの強化を宣言した。
それから、カルロスは委員会の人員削減を開始した。カルロス自身が捕まらないようにするためだろう。
当時五千人いた人員を五百人まで削減し、その全ての人員にアメリカ各州における公務員の買収を命じた。
他のギャングが次々と壊滅に追い込まれる中、カルロスの判断のお陰でThe Atlanti Committeeだけは存続できた。
そしてある日、俺はカルロスに呼び出されて待合の場として指定されたカフェで、とある任務を受けた。
それは、中国に極秘で麻酔と称してモルヒネとコカイン、その他の合成麻薬を輸出するというものだった。今までクスリには手を染めてこなかったカルロスが、急にクスリを使いだし、俺は動揺した。
その理由を、カルロスはこう語った。
「金がいる。ただそんだけだ。俺はギャングだ。目的のためならなんだってする」
「だ、だけどよ!カルロス!クスリなんてやっちまったら、俺達ギャングが更に苦しむことになるぜ!?」
「だからどうした」
「どうした...って、仲間の命が大切だとは思わねえのか?」
俺の言葉に、カルロスは少し顔を上げてため息をついた。左手で顔を拭い、俺を見た。
背筋が凍った。
これまで感じたことのない、底なしの暗闇の中にいるようだった。
足がすくみ、何も言えない状況が続いたのは、ほんの数秒だったが、俺にはそれが数分のように感じられて、自分が死んでいるのではないかと錯覚してしまった。
「ま、いい。帰れ。この件は他の人間に任せる」
「...分かった」
悔しさと安堵感で、正直自分が何を考えているのかが分からなかった。
ただ、これだけははっきり覚えているのだ。
『早くこの男の元を離れなければ』と。
◆通話終了
「それで、どうでしたか?こちらから聞きたいことは山程ありますが」
「ま、そんなもんさ。あいつは分かってない」
それだけ言ってカルロスは黙り込んだ。
「何がしたいんだ?」
アレックスが口を開いた。カルロスはギョロッとした冷たい目でアレックスを見た。
そして、私の方を向いて忠告した。
「俺はな、身分を尊重するんだ。だから、ペットのリードはしっかりと握っておけ」
「お言葉ですが、私より彼のほうが世界的な権力は握っていますよ。少なくとも、あなた以上には」
驚いた顔をしたカルロスは、少し硬直した後、高らかに笑った。
「ハッハッハ!面白い冗談だ!その男は何だ?言ってみろ」
初めて気が大きくなっているのを見て、私は更に慎重になり、言った。
「申し訳ありませんが、彼は私と同じく、本当の身分を明かせません。仮の身分ですと、彼はEVの外交官で、私は日本の外交官兼探偵です」
嘘というものは面白いもので、真実を含めば含んでいるほど信憑性が高まる。
日本が分裂しかかっていることは、恐らくこの男の耳にも入っているはずだ。
ここでEVと日本が一部では確実に繋がっているということを信じ込ませる。そうすればブラックバード政権の敵であるギャングのボス、カルロスも合理的に考えれば私達との関係悪化をあまり良くは思わないはずだ。
「では、ここで少し話させていただきます。私達の目的はブラックバード政権の打倒及び民主党政権の擁立ですが、それとアル・メリッサとの間になにか関係はあるのでしょうか?」
私はカルロスをまっすぐ見て言った。挑戦的な笑みはこぼれていたかもしれないが、おおよそ冷静に話しているようには見えているはずだ。
実際は怖くて怖くて服の下では鳥肌がずっと立っている。
「あぁ......お前にも分からないか...俺はブラックバード政権を倒したいんじゃない。大統領本人を暗殺したいんだ」
「は!?」
顎が外れたように重力に従って落ちていく感覚があった。周囲にいたカルロスの護衛も皆一様にめを丸めていた。
「今日はここで終わりだ。解散だ」
カルロスが立ち上がり、店を出ようと私の横に来た時、急に彼はかがんで私の耳で囁いた。
「エージェントⅠが背後にいる。Code:Clawsに話しておけ」
「カルロ―――」
「その辺にしとけ、明日香。もう十分だ。"こっち"も片付いたみたいだ」
アレックスが私の方を掴んで無線機を取り出して言った。
「ラシードの救助及びアル・メリッサの殺害完了。ラシードが遅発性の猛毒を酒の中に仕込んでいたようです」
「やぁ、聞こえてるね。明日香。ミッションコンプリートだよ。なんでも持ってるに越したことはないね。それで、アレックスの盗聴器から聞こえてたけど、これからどうする?大統領云々言ってたけど、僕達も目的は同じく政権の打倒みたいだし、一旦集合しようよ。場所はどこにしようか?」
私は少しだけ考えた後、言った。
「じゃあ、装備点検諸々含めてシカゴに集合しよう。三日後までにはシカゴで直接会おうか」
「分かりました。では、切りますね」
通信終了。
「さ、行こっか」
「ああ」
アレックスと横並びで歩き、私達はシカゴに行く前にデトロイトを目指した。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『デトロイト市警』




