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記録70:引き金

あれから数時間後、夜も更けてきて各地から殲滅完了の報告が流れ込んできた。


しかし、その一つから、いつまで経っても連絡が来ない。

もしかしてサイボーグにやられたのか、そんな嫌な事を考えていると、無線機から雑音と一緒に人の声が流れ出てきた。

報告のなかった隊員の声だ。


『現在全員負傷!繰り返す!全員負―――』


ドゴオン!


砲撃のような音が鳴り響いたあと、もう一度無線から声が聞こえた。


『一名死亡!一名は移動不可と判断し、私のみで撤退します!』

「了解。今すぐそちらの区画に全部隊と救護車両を派遣する。しばらく撤退をしておけ!」

『Yes,Ma'am!』


無線機の通信が途絶した瞬間に、私は全体通信の電波に合わせて全員を上海中央部に集合させた。

まさか、あの男がまた出てきたのではないかという嫌な予感が腹の奥底からふつふつと湧いてきていた。



救護車両が到着し、右腕とヘルメットが弾き飛ばされている隊員の保護を終了したあと、動ける部隊すべてを使って周囲の捜索に乗り出した。少しでも不審なものがあればすぐに撤退し、報告するのだ。


数分後、思っていたよりも早く敵のサイボーグは発見できた。

都市部の真ん中の大きな空き地。工事が始まる段階の場所だった。

そこから血痕が伸びていたので、おそらく敵はまだそこにいると見ていいだろう。


「行くぞ」


部隊員の完全装備完了を確認し、出発した。


全員でゆっくりと方位を行いながら、空き地の内部に浸透していった。

そしてすぐにヘルメットの赤外線カメラにその敵の姿が映った。


「お前か」


ついに私の視界に恐らく敵であろう男が現れた。

どうやら光学迷彩マントを羽織っていたようで、これで奇襲されたとは考えられないので、恐らく彼らは、発見してすぐに戦闘、そして負けたのだろう。

だとしたら相当手強い相手だ。


個の力でも世界有数の強さを誇るCode:Claws隊員でも全く刃が立たなかったのだ。

戦えばこちらもただではすまないだろう。


しかし、腐っても世界最強の部隊だ。

集団の力なら核ミサイルだって簡単に撃ち落とせる。


「戦闘陣形」


全員が人対人ミサイルの装備及びアンチEMPシステムを起動した。鉤爪を剥き出しにして、今にも襲いかからんと前かがみになった。


「戦闘開始」


私の号令で、後方からミサイルが発射され、それとほぼ同時に鉤爪を装備した隊員が突撃を開始した。


ミサイルの着弾と同時にサーマルシステムを起動し、そのサイボーグの左腕が損傷しているのを確認するなり、鉤爪で畳み掛けるように切りつけた。


何度も何度も切られて、普通のサイボーグでも臓腑がこぼれるほどには損傷しているはずだ。


しかし、なぜかまだ立っている。それも、一歩も動かずに。


「隊長、あれを...!」


隊員の指差したそのサイボーグの体をよく見てみると、そこには見慣れた特徴があった。

爪痕の徽章、そして全身装甲板に爆発反応装甲。残っている右手には一本の短剣が握られていた。


まちがいない...あれは...!


「トリガー...隊長?」


朝鮮戦争以来、行方不明になっていたのだ。

米軍も捜索を諦め、死んだことになっていたが、どうして?


私がそう思いながら彼の目を見つめても、彼は何も言わない、何も見ていない。私達を敵とすら認識しないような目つきだった。


「私が出る!全員下がれ」

「し、しかし―――」

「下がれ。少々暴れる」

「了解」


全員が包囲網を再構築した所で、私は人対人ミサイルなどをくくりつけていた背嚢を地面に落として、鉤爪を出した。


ヘルメットを脱いで、無線機の通信番号をゼロ番に合わせ、呟いた。


「無制限」


戦闘用スーツの全身に仕込まれていた身体強化液が体内に注入された。

心音が響き、目が充血した。鉤爪を握る手に力が入って、そのままの勢いでトリガーに突っ込んでいった。


彼のナイフに鉤爪が触れると、訓練で何度も聞いたことのある高音が鳴り響いた。

脳髄の奥深くまで振動するような、この高揚感を与えてくれる音だ。

懐かしく、嬉しかった。だからこそ、悲しい。なぜ、Code:Clawsと敵対してしまっているのか。


再び鉤爪が触れた時に、彼に聞いた。


「貴方の...名前は?」

「......トリスタン。第三エージェント直属の騎士が第二席、偶像騎士トリスタンだ」

「何を!馬鹿げたことをっ!」


キィィィン...


金属音が金切り声のように叫んでこだました。


しばらく打ち合いを続けていると、私の鉤爪が砕け散った。

もう片方で応戦しようとした時、どこからともなく大型の弾丸が飛んできて、彼の持っていたナイフを弾き飛ばした。


誰からかの援護だろうと思って、その時は一旦彼を突き飛ばして後ろに下がった。


「おうおう派手にやってるな」

「鬼島...!?」

「悪いが、助けに来たんだ。アンタのお仲間が隊長がちょっとやばいかも知れないって言って―――」

「私は大丈夫で―――」


急に視界が狭まった。

くそっ、薬の副作用が...なんで今に...まさか、もう十分程度戦い続けていたのか?


薄れゆく意識の中、私は悔しいが鬼島にしばらく耐久するように頼んで隊員に引きずられながら後方に退がった。


「さ、やろうか」


鬼島が一人、トリガーに向かって歩いた。


ロクに装備も来ていない人間が、どうやって戦うというのだ。相手は腐っても元Code:Claws隊長だ。

そんなのと真っ向からやり合うなんて...


「いざ、尋常に」


鬼島が、すらっと刀を抜いた。一袋いつから持っていたのか、どこに隠し持っていたか分からなかったが、それは確実に刀だった。実物など見たことなかったが、月光に照らされて青白く光る刀身を見て、私はただ思ったのだ。


『斬れる』と。


トリガーもナイフを取り出して構えた。


一瞬時が止まり、そして動き出した。

一気に二人の間が縮まった。

時はだんだん早くなり、刀と短剣が触れるタイミングでもう一度極限まで遅くなった。


短剣が刀の言うことを聞いて紙のように斬れた。

トリガーの装甲も刀の言うことを聞いてまっすぐに斬れた。


寸分遅れて、鬼島の気迫ある大声が聞こえてきた。


「カアアアッッッ!!」


ビリビリと、空気が震え、倒壊寸前のビルが何棟か倒壊したような心地さえした。

呼吸がつまり、目を見開かされた。


そして、次の瞬間、トリガーは真っ二つになって事切れていた。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『偶像崇拝』

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