記録50:気を引き隊
翌朝、俺とアナスタシアは適当な理由をつけて、夜までには戻るという条件付きで外に出してもらえた。外に出て、相変わらず大きすぎる家を振り返り、俺はとある事に気づいた。
「ここ、モスクか?」
「ええ、そうですね。それにしても大きい...」
イスラム教の教会みたいなものだから、特に変なものでもないのだが、スターがコンサートを開けるくらいの大きさがあるモスクなど、恐らく世界で一つしかないのではないだろうか、と思ったのだ。
「アナ、どうして俺達が外に出たのか、もう一度確認しておくぞ」
「ええ、二人同時に言いましょうか。せーの...」
「「明日香の気を引くため」」
二人揃って全く同じことを口にしたので、少し笑ってしまったが、実際そうなのだ。近頃、明日香は少し頑張りすぎている。アナスタシアの件から、ずっと戦ったり心理戦をしたり、そのたびに毎回死にかけているのにもかかわらず、人を頼ろうとしない。
ただ、自分たちから頼ってくれと言っても適当に流されるだけなので、明日香自身の心構えを変えるために、今日は外出して、なにか良い物がないか、なにか土産話は作ってやれないかと画策しているのだ。
俺達がモスク周辺を歩いていると、そこら中にアル・ハラータの構成員の印である剣のピンバッジを付けた男たちが闊歩している。女性は付けていないようで道端で談笑している。結構楽しそうにしてるんだな、とか思っていると、道端で露天を構えている老婆に話しかけられた。
「そこの若いのお二人さんや。見たとこ、外国人みたいだけど、このペアルックのアクセサリー、いかがかね?」
「悪いな婆さん。生憎だが―――」
「見せてもらえますか?」
「おい」
アナスタシアが老婆の話に食い入るように前のめりになった。
「実はこのブレスレットはねぇ―――」
二十分後...
結局買っちまった。しかもちゃっかりペアルックのやつを、だ。
「アナ。もう少し考えてだな...家に持ち帰ってもただの飾りだろ?」
「私はこういうの、好きですよ?使わなくても、部屋が世界で満たされるって、素敵じゃないですか?それに、あなただって買ってるじゃないですか」
俺がため息を付くと同時に、俺の目にはとある物が映り込んできた。
「おい、アナ...」
「なんですか?」
「武器屋だ。行くぞ!」
「え!?」
◆
ロングソードを買って、ご満悦な表情をしているアレクサンダーに、私は言った。
「武器ならあるでしょうに...」
「やっぱ漢のロマンだよなぁ〜」
「そんな小さな男の子みたいな長くて使いづらい剣を買うサイボーグはいませんよ」
「使うから良いんだ。それに、使わなくても飾っておけば、なんかいい感じになると思うんだ」
「はぁ...」
ため息を付くと同時に、私の目に、とある物が映り込んだ。
「アレクサンダーさん」
「何だ?」
「ブレスレッ―――」
「ちょっと待て」
「何でですか」
「このまま行けば、俺達はただ二人で買い物を楽しんだだけになる。もうちょっと大通りから外れたとこに行かねえか?」
変に納得してしまい、光るガラス玉を横目に、私はアレクサンダーと一緒に路地裏へと入っていった。
路地裏に入ると、思っていたよりも数倍綺麗で、道端では子どもたちがボール遊びをしている。彼らは私達を見るなり、物珍しそうな顔で近寄ってきて言った。
「ねぇねぇ!お姉さんのその真っ白な髪の毛って神様の髪の毛でしょ!?」
「ん、あぁ、そうね。この地方ならその信仰ね。ええ、そうよ。これは私が神様から貰った色なの」
目を輝かせながら、子どもたちが矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。
何処の出身か、好きな食べ物はなにか、嫌いな食べ物はなにか、友達にも同じような人が居たのか、どんな能力を持っているのか、空は飛べるのか、そして、隣りにいる男、つまりアレクサンダーとはどういう関係なのか。
などなど、たくさんの質問器応えているうちに、私達二人は子どもたちが普段よく遊んでいるという少し離れた広場に連れて行ってもらった。
「ここでいつも遊んでるんだ!」
「そうなのね。随分と楽しそうな所ね。私の居たところではこんな綺麗な場所がなかったから、羨ましいわ」
「でも、暑いし、太陽も眩しいんだよ?サッカーも野球もできっこないさ。お姉さんみたいにサングラスを掛けなきゃなんにもできないんだ」
「でも、太陽の光で目を細められるって、いい経験だと思うの。私はその経験がないから、何も言えないけど、少なくとも経験しないよりは良いでしょ?」
「それは、そうだけどさ...」
下を向いた子どもに、アレクサンダーは気を利かせて自分の持っていたロングソードを見せた。そんな物を見せて、何になるのだと思ったが、やはり、これが男の子の性なのだろうか、目を輝かせて彼と話をしている。そして、子どもといっしょに剣を抜いて、刀身を眺めうっとりとしていた。
バカバカしく思ったが、彼がこんな表情を見せることがあるのかと、少々以外に思う部分もあったのだ。
それから、私達は子どもたちと軽く談笑したりした。気づけば夕暮れ時になっていて、子どもたちの親も迎えに来ていた。子どもたちが世話になったと、いたって普通の言葉を貰って私達は帰途についた。
大通りに出る少し前、アレクサンダーが言った。
「やっぱり、何処の世界の人間も、おんなじなんだよな。なのに、何で戦争なんかに...」
「それは考えないほうが良いことです。私達はただ成すべきことをするだけです」
「それが、間違っていたって気づけば、手も足も動かなくなるだろ?お前は傭兵だから自分の仕事を選べるけど、俺はEVの最強のサイボーグだ。はぁ〜、考えるだけ無駄だな。アナ!帰ったら飯だな!」
彼にも、彼なりの深い葛藤がある。そう思った時、なぜか少し心が軽くなった気がした。
「そうですね。明日香さんも待っていることですし、急ぎましょうか。アレックスさん」
「ああ!」
私とアレックスはおそろいのブレスレッドを腕につけたまま、明日香のいるモスクへと走り出した。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『通信』




