記録44:バチバチ花火
一見、拳銃で狙撃など無謀なようにも思えるが、街頭は消えて、屋上から顔を出してもその顔が照らされることはない。唯一怖いのがマズルフラッシュだが、まあ先に倒せば問題ない。
敵の暗視ゴーグルも先程のEMPグレネードで破壊されていることだろう。現に、僕の通信機も破壊されているので、ボタンを押してもカチッと言う音しか鳴らない。
それに、タングステン弾頭などという異常に重い弾頭と、この銃本体の重さで安定もするだろう。
僕は屋上の縁から顔を少し出した。
下ではウーヴとアレックスが熾烈な肉弾戦を繰り広げている。ウーヴは鉤爪でアレックスを切り裂こうとして、アレックスは、持っていた妙に長く黒いナイフを、二本も振り回して戦っていた。
鉤爪と黒いナイフが触れ合うたびに火花が飛び散り、お互いの武器は結構な速度で損耗していることが見て取らる。
この調子では、残り五分程度だろう。
リアサイトとフロントサイトが一直線になるように構え、その間に人間の頭を収めた。
引き金を引くと、拳銃では感じたことのない衝撃が僕の腕を走り抜けた。
弾丸は命中し、それとほぼ同時に海兵隊の銃口が僕を捉えた。
予定変更だ。反動と銃声が大きすぎる。
急いで顔を引っ込め、次の狙撃ポイントへと急行した。真っ暗な屋上を音もなく駆け抜け、排気ダクトの上に寝転び、着ていたコートをできるだけ遠くに投げ飛ばした。
ムルの小さな体なら、大きな排気ダクトの上に寝転べば体を隠せるのだ。そして、コートを投げたのは、そろそろ屋上にやってくるであろう米兵の気を一秒でも長く引き付けるためだ。
米兵が上がってきた。暗視ゴーグルが破壊されているので、フラッシュライトを使ってきている。いくらEMPでも何の回路も持たないただの懐中電灯は壊せないようだ。
彼らが僕のコートを見つけ、近づいてきた。
不意に、小さなプロペラの音が聞こえてきた。
音の方を振り向くまでもなく、自爆ドローンの音だ。
しまった、と思うと同時に体が勝手に排気ダクトから飛び降りた。反射的に避けたようなものだが、これのせいで、今僕は米軍の眼の前に体をさらしてしまったことになる。
銃口が僕を捉える。
僕も拳銃を構え、先に一発撃ち込んだ。
一人射殺した所で、残りは四人もいる。
恐らく僕が殺されたらアレックスも死ぬだろう。それだけは避けたい。
だが、もうここまでか...!?
銃口が見えた所で、僕は目を強く閉じた。
銃声が鳴り響いた。
◆
「やっぱり...私は戻ります。久保田さんは博士と一緒に帰還用のヘリの手配をよろしくお願いします」
「...分かった」
「止めないのですね」
「そらな。止めた所で、どうせ無理矢理にでも行くんやろ?」
「勿論です。では、後ほど生きて会いましょう」
「了解!」
久保田さんは博士を抱えたまま夜闇に向かって走っていった。私は自分のショットガンを持ち直して明日香さんとアレクサンダーの戦っている市街地まで走り出した。
途中で何度か会敵したが、一般兵だったのでショットガンで容赦なく射殺した。
「ホントはこんなはずじゃないのになぁ...」
UAVの爆撃を喰らわないために、路地裏を通りつつ、時々屋内に突入して十人を驚かせながら走り抜けたりして、戦闘区域近くの屋上までたどり着いた。
地上ではアレクサンダーとウーヴというCode:Claws隊員が戦っていた。
明日香さんを探していると、向かいのビルで明日香さんが海兵隊員と戦っているのが見えた。
ショットガンの弾丸を変えて、持ってきていたスラグ弾を海兵隊員に向けた。
思い切り引き金を引くと、見事命中して海兵隊員は戸惑いながらも私をすぐに見つけて銃口を向けてきた。
その瞬間に明日香さんは拳銃を何故か地面に投げて隣のビルに飛び移りに行った。
急いで明日香さんを追う海兵隊員を順番に射殺し、屋上の敵は全滅した。
「こんなものですかね...」
銃を背負い、今度はナイフに持ち替えて明日香さんのもとへ行くべく、私はビルを下り始めた。
外壁のコンクリートの出っ張りに手を引っ掛けて下り、地面に到着した時には明日香さんも向かいの路地に降りていた。
手信号でアレクサンダーを援護しに行くことを伝え、私は路地から飛び出して二人の戦闘に飛び込んでいった。明日香さんは落とした拳銃を使うような手信号をしていたので、それを拾いに行くのだ。
◆
「しぶてぇなッ!この野郎!」
ナイフと鉤爪がまた触れ合い、火花が散った。
「貴様も...早く諦めろッ!」
鉤爪とナイフが触れ合い、火花が散った。
かれこれもう五分以上はずっとフルパワーで戦闘を続けている。俺の方も、おそらくウーヴにも限界が来ているはずだ。
ウーヴの左鉤爪が右脇腹を刺しに来た。隙あり、だ。
左手のナイフで透かして、右手のナイフで腕を刺した。同時に、ウーヴの右鉤爪が俺の首を刺しに来た。
腕に差したナイフから手を離して、鋼鉄の仕込まれた腕でガードした。
鋼鉄が裂ける音と共に、俺の腕とウーヴの腕から鮮血が吹き出した。
「グッ...!クソがっ!」
ウーヴを思い切り蹴飛ばし、自分の腕の調子を見た。鋼鉄のプロテクターが一撃で真っ二つになって、危うく骨が切断されるところだった。後一回同じことをされたら腕が飛ぶ。
これは、どう転ぶかわからないな...
俺がそう思っていた矢先、俺の視界の端に、アナが現れ、いつの間にか落ちていた明日香の拳銃を拾い、即座にウーヴの背中に撃ち込んだ。
ウーヴは一瞬よろめいただけでアナスタシアの方に向かって鉤爪を伸ばした。
「アナ!」
俺が飛び込んでいくまもなく、アナは『メイン武器』である爆裂ナイフを左腕で取り出し、ウーヴの攻撃を透かし、右腕で鉤爪をがっしりと掴んでナイフをウーヴの腹部に突き立て、柄についてあるスイッチを押し込んだ。
爆発音とともにナイフがウーヴの腹部に食い込み、彼女は一旦大きく飛び退いた。
「くっ...ここまでか...」
その言葉を残して、ウーヴは住宅街の闇の中に消えていった。
「二人共!急いで!」
ヨロヨロの明日香が俺達にそう叫んだ。
俺は急いで明日香を運びながらその場から逃走を開始した。
暫く走っていると、アナスタシアが久保田と落ち合う場所として決めていた町外れ海岸沿いの廃ビルが見えてきた。
最後の力を振り絞って明日香をそこまで運ぶと、そこには何度かみたことのある顔が、ホログラム姿で立っていた。
「やあ、アレクサンダーさん。お久しぶりですね。アナスタシアさんも、お元気でしょうか?」
俺の眉間にシワが寄ると同時に、アナスタシアの顔は一気に青ざめたのだった。
「あ、天菊...戦闘郡長?」
かすれた声で、明日香がそう言った。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『潜水艇』




