記録71:偶像崇拝
「貴方は、一体何者なんですか?」
私は救護車両で腕にアイシングをしてもらっている鬼島に聞いた。元隊長とは言え、トリガーを瞬殺したのだ。そこらのサイボーグよりも個人の力は圧倒的に上だろう。
鬼島は私の方を向いて少し考えてから端的に、一言で言った。
「怪物よりの人間だ。ただ、サイボーグを殺すことに特化した怪物だがな」
「しかし、それには肉体だけでは足りませんよね?」
「ああ、だから意志の強さと〝遺志〟の強さがある。中国人サイボーグ部隊に惨殺された仲間たちの無念を晴らすため俺は死ねない。その思いで、俺は敵を狩ってるんだ」
彼の声には溢れんばかりの怨念が見えた。これではまるで遺志の力と言うより怨念の力だ。
一瞬恐ろしいと思ってしまったが、よく考えてみれば私達(Code:Claws)の方が怪物だろう。
記憶を抹消され、その記憶を思い出そうとすれば体内に仕込まれたジャミング装置に妨害されてしまう。だから、何も考えずにただ敵を抹殺することに命をかけている。
元の人格は恐らく合衆国に尽くすことに脳を焼かれていたのか、はたまた極右思想でも持っていたのかはわからないが、記憶の在処を探す私達はきっと作られた人格なのだろう。
人ではないものが人を殺す。
まるで一昔前のシンギュラリティでも起こった世界線の映画のようだ。
「...私には意思がありません。遺志はあっても、自分がありません。だからこそ、あなたの気持ちは理解できません」
私はそう言って鬼島のもとから立ち去った。
その言葉が嫉妬から来ているものなのか、はたまた彼の思いの強さに呆れたのかはわからないが、かなり強く、吐き捨てるように言ったと思う。
「おい。待てよ」
「なんですか?もう話すことはありませんよ」
私が振り向くと、鬼島はため息をついて立ち上がった。
そして戦闘服を徐ろに脱ぎ捨てると、大量のドッグタグが彼のインナーに括り付けられているのが見えた。それが、本当に恐ろしく思えた。
死にそうなミッションを遂行している時は死の恐怖は覚えたりするが、これはまた違う恐怖だ。
死の恐怖など、生半可なものではない、とても私のような偽物では形容し難い感情だった。
「確か、ウーヴとか言ったな。よく聞け」
「分かった」
「いい返事だ。お前が自分自身を人間だと思わない限り、お前は俺を超えられない。力で、技で、兵器の質で凌駕しようとも、遺志の力で、俺はお前を凌駕する。だから、俺を超えてみせろ、ウーヴ。俺が死ぬまでに、超えるんだ。一つ言っておくが、俺はあと十年もしないうちに十中八九死ぬだろう。だから、一年以内だ。それまでにお前なりの『本質』を掴め」
「正直、言っていることはさっぱりだが......分かった。努力はしよう」
「ふん、それで良い。もう行けよ。仲間が待ってる」
私が立ち去ろうとすると、もう一度鬼島に呼び止められ、トリガーを斬った刀を渡された。
これが、私の『遺志』になることを鬼島は予想しているのかも知れないが、Code:Clawsの組織構成上、退役したものは記録から抹消される......だが、記憶からは、抹消されない?
彼と過ごした、訓練、朝鮮戦争...あれは、消えない?
ザザッ......
だめだ、考えられない。考えたくない。ジャミングが邪魔をしてくる。
「では、さようなら」
去り際に、私は彼に自分の折れた鉤爪を渡し、これを私の記録として残してもらうように言って救護車両を出た。
外に待機していた数人の隊員が、やけに頼りなく見えた気がして、一度頭を振った。
トリガーと戦う時にヘルメットを脱ぎ捨てていたので、代わりのヘルメットと装備一式を貰って、私達は再び戦闘に戻っていった。
その後も、抵抗を続ける米軍を圧倒しながら進んでいたが、腰に下げている方なんがずっと違和感を発し続けている。
この戦い方じゃない。このやり方じゃない。そう訴えかけてきている気がする。
「隊長、この反応は...!」
センサーに、先程のトリガーと似たような反応が発生した。すぐ目の前だ。
「私が出る。十秒でかたをつける」
これでいい。このやり方だ。
赤外線カメラに映った人影に、私は問いかけた。
「誰だ」
彼は光学迷彩マントを脱ぎ捨てて言った。
「我は第三エージェント直属の騎士が第三席、偶像騎士ランスロットである」
ショットガンを取り出して、私に銃口を向けた。
彼が引き金に指をかけた瞬間、私は持っていた刀を抜いて叫んだ。
「両足・SPEED」
足に薬剤が注入された。
ショットガンの銃口が光ると同時に、私は横に一メートルほどスライドした。
もう一度照準が定まる前に、私は携帯しているCode:Claws専用の拳銃を引き抜いて一発撃った。
銃口に命中。ショットガンは使い物にならなくなった。
行き医に接近し、鉤爪で両手を弾き飛ばした。
「ぬぅッ!」
叫んだ所で両足の膝から下を刀で一刀のもとに斬り落とした。
「くっ、殺せ!騎士の恥ッ!」
「偶像の騎士など、騎士ではない。貴様には拷問が待っている。色々聞きたいことがあるからな」
「黙れッ!この人間風情がッ!」
「...人間風情だと?」
私は持っていた刀を彼の太ももに突き刺して言った。
「その人間が私の理想だ。軽く物を言うな」
「アガッ...ヌウウッ!!」
吠えているだけの男に止血の応急処置だけを施して、部下を数人集合させて、情報は後ほど共有されるとの密約なので近衛隊の車まで運ばせた。
人間、か。
空を見て、私の名前を呟いた。
「■■■■」
駄目だな。
まだ人間じゃない。だが、あと一年ある。それまでに彼にこの刀を返せるようにしないと。
そう思いながら、私は作戦を順調に終わらせていった。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『探偵の本領発揮』




