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記録55:諜報員の諜報

日本、日乃本にて。

「久しぶりですね。李さん」


一ヶ月ぶりくらいに、李慧琳が私のもとにやってきた。彼女は相変わらず私の良い部下ペットとして日々諜報活動に励んでいるようだ。彼女は私に会うなり、嬉しそうな声で言った。


「天菊サン。お久しぶりデス」

「では、報告を」


私が椅子に深く座り直すと、彼女は頷いてカバンから書類を取り出して私に見せてくれた。

李の主な任務は諜報だが、ただの諜報ではない。

味方の諜報をするのだ。さて、今日は誰の報告か...久保田か。


パリでの活動ではなかなかの功績を上げて、こちらにも大量の情報を回してくれた男だが、水面下では私の野望を阻止しようと奔走いているようで、欧州と米国では私兵の増強に努めているようだ。すでに二個師団レベルの部隊は揃っているようだ。


「すぐに対策させましょう。それにしても、李さん。よくやりました。ご褒美をあげましょう」

「はい。有難うございマス」

「では、こちらに」


私は李の手を取った。彼女がいつも仕事をこなした時はこうして飴を与えているのだ。


記憶改変。


彼女に家族と過ごした楽しい記憶を与える。今回は中学生の頃に、テストで良い点を取り、それを家族に褒めてもらったという記憶だ。


貧民街で生まれ育った李は、ろくな両親を持っていなかった。彼らに少しでも褒めてもらおうと、頑張って国家公務員になっても、少しも褒めてもらえず、彼女は苦しい人生を送ってきた。私が彼女の自殺を止めて説得しなければ、こうして部下としても働いていなかった。


人格を変えないように、記憶を与える。ねえ、ママ。テストで良い点取ったよ。偉いね、凄いね。よくあるような口径を彼女の記憶にあったこととして流し込む。決して人格は変わらぬように、記憶を与えるのは少々骨が折れるが、彼女の手綱をきちっと掴んでおくためにも、この作業は大切なのだ。


涙を流している。


「今日はここまでですね。どうですか?体になにかおかしい点は?」

「ありまセン。有難うございマス。では、失礼いたしマス」

「ええ、お元気で。期待していますよ」


李が退出した後、私は自分の通信機を使ってとある人物に連絡を取った。


「もしもし、春日かすがさん」

『なんだ?桜か。どうしたんだ?また俺に依頼か?』

「ええ、勿論。少し弱体化させて欲しい勢力がいまして...」

『お前が頼むってことは結構大変な勢力なんだな。それで、それは何処のどいつだ?』

「久保田です。件の彼です」

『殺せば良いのか?』

「やむを得ない場合は」

『了解した。報酬は後で連絡しよう』

「はい。お願いしますね」


私は通信を終えて、椅子から立ち上がった。大きく伸びをして、扉の方を向いた。誰かが近づいてくる音がする。

机の裏に設置している防楯つき機関銃を手に取り、机にセットした。


ドアの前で、足音が止まった。部屋の前の監視カメラは破壊されている。


息を吐いて、引き金に指をかけた。


扉が爆破されると同時に、Code:Clawsの隊員が突撃してきた。この執務室は細長く、入口から二メートルは高さも横も一人分の幅しか無いので、絶好の的である。12.7mmの特殊弾頭の機関銃の掃射には耐えきれなかったようで、足がもげた隊員たちはうめきながら地面に転がっていた。彼らの一人ひとりが肉片になるまで、私は機関銃を撃ち続けた。


このように、私のもとには定期的に刺客が現れるが、毎回いろんな手を使って殺しているのだ。

ときには執務室に毒ガスを充満させてみたり、濃硫酸を頭から掛けてみたり、プレス機でゆっくり押しつぶしてみたり...色んな方法があるのだ。


それにしても、合衆国はどうして毎回私の居場所を特定してくるのだろうか。私は日乃本にいることになっているのに、的確に基地を見つけて殺しにかかってくる。

まあトラップまみれだし、全部回避されても白兵戦で勝てるから良いんだけどさ...


「はぁ、また場所変えなきゃだね」

「とっておきの場所がありますよ」

「うわ、びっくりしたぁ!なんだ、君か」


Code:Clawsの死骸を乗り越えて、私の忠臣の男が入ってきた。彼は絶対に私を裏切らないので、記憶改変も何もしていない。彼は私の前まで来て地図を渡してくれた。


「次は...千葉ね。この前の奈良の基地は碌な基地じゃなかったから、今度はシャワーくらい付いてくれてたら良いんだけど」

「その点は問題ありませんよ。桜さん。なにせ、今回はホテルですから。それに、合衆国含め、世界の何処にも、今、この国に爆弾を落として核戦争を始める権威はありませんから。もしも戦争になっても勝てますでしょう?」


私は血なまぐさい執務室から出て、彼と隣で歩きながら言った。


「勝てるけどさ...君が死んじゃうでしょ?」

「寂しいですか?」

「いや、全く大丈夫なんだけど。後処理が面倒になるから、死なないでほしいな」

「分かっていますよ。僕の存在は彼女たちにとっても、面倒なものでしょうから。さ、飛行機の準備はできていますよ」

「何から何までありがとうね。山原君」


私は彼に微笑みかけた。彼も私に微笑みかけてくれたので、少し嬉しかった。

基地は爆破して土に埋もれるだろうから、死体はそのままでいいとのことだ。私は足取り軽く、最寄りのバス停まで彼と歩いていった。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『シナシナCHINA』

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