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記録35:亜米利加合衆国

意識が回復してきた。耳には英語が飛び込んできている。まだ目を開けず、眠っているふりをしながら、記憶を整理した。


目を開けた。


「おい、起きたぞ。大佐、来てくれ」


フルフェイスヘルメットを被ったCode:Clawsの主力隊員とみられるサイボーグが後ろの陰に向かって、機械音声で言った。

一言、陰と言っても、僕の頭上にライトがあるせいで周りがよく見えていないだけで、その陰から一人の男が出てきた。彼はアナスタシアとの戦闘になった船で最初に僕に手鏡を見せてきた男だ。


「ああ、悪かったね。Mr.山原、自己紹介が遅れた。私はエドワード・ファリンドン。ファリンドンとでも呼んでくれ。一応CIAの海外サイボーグの調査が主任務なんだ。なぁに、君を殺そうというつもりは毛頭ないんだ。ただ、君には真実を知ってもらおうと思ってね。準備があるから、暫くは窮屈だがそこの隊員とでも談笑しておいてくれ。まあ、話が通じるかはわからないがな。ウーヴ、絶対に手を出すなよ?」

「承知いたしました」


彼はまた陰の中に行ってしまい、気づけば足音も消えてしまっていた。

二人共、暫く黙っていたが、急にウーヴと呼ばれた隊員が僕にぎこちなく話しかけてきた。


「貴女は、アイボーグなのですね?」

「ああ、そうさ。一応、右目だけだがな。それにしても、なんで私が拉致られるんだ?サイボーグならアレックスのほうが良かっただろうに...」


僕の言葉に、ウーヴは言った。


「日本のサイボーグは特殊ですから。貴女も知っているのではないですか?肉体に部品を貼り付けるアメリカ、肉体に部品をめり込ませる欧州、肉体を置換するロシア、そして魂に情報を刻む日本。今のところこの四つのタイプのサイボーグですけど、日本だけ少し異質なのは知っているでしょう?」

「それで、私を拉致したのかい?」

「そうなりますね。今までは近衛隊に全て阻止されてきましたから、今回は少しでも情報を得たいと思っての行動というのが司令部の意向でしょう、それに―――」

「ちょっと良いかい?」

「何でしょうか?」


僕は、初めて実物のCode:Clawsの隊員を前にして思ったことが一つある。

僕はその思いを隊員にぶつけた。


「思ってたより、喋るんだね。もっと機械的に人間を殺すことに特化した集団だと思ってたんだけど...」


僕の言葉に、隊員は少し笑ってヘルメットを脱いだ。

長い金髪と、凛々しい顔ががヘルメットの中から出てきた。まさかの女性だったようで、にっこり笑顔を浮かべたまま言った。


「私共も、一応は人間です。一部の感情は欠損している可能性が高いですが、大元が人間なので、そう大きな違いはありません。そうなってしまったのは、アメリカの情報秘匿の徹底と、他国の偏見でしょうね。大丈夫ですよ、Mr.山原。私共は貴女を殺そうとは一切考えていませんし、用が済んだらすぐに開放いたしますよ」

「それまでに、洗脳でもするんじゃないのか?」

「洗脳ではありません。ただ、事実を知ってもらいたいのです。先の大戦と、次の対戦に向けての、ですかね。貴女は、カリスの方舟という組織は...その顔なら、知っていますね。アメリカしか握っていない、あの方舟の情報をお知らせ致します。それ以外は、何もしませんよ。痛くもないですから、安心して下さい」

「ハッ。そうかい。そりゃ良かった。それで、あの男、ファリンドンはいつ戻ってくるんだ?」

「もうここに居るさ」

「うわっ!」


いつの間にか隣りにいたファリンドンに、少し情けない声をあげてしまい恥ずかしくなってしまったが、そんなことにも彼は一切構うこと無く、僕の拘束を解きはじめた。


「君には、一本のビデオを見てもらう。それで判断してくれ」

「何をさ」

「全てを」


縄をほどいてもらった瞬間に、ダメ元でファリンドンに襲いかかろうとしたが、ここはウーヴに止められてしまった。

こうでもしておかないと、僕の気が済まないのだ。敵勢力に拉致られ、これから洗脳されるってのにホイホイ相手に付いていくのは嫌なのである。


「さ、行きますよ、Mr.山原」


僕の両腕を背中に回し、異常なパワーで握っているウーヴに押されて僕は部屋を出た。

どうやら地下牢獄に一時的に収容されているようで、鉄扉の向こう側からは何かの這いずり回る音が聞こえてくる。窓はなく、薄暗い蛍光灯の光だけが廊下を照らしていて、黒ずんだ緑色の床の塗装に無機質なコンクリートの灰色は、妙にマッチしていた。


「ここだ。入りな、ウーヴも見張ってなさい。私は少し外に行っているから」

「承知いたしました。では、行きましょう」


僕は謎の部屋に押し込まれ、椅子に座らされた。そして電気が点けられた。


目の前には大きめのスクリーンにプロジェクターがあるだけの部屋だった。

それ以外はなにもない部屋で、ウーヴは僕が着席したのを確認したのと同時に一本のビデオを見せてくれた。どうやら第三次世界大戦のビデオのようだ。

映っているのは...天菊?


僕の横顔を見ながら、ウーヴが言った。


「今から、このフィルムを見てもらいます。これは真実ですが、疑ってくれても構いませんよ。結果は変わりませんから。全ては一点に収束するのですから...」


僕は彼女の言葉に適当に頷いてビデオをじっくりと見始めた。

特殊国民手帳

コードネーム:ウーヴ

身長・体重:166.6・59

所属:米海兵隊 特殊サイボーグ部隊 Code:Claws

血液型:B

出身:カリフォルニア州


お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『正しい記憶』

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