記録65:滝壺
「さあ、行くで...」
地図の上にお手製のコマを用意して、現在の敵勢力の場所と仲間の位置に配置した。
じっくり眺めた後、ガラス細工の天秤に触れるように、丁寧に、しかし素早く動かした。
敵勢力の移動速度、攻撃、および反撃能力を加味して動かした。
見えた。
「第一及び第五部隊は第四部隊と第二部隊とそれぞれ協力して大通りを通る戦車を破壊しろ。対戦車兵器を送っておく!他の部隊は防衛に徹せよ」
『了解!』
ワイは無線を置いて、近くにいた現地民の司令官にとりあえず足の速い数人に対戦車兵器の輸送を命令した。
それから、前線のすぐ後ろに待機している即席装甲車部隊に命令し、今すぐできるだけ大きな爆発音を出すように命令して、彼らにはすぐに市街地の大通り以外に鉄条網を重点的に置くように命令した。
ワイも特注スナイパーライフルと地図を持って司令部を出ようとした。
「あぁ、これ忘れたらあかんな」
司令部に置いてあった予備の手榴弾を五つほど拝借して、作戦に重要なものを盗んでワイはとある場所に向かった。
◆
「お!元気か?」
第三部隊の潜伏するビルに入ったワイは、第三部隊の混乱の中出迎えられた。
「隊長がどうしてここに!?司令部はどうするのですか?」
「アホか。あんなパルチザンの簡易シェルターなんか気休め程度や。正規兵のお前等の潜伏のほうがマシや思て来たんや」
実は、こっちの潜伏先に逃れてきたというのは嘘である。腹の中ではまったく別の作戦を考えていた。
「とりあえず、最上階借りんで。一人だけついてきてくれ」
「是非、自分が行きましょう!」
第三部隊の副隊長が名乗りを上げた。
ワイの部隊の中でも最古参の部類の人間だ。彼なら、おそらく『うまく』やってくれる。
「わかった。行こか」
「はい!」
ビルの非常階段から最上階に向かっていった。
上に上がるまでの階段は完全に要塞化されており、五人しかここにいないことを忘れさせるような完成度だった。
「報告通りなら、そろそろここを主力らしき部隊が通過するんやんな?」
「はい!あと五分程度でしょうか!戦車部隊です!」
「なるほど。完全にワイらを沖縄本島から追い出すつもりやな」
「では、完全に中国軍を破壊して本当を奪還するのですか!?」
「いや、それはできひん。考えてみろや、敵は五万人以上、大してこっちは千人程度や。無理やて」
「しかし、敵は傭兵のようですよ!?傭兵ならベトナム戦争やロシア・ウクライナ戦争の時のように罠でも仕掛ければよいのでは!?」
「敵の狙いはあくまで尖閣の資源や。日本が沖縄に躍起になってる間に尖閣を要塞化すればこの国が根本から変わらん限りどうしようもない」
「なるほど!ならば損害だけ与えておいて全力で撤退するのですね!」
「せや。まあ戦争を知らん政府の意向は知ったこっちゃないわな。ワイは上にちょっとした約束もあるしな」
一通り作戦を伝え終わったワイは、スナイパーライフルの銃口を窓から突き出して呼吸を整えてスコープを覗き込んだ。
道の遠くに敵勢力の主力、戦車部隊が見えた。
おそらく指揮官が乗っているのは真ん中の装甲車だろう。
ここで司令部から盗んできたとあるものを出した。
「それは...!」
「先遣の別班の諜報記録や司令官の名前は王慶猛、少佐で戦車部隊隊長。階級にしては若いのにやるな...」
「死にますけどね!」
「黙れ」
「はい!」
ため息をついて、もう一度スコープをのぞき込んだ。フロントガラス越しで顔は見えにくいが、胸元の階級章と周りにいる人間の警戒度ですぐに本人を見つけることができた。
と、普通ならこう思うだろう。
しかし、そうではないのな彼だ。尋常ではない警戒度からか、階級を偽ってでも隠れている。
そう、例えば...
「運転席の後部座席やな」
引き金を引いた。
弾丸が発射され、防弾ガラスを貫通し、運転手を貫いた後、ヘッドレストとシートの間を通った弾丸は、後部座席に居た王慶猛の肩に命中した。
すぐに車列が停止し、すぐに小回りの効く歩兵部隊が展開された。
「全軍停止!第一部隊から第五部隊は速やかに第三部隊の周辺のビルに移動するんや!他の部隊は一度撤退して陣形を組め!」
無線でそう呼びかけて、ワイはもう一度スコープを覗いた。続々通りてくる敵兵を出来る範囲で打ち抜き、戦車の砲塔がこちらを向けば指示を出して対戦車火器を撃ち込んだ。
部隊はすぐに集結し、激しい攻防戦となった。ビルにはミサイルも打ち込まれ、倒壊に巻き込まれた隊員も少なくなかった。
隊員の三割ぐらいが死んだ所で、ワイにも弾丸が届き始めた。
無線機の周波数を別のものに変えて、ワイは米空軍のステルス爆撃機に爆撃要請を出した。
「味方を巻き込むのですね!これで仕留め損なった敵司令官もやれるはずですね!」
「そうやな。これが一番敵戦力は削れるはずや。あ、あと敵司令官の王慶猛はそろそろ死んでるはずや」
「本当なのですか!?」
「ああ、ほんまや。逃げながら話すから、とりあえず、後で落ち合うで」
「了解!」
それと同時に爆弾が降ってきて周辺一帯を焼き尽くした。
◆
何とか生き残ったワイは、付近で生き残っていた仲間と集合した。生き残っていたのは三十人程度。第三部隊副隊長の姿は見えなかった。
恐らく死んだのであろう。惜しい男をなくした。まあ、仕方ない。
「すぐに帰るぞ。重い武器はすべてパルチザンに預けろ。あいつらが戦う」
そして、ワイの指示通りに皆が現地民に銃火器を渡し、戦闘続行の命令を出した。
彼らが血気盛んに前線に走りに行ったあと、ワイは無線で全部隊に包囲網の形成命令を出した。
第一、第二、第四、第五部隊が蓋をし、横を無損傷の部隊で包囲する。
入ったらこちら側に一気に攻勢を強めてから反転して高速で撤退するしか方法のない戦術だ。ワイは『滝壺』と呼んで所々で重宝しているが、これは指揮官の居なくなった部隊用にしか使えない。
憎悪でなりふり構わず突進してきた先には、狩りがいのある民兵共がいるのだ。それに夢中になっている間に主力部隊は周囲からの包囲殲滅を受けて即お陀仏だ。
「全軍、五分後に突撃せよ。パルチザンも巻き添えで構わない」
『了解』
無線を切って、ワイは負傷兵を後方に送り、前線のよく見える山の上に登った。
「さて、もう独壇場やな」
お読み頂きありがとう御座いました。次回も久保田回です!
次回『別班出身の男』




