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記録75:脇を攻める

記録によると、二〇四六年、第二次日中戦争の中盤に、ようやく王慶猛の尻尾をつかんだようで、流れるようにして彼が指揮をとる戦車大隊に潜入した。

情報操作を行い、自分が自動的に次に部隊に編入されるように仕向けたというのだ。


そして入隊してからは王慶猛の情報を集めて、資料に纏めていた。


そんなある日、整備兵だった彼は突然王慶猛から呼び出されたのだった。

本人もバレたと思って懐に拳銃と手榴弾を持って彼の部屋に入ったと記録されている。しかし、彼は微笑んだまま言った。


「君、スパイだね?」


拳銃を抜き、彼の眉間に突きつけ、発砲しようとしたが王は言った。


「私は次の任務でほぼ確実に死ぬだろう。君に、スパイとしての自覚があったなら、きっと今頃私を凌ぐような策士が入念に準備を進めているだろう。私が死ねば、この国も終わる。ギリギリで繋ぎ止めていたピースが弾け飛んで二度と繋がらなくなるだろう。だから、君には私の息子に私の遺志を託してほしい。彼は、若い頃の私によくにているからきっと国家が滅べば国を興すだろう」


何故か、引き金を引く指が止まった。普段ならこんな時間稼ぎまがいのことを言われた時点で引き金を引いて脳天に穴を開けているはずだった。

しかし、彼の目には光があった。死の後さえも見据えたような遠い光だったが、それは消えることなく輝いていた。


「任された、それで、俺は何をすればいい?」

「私とのこの会話を纏めてファイルにしてくれ。私の個人情報を近い内に君に全て託すから、私に関するファイルを君の一番信頼できる人間に渡して、こういうんだ。『君の一番信頼できる人間にこれを託せ』と」

「......仕方ないな。では、俺は今週中にここを立つから、そこまでに準備をしておいてくれ、あと、おそらく俺に刺客をさしむけても無駄だぞ」

「知ってるさ。他の部隊での不審死がそれを物語っているだろ?」


高笑いする王を後に、彼は部屋を出て、一通り証拠を抹消して情報を受け取った後、日本国へ帰還したという。そこからファイルは数人の手を回って、僕のもとにやってきた。



「と、まあこんな内容だ」


僕がファイルを閉じると、大きな声で反論が飛んできた。


「それとこれとは全く関係ないだろう!?」

「たしかに関係ない!」


僕は声を張り上げてそういった。予想外の言葉に会場が静まり返った。僕は呟くように小さな声で言った。


「だが、読み取れることがある。なぜ王慶猛はスパイに自分の情報をすべて渡したんだい?答えは簡単だ。身内に信頼できる人間がいなかったんだ。残念ながら、一番信頼できる側近と名乗った高政務部主席、あなたは決定的な言い間違いを犯した。自分でもそろそろ気づいているはずだ。王慶猛の近くにいたと言えるなら、彼は自分の情報が流れ出すような信頼できない人間に脇を固めさせない!」


おそらくこれが決定打になったのか、まわりの人間が勝手に犯人と決めつけたのかはわからないが、高の顔からは戦意が失われた。


その後、ワンの的確な指示によりすぐに彼ら二人は独房に叩き込まれ、会議は続行された。



再度登壇したワンはマイクの前に立った。


「少々、波乱はあったが、想定内だ。これより、国旗の発表を行う」


誰も知らされていなかったことに、会場がざわついた。そんな事を一切気にしないワンは、おそらく先に色々知らされていたラシードから旗を受け取り、国旗掲揚台に巻き付けて、会場の天井近くまで釣り上げた。


挿絵(By みてみん)


「これが...」


全員がその圧巻の国旗に息を呑んだ。中心の黄金の星を囲む黄金の龍。そして華興の二文字。まさしくこの国家を体現するものだった。


「じつは、僕が作ったんだ」

「えっ!?」


ラシードが僕の耳元で囁いた。

ニコっと笑いながら国旗を眺め、大きくため息をついて感傷に浸っているようだった。けっこう大変な作業だったのだろう。

おそらく何回もワンからダメ出しを食らって作り直しまくった結果がこれになっているのだろう。


...にしても、中国らしい国旗だ。

これから隣国の国旗がこれになるかもしれないと思うと、少し親近感が湧いてくる。


国家は現在制作中だとワンが言ったタイミングで、聞き馴染みのある声が会場の入口から聞こえてきた。


「お集まりの皆さん、失礼しますね」


天菊だった。


なぜ?どうして?という疑問が止まらず、僕は口を開くことしか出来なかった。

ラシードも、そうだった。何なら、そこにいたすべての人が口を開いたまま、脳内で情報を整理できていなかった。


彼女はコツコツと階段を下って、中心で登壇しているワンの前に立った。ワンは何も言わずに台から降りて、天菊と同じ目線に立った。


「華興大聯邦、国家主席、王慶齋だ」

「日本国、国家近衛隊、第一戦闘群長、天菊桜です」

「「以後、よろしく」」


淡々とそう言って、二人は固い握手を交わした。そして、事前に示し合わせていたかのようにワンが椅子を持ってきて、皆の見守る中、近衛隊兵士がバックにいる天菊は同じように親衛隊を引き連れたワンと向かい合う形で座り、その場で会談を始めてしまった。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『日華友好条約』

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