記録74:推理魔
「皆落ち着くんだ」
ワンが群衆を落ち着かせた。非常灯が点灯してから、ワンの近衛兵がすぐに入り口を塞いでいたので、犯人は逃げること無くその場に留まっていた。
未だガヤガヤとしている群衆に向かって、ワンはもう一度言った。
「静まれ。諸君は、誇り高き、華興大聯邦の国民だ。私を、失望させるな」
その言葉に、一瞬で会場内は静かになった。そして、会場のすべての視線がワンに注がれ、彼は一度だけ頷いて言った。
「この女は、私が事前に雇っていた傭兵だ。頭がキレるので、雇ったのだ」
ざわざわという声がもう一度上がりそうになったが、ワンが右手をスッと上げると落ち着いた。
そして、ワンは携帯していた拳銃で私が頑張って捉えた犯人を何のためらいもなく射殺した。
射殺しやがったのだ。退路を塞がれた私は、ここで『公開犯人指名』をしろということだろう。まったく酷ものだ。
まあ、自分もワンを囮に使おうと言ったので何も言い返せないのだけど。
仕方ない、と腹をくくって登壇し、マイクを使って話し始めた。まず、このセリフからである。
「この中に、犯人がいる」
一気にざわめき、お互いがお互いの顔を見合っていた。私の目星がついていた五人や政府高官はじっとしたまま動いていなかった。
パチンと手を叩いて、全員の視線を私に集めた。
息を吸って、吐いた。今は山雁明日香ではない。山原恭明だ。
「犯人は、王主席に対し、激しい不信感を抱いていた。そして、自分で合衆国の兵器を集めて武装できるほどの財力を持っている。恐らく合衆国、特にブラックバード政権と内通しているだろう。先ほど倒した兵士の無線機を解析してもよいのだけれど、そうすれば少し時間がかかりすぎてしまう。そこで、これの出番だ」
僕はそう言ってポケットから死んだ男の身分証を出した。もちろん偽造されているものだ。
それを高々と掲げて言った。
「身分証、勿論偽物だ。だが、この身分証、高度に作られているんだ。それも、ここの警備兵が気づけないくらいには。たった一人の力でこんなものは作れない。だから、犯人は複数いるのだ。数人の幹部が結託して主席を倒そうとでも目論んでいるのだ」
次に、僕はボイスレコーダーを取り出して、件の五人の音声を流した。
会場はざわつかず、各々が神妙な面持ちで彼らの顔を見ていた。
「早速だが、ここでもう犯人の名前を言ってしまおう。まず、陳宣伝部主席。それから、高政務部主席。この二人だ」
会場が一気に困惑と殺意のドロドロした感情に包みこまれた。
全く嫌な感情だ。
嘘だと叫んでいる人間が数人いるが、二人はあくまで自分は関与していないとして高を括った様子でこちらを見下していた。
そんな彼らに、私は決定打を与えうる証拠を提示した。
「身分証の印刷。ここに突入した以外でも、大量のスパイが紛れ込んでいるはずだ。しかし、これらには勿論のことながら印刷機がいる。それもここに入るには相当高度な技術の詰まっているものだ。そんなものが用意されているのは、宣伝のために大量の印刷をしなければならない宣伝部だ。他の部はIT化か一々手書きでやってるから、分かりやすかったんだ。陳宣伝部主席、間違いはありませんか?」
先程からずっと起動している心拍計などを見ても、陳の心拍と呼吸数だけやけに増加している。
「―――そうだ」
おもすぎる口を開いて、陳が白状した。実際ここまで追い詰められていおいて白を切るような人間はいないだろう。
根拠も少ないのにもかかわらず、なぜ僕が犯人を追い詰めることが出来るか、それは『圧』だ。国家主席襲撃の後に犯人と名指しされて、下手な真似をすれば、いつ自分が殺されるかわからない。
しかし、一対一の会話の中で犯人だと指名しても結局否定されて終わるだけだ。
だから僕は、いつも大舞台で、できるだけ人の目を借りながら、堂々と分かっている範囲内からちょっとはみ出した推理をするのだ。
そして、そのはみ出した推理は、ここからである。
「陳宣伝部主席、あなたは脅されてやったのでしょう?以前、熱烈におっしゃっておりましたよね。この国に必要なのは小銃などの歩兵用兵器であると。つまるところ、あなたは特段王国家主席に対して不満を持って居られないのでしょう?そして、脅されたとなれば、その脅した人物は...そう、もうひとりの犯人、高政務主席、あなたでしょう?」
「根拠を提示されなければ、こちらも分からないぞ。今のところ、それらの推理もどきは憶測でしか無い。証拠を出せ、証拠を。なければ貴様は陳と共に国家反逆罪で死刑だ」
「わかりました。証拠ですね。ラシード」
「これだね」
ラシードが一冊のファイルを持ってきてくれていた。この前久保田と繋がっている華興大聯邦の人間から一冊のファイルを預かっていたのだ。
できれば使いたくなかったのだが...まあ、仕方ない、
「これは、日本のとある諜報員が纏めた王慶猛に関する極秘文書だ。友人から譲ってもらったのだ」
僕はその資料を開いて読んでいった。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『脇を攻める』




