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記録45:潜水艇

組織フィクションチーム解説 近衛隊員か否かの判別方法

近衛隊は、日本で唯一の強大な権力を持っている機関だが、そのシステムはまだ誕生してから日が浅いため、スパイに潜入されやすくなっている。

そこで、天菊と大久保たち最高幹部が頭を捻って編み出したのが、表向きでは外見的特徴で人間を判別するが、本当は近衛隊員どうしで、公の場でお互いの身分を明かしての会話を禁止するといったものだった。

つまり、近衛隊特製のネクタイピンをしているからと言って勝手に近衛隊の人間と会話するように話してはならないのだ。

記録2であったように、久保田の変装をしていても、日乃本の人というだけでアウトなのである。

本来はその場で即刻処刑も可能だったが、ムルの温情でスパイの命は三日程度伸びたのだった。

「山雁さんは、随分お疲れのようですね。本来なら、見捨てても良い傷です。勿論、見捨てはしませんよ。安心して下さい。それで、今からあなた達にはこの海岸沿いに停泊させてある近衛隊の潜水艇に乗船してもらいます。詳しいことは後ほど。では、お元気で、山雁さん。期待していますよ?」


半分意識のない僕にそう言って天菊は通信を切ってしまった。

それからは、よく覚えていない。


朦朧とする意識の中、謎の潜水艇に乗り込み、見飽きた近衛隊の制服の人から手当(包帯を巻いただけ)を受けて、麻酔薬を処方された。

暫く眠っていると、気づけば海中に潜っていていたようで、朝日が海面から差し込んでいた。


一体どれくらい眠っていたんだと体を起こしたが、すぐに痛みでベッドに倒れ込んだ。僕の覚醒に気づいたアレックスが心配して駆け寄ってきた。大丈夫だとハンドサインを送っても、彼は僕のベッドの縁に手を置いて、大きなため息をついて言った。


「良かった...」


アナスタシアも僕のもとにやってきて、僕の手を取って呟いた。


「よく、生きていてくれました」


自分の身体の状態がよく分かっていなかったので、当時は皆して心配性だなぁとしか思っていなかったが、このときの僕の体は、いつ死んでもおかしくないようなボロボロ具合だったのだ。

怪我の治りきっていない所で、もう一度大きな爆風を食らったのだから、そりゃそうなる。


次にバグがやってきて、僕の前で少しため息をついて言った。彼女も彼女で顔以外には包帯や絆創膏を貼っている。


「明日香君。大丈夫だったかい?」

「博士...戦えないあなたが、なんで来たんですか?」

「一応アタシだって一端の諜報員なんだ。ほら、これ。さっきアレックスから許諾を貰ったから見せるけど、これは口外禁止だよ」


彼女はポケットから一枚のIDカードを出して僕に見せてきた。本名の部分は黒塗りになっていたが、確かにEVのカードだ。

バグは胸元にカードをしまい込んで僕の居るベッドにすがりついている二人を見下すような目つきのまま吐き捨てるように言った。


「この子たちは君が居なきゃやっていけないのかい?少しは教育したらどうだ」

「はは、善処しますけど、これも私の魅力うちの一つですから」

「そうかい。なら、生まれ持ったその美貌を大切にすることだ。次に無茶して戦ったら承知しないからね」

「はーい」


サクッとバグが僕がムルの体を借りていることを知っているか確認したが、どうやら知っていないようだ。二人が情報を隠してくれていて助かった。

できるだけこの事は隠しておかないと、どこから僕の情報が漏れるか、分かったものではない。


僕がベッドにすがりつくアレックスとアナスタシアを見ていると、今度は久保田がやってきて、僕に一枚の封筒を渡した。任務の封筒だ。重傷なのに全く容赦ないな、天菊は...


「これが次回の任務書や。次回はアフリカ、つまりアル・ハラータの内部での作戦や。ワイは別の任務やから、アフリカについたらそこでお別れや。せやさかいな、最後に話しときたい事があるんや」

「何?」


久保田はやけに心配そうな顔をして言った。


「あんたが日本に居た時、ワイになりきったスパイおったやろ?どうやって見破ったんや?顔も体格も一緒やってんけど。それに、当時ワイがどこにおるかなんて知らんやろ?」

「顔は結構違うような気がしたけど...まあ、一番は私のことを『日乃本の人ですよね』って言ったことだね。久保田さんは、本来そんな事は絶対に言わないでしょ?」

「まあ、せやけど...はぁ、さすがの観察眼ってとこやな」

「どうも」


久保田は鼻で笑って『ほんじゃ、また今度。生きてな』と気さくに言って部屋から出ていった。

潜水艇が浮上し、ハッチの開く音がした。

今回は遭難した人間という体で潜り込むのであろう。流石、もう役者だなと思っていると、今度は別の近衛隊の人間が入ってきた。片方は水原で、もうひとりは女性だった。


茶色の髪に、白い肌。黒い丸めをした女性だ。

その顔に、僕は見覚えが会った。


李慧琳リ・ヘリンだ。僕の探偵業において、一番の右腕となって一緒に推理を手伝ってくれた人だ。ちなみに水谷は主に情報収集担当で、アリバイ調査やその真偽まで確率で出してくれたので、毎回スムーズに推理が進んだのだ。


「はじめましテ、山雁サン」

「初めまして、えっと...李さん。活躍は久保田さんから聞いているよ。凄いんだってね。仲間として、期待しているよ」

「そうデスカ。それは良かったデス」


若干片言気味な所は治っていないのだなとか思いつつ、僕は彼女が僕の所までわざわざ来た理由を聞いた。

すると、彼女は悲しそうな顔になって言った。


「実ハ...前の上司だった山原サンという人ガ、亡くなってしまったんデス。朝鮮出身の私に、唯一優しくしてくれた人だったノニ、悔やまれマス。それで、転属先が中峰さんから、あなたへと移ったのデス」

「へぇ〜、そうなんだ。大変だったね」


わざと声のトーンを落として共感しているように見せかけた。彼女は暗い話をしてしまって申し訳ないと言って部屋から出ていってしまった。


彼女と入れ違うように水谷が入ってきて、彼は部屋に入るなり、僕に頭を下げて言った。


「申し訳ありません。僕がしっかりしていれば侵入者も見抜けたのですが......」

「ああ、良いって良いって、謝らないで。あれは同仕様もなかったから。それで、君はもう大丈夫なの?」

「はい。お陰様で。あ、そうだ。中峰少佐が話したいことがあるから、後ほど自分の部屋に来てくれと言っていました」

「ありがとね。もう外していいよ」

「はい。では失礼します」


終始悔しそうな顔をしながら水谷は部屋を出ていった。

全く、可哀想な男だな。


それにしても、こんな怪我人を呼び出すなんて、中峰もどうかしているが、まあ良いか。


僕はベッドからなんとか脱出してアレックスに支えられながら中峰の部屋まで向かった。

準国民身分証

名前:李慧琳リ・ヘリン

出身国:元大韓民国、現朝鮮共和国

前職:大韓民国国家情報院

身長・体重:160・48

年齢:27


お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『僕は悪い共同体じゃないよ』

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