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記録20:早すぎた推理

ドエムスに事情を説明して、モスクワ郊外のダンスパーティ会場まで送ってもらった。

車で行けるところまで言ってから下車して、そこからはアナスタシアが委員会の手帳を見せて通してもらった。

事件現場周辺には重武装の兵士が何十人も並んでいて、厳戒態勢を敷いていた。現地のCIA職員と思われる人達が何やら影でコソコソと話し合っていたが、アナスタシアは構わず屋内に入っていった。


僕達が入っていくと、外で待機していた帝国保安部の職員たちも後を追って入ってきた。


「なにか手がかりが?」


保安部の一人がアナスタシアにそう言った。彼女は僕のことを紹介した。『稀代の天才探偵』として...

彼はすこぶる喜んでそのことを仲間に報告した。

そして、彼ら保安部は僕に言った。


「CIAが本格的に調査を始める前に終わらせて下さい。お願いします」


僕は、分かったと入ったものの、昨日アナスタシアからもらった情報じゃ少なすぎる。

僕は急いで事件のあった部屋の前まで急行した。


「ここです。まだ、遺体は中に」


保安部に釣れられて僕は扉を開けた。

強いアーモンド臭が鼻を突いて急いで伏せたが、よく考えればおかしいことに気がついた。窓は昨日アナスタシアが脱出したときに開けたままで、空気は完全に換気されているはずだ。

僕は一応ハンカチで鼻と口を覆って室内に入った。

皮膚にも異常はなかったのでハンカチを外し、遺体の口元の匂いを嗅いだ。


臭いはするものの、発生源はここからではない。

案の定、青酸カリによる毒殺ではないことが確定した。

あんな足のつく毒物、警備一人にも気づかれないようなプロの殺し屋なら、使うはずがない。

僕は遺体を弄っていると、一つ、重要なものがないことに気づいた。


「身分証がない...?保安部の人達、この人の身分証は回収しましたか?」

「いえ、我々は何も触れておりませんよ。情報ファイルと思しきものもないので、身分証も取られてしまったのでは?」


保安部の言葉に、僕はアナスタシアの方を向いた。彼女は首を振り、身分証までは盗んでいないと言った様子だ。なら、こいつは殺されたときに身分証を取られたと考えるのが筋だろう。

僕は他の人達に安全を知らせて部屋の捜査を託して外に出た。

それから監視カメラの位置を見せてもらって、暫く考えた。

部屋の周囲は完全にカメラに映る。

通るにはアナスタシアが通ってきた天井裏伝いしか方法はない。しかし天井裏はホコリが被っており、到底人が通った後は見受けられなかったという。


なら、おそらくこう考えるのが妥当だ。


「その死体、本物の陸軍大将じゃないだろ?」


僕は保安部の人に向かって言った。保安部の人は最初こそ取り繕おうとしていたものの、僕が黙って彼の顔をじっと見ていると、すぐにため息をついて言った。


「そうです。顔は似ていますが、大将ではありません。保安隊の調査でも分かるくらい雑な偽装工作です。恐らく、早急に解決すべき問題があるのだと思われるのですが...これ以上は貴方には話せないのです」


国家機密ギリギリまで迫ったのだと確信した僕は、ここでとっておきの秘策を披露することにした。一回使ったことがあるやつで、勿論君たちも知っていることだろう。


僕は保安部の方に向かって言った。


「鷲を貶したのは誰だ?」


その言葉を言った後に、一人の男の心拍が上昇したのが分かった。

そう、あの装置を使ったのだ。


僕は彼の胸ぐらをがっしりと掴んで言った。


「KNBかCIAか、どっちだ?」


僕の言葉に、その場にいた全員が凍りついた。中には拳銃を取り出そうとするものも居て、彼の次の言葉次第ではこの場にいる数人が死ぬ羽目になるだろう。

彼はため息をついて言った。


「降参だ。KNBだ。ほら、これが手帳だ」


彼から手帳を受け取ってパラパラとめくり中を確認した後、手帳をすぐに本人に返してやった。

彼は冷や汗をかいていて、僕が何も言わずに手帳を返すと落ち着いた様子で、ふうとため息をついた。


「安心するのはまだ早いよ。大将をどこにやったんだい?」


僕がそう聞くと、彼は一度ため息をついてから言った。心拍と呼吸はもとに戻っている。さすが、落ち着くのが速い。


「最高レベルの国家機密ですよ。貴女が何者かにもよりますが、自分をKNBの職員と見抜けたからには、相当な情報を持っている人なのでしょう?」


ここで本当のことを言えば負ける、そう直感的に感じた僕は機械のことについて話した。


「実は、私の体にはいくつかの機械を取り付けてあるんです。あ、サイボーグってわけじゃないんですけど、心拍とか、呼吸の速さとかを測るっていう外部装置を」


僕がそう言うと、保安部の人達は感心したような顔で僕を見つめた後、KNB職員をものすごい顔で睨みつけた。KNB職員は申し訳なく思うと言った素振りも一切見せずに言った。


「貴女は本当に探偵なのですね。なら、大将のことは秘密ですよ」

「あ、思い出しました。私、とある人から連絡を頼まれていて、ちょっと連絡しますね」


僕はスマホを取り出して、一か八かで天菊に電話してみた。数コールの後、天菊が電話に出てくれた。


『もしもし、なにか収穫が?』

「それよりも今は私に付き合って下さい。大将の居場所が掴めそうなんです」

『...わかったわ』


僕は電話を代わり、KNB職員に渡した。


「もしもし...え?ええ!?あ、ああ、はい。了解いたしました」


電話はすぐに終了し、KNB職員は僕にスマホを返しながら言った。


「貴女がすごい探偵だったことしかわかりませんでしたが、まあ良いでしょう。大将の居場所をお教えします」


彼は屋内に入ってしばらくすると、一枚の紙切れを持って僕に渡した。そこには住所だけが書かれていて、場所はサンクトペテルブルク近くの山小屋だった。


紙切れをポケットに押し込んで、僕はアナスタシアとアレックスに言った。


「じゃ、行こうか。アレックス、ドエムスさんを呼んで」

「了解だ」


それから保安部の方々に別れを告げて、僕達はKNB職員を半ば連行するような形で急行してくれたドエムスの車に押し込んだ。

そこから昼食を取りながら移動を続け、僕達は一旦サンクトペテルブルクのホテルに宿泊することにした。

KNB職員は途中で他のKNB職員が回収していった。



風呂から上がった僕は、大きすぎるため息をついてベッドに倒れ込んだ。

先に風呂から上がっていたアナスタシアが僕の隣りに座ってため息の理由を聞いた。僕は彼女の方を向いて言った。


「あのKNB職員、KNBじゃなくてCIAの方だったね」

「え?そうなんですか?」

「気づかなかったの?私が鷲を貶したのは誰だって聞いた時とか、手帳を確認したときとか、普通のKNBなら、あそこまで動揺しないはずだよ。あんなに動揺するってことは...」


僕はここで口を噤んだ。『僕達が国家近衛隊の差し金ってことを知ってるんだろう』なんて、アナスタシアの前では言えない。彼女はまだ僕達が何者かも知らないのだ。多分本当に探偵だと思っている。彼女は不思議そうな顔で首を傾げていたので、僕は急いで取り繕うために言った。


「ま、いいさ。アナスタシア。明日は多分戦闘になるはずだから、よろしくね」

「はい。私の銃が光りますね」


喜んでいるアナスタシアを横目に、僕は壁に耳をくっつけて隣の部屋の会話を盗み聞きした。安いホテルで壁が薄いので、声がよく通っている。隣にはドエムスとアレックスがいて、恐らく酒を飲んで談笑でもしているのだろう。

僕はあっちに混ざりたいとは思わないが、かと言ってアナスタシアともう一度同じ部屋で寝たいとも思わない。しかし、このホテル代もドエムスの奢りなのでグチグチ文句も言ってられない。


僕がベッドに入り、布団をガバっとかぶると、ベッドが二つあるのにもかかわらずアナスタシアが同衾せんとばかりに僕の布団に突入してきた。

力で追い出そうとしても、向こうのほうが強いので、押し負けて結局昨日の二の舞いになった。


そして、寝付けないのだ。

隣がムルなら寝付けるのだけれど、アナスタシアとなると話が変わる。いつ暗殺するかも分からないような人と一緒に寝るなど、恐怖そのものだ。


僕は、苦し紛れに彼女に言った。


「どうして暗殺業を?君のその容姿なら、女優業だってできたはずだ」


僕の言葉に、顔所の顔が少し曇った。


「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。私だって、言いたくないことがたくさんあるからね」

「いえ、大丈夫です。これで貴方との仲が縮まることを願って話しますよ」


そう言って、彼女は昔のことを話しだした。

お読み頂きありがとう御座いました。次回(アナスタシア回)もこうご期待!


次回『雪の降った日』

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