記録85:ギャング・スター
明日香とアレックスがパーティーに出席している傍ら、私はラシードから発生している電波を追ってギャングの本拠地に潜伏を開始していた。
お決まりの換気扇の破壊とピッキング、近づいてきた人間たちのステルスキル。死体は川に放り投げておくといういつものルーティーンをこなした後、遂にアル・メリッサがいるかもしれないギャングの基地内部に入った。
思っていたよりも防犯設備はゆるく、監視カメラも少なかった。
そこまで基地を守る人間はいないのか、それともラシードがそういうふうに仕向けてくれたのかと考えていると、廊下の曲がり角の先からラシードの声が聞こえてきた。
「ほう、それで?クラ・カルロスはどんな男なんだい?」
私の足が止まった。
ここで話を聞いていれば、図らずともクラ・カルロスやアル・メリッサの情報が手に入る。
ショットガンの銃口を上に上げて、警戒はそのままで耳を傾けていた。
不意に、酒の匂いが漂ってきた。かなり強い酒だ。ラシード自身は酒を飲んでいるような声ではなかったので、恐らく自白剤のように使っているのだろう。
しかし、相手はアル・メリッサだ。一体どんな罠を仕掛けているか―――
「あいつぁな。いい男だぜぇ?なんてったって...男の象徴みたいな強え男なんだ」
ターゲットから情報を引き出すには、まずは浅いところから聞いていっているのだろう。
さすがだ。しかし、なぜそのやり方を知っているのかが疑問だが。
続いて、ラシードが言った。
「じゃあ、クラ・カルロスとはどうやって出会い、そして分かれたんだい?君のような人間なら、さぞ気に入られただろうに」
「そうだなぁ...俺はあいつに気に入られちまったんだ」
「その言い草だと、なにかマズイものでも見たんだね」
「あれは...そうだな、ちょうど大戦が始まったときだった―――」
◆
「中峰少佐、副大統領からある程度の情報を入手することに成功しました。後ほど伝えます」
「了解、あとクラ・カルロスがあなたのことを呼んでいるらしいから会いに行ってあげなさい。場所はワシントンのカフェ『The Tea』らしいわ。念の為、護衛を一人つけておいたから、現地で落ち合ってね。じゃあ、切るわね」
ツーツーという通話終了の音が流れた。アレックスが居るということは、どうやら伝えていなかったようだ。いや、向こうの都合もあるだろうし、伝えないほうが良かったのか?まあいい、護衛が増えるのならそれに越したことはないだろう。
「アレックス、The Teaっていうカフェってどこ?」
「ん?それか...なら、そこの曲がり角にあるな。ほら、そこの男、明らかにお前を見てる」
じっと前を見てみた。一見すると周囲の人間に溶け込んでいるが、近衛隊の訓練された人間特有の研ぎ澄まされた目をしている。恐らくあの目なら、結構戦える人間だろう。
「やあ、久しぶり。"ペットの黒い鳥"は元気?」
「いえ、最近は水しか飲んでいなくて。そちらこそ、大きな犬を連れているようで」
私が近衛隊の暗号の一つを言った時、綺麗にその暗号の返しを言ってきたついでにアレックスを睨んで警戒心剥き出しで話した。
とりあえず、名前だけ聞いておかないと、と思って彼の顔をまっすぐ見た。
なんだか、見たことある顔してるな...たしか、天菊の側近の谷川という男だったような...
「どうかしましたか?」
「いえ、何もありませんよ。谷川さん」
「...以前お会いしましたね、明日香さん。今日はいつもの探偵の服じゃないんですね」
「副大統領のパーティーの後なので、一度来て捨てるのももったいないじゃないですか」
「それはそうですね。では、行きましょうか」
アレックスにこの男は警戒しろとのサインを出した。アレックスも一応意味はわかったようで頷いてくれた。もしかしたら、カルロスよりもこの男を警戒しなければならないかもしれないのだ。
ガチャッ...
入店と同時に、前回同様に空気が変わった。徹底的に自分の縄張りでしか話し合いをしようとしているのだろう。
用意された椅子に座り、カルロスと正面から向き合った。彼の目は相変わらず冷たい。そして暗くて深い目をしている。
「あいつはどうだ?」
「私の仲間が潜入調査中です。まだ生きてますし、今は会話中です」
「そっちの音声はここで流せるか?」
「はい、可能ですが、流しましょうか」
「ああ、そうしろ。その間に、そこのお前、日本人の方だ。お前、出ていけ」
ピン、と空気が張り詰めたのが分かった。冷や汗が垂れる。僕も今カルロスの顔を見れば殺されるかもしれない。弾丸が飛んでこなくとも、恐怖で失神するかもしれない。それほど強烈な悪寒が僕を襲った。
「......了解」
張り詰めた空気は一気に和らぎ、一瞬普通のカフェの空気に戻った気がした。
谷川が退店した後、アレックスが言った。
「俺はいいのか?」
「ああ、構わん」
カルロスはため息をついて手元においてあったコーヒーを飲み干した。そしてすぐにもういっぱいのコーヒーが彼の前に出された。
私は、音声を流す準備が完了したので彼の目を見て言った。
「もう流せます」
「流すんだ」
スイッチを押してスピーカーを机の上に置いた。
少しのノイズの後、アル・メリッサの声が聞こえてきた。
「―――クラ・カルロスは、最強の男だ。なんたって、大戦をビジネスにしたんだからな。だが、俺はそれが嫌だったんだ」
アル・メリッサの声が曇り始めたタイミングで、カルロスはため息をついてアル・メリッサの話をじっくりと聞き始めた。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!次回はアル・メリッサの回想です。
次回『世界大戦だ!モルヒネを売れ!』




