記録15:真相解明
国家解説 アメリカ合衆国
この世界でのアメリカも、史実と同じように非常に強力な軍事力を持っており、研究速度も世界一の軍事大国である。第三次世界大戦で、日本に対してろくに支援しなかったせいで日本の民主制が倒れたと批判されて権威を低下させた。それに伴って、アメリカの支配を終わらせると声を上げたヨーロッパが一斉にNATOを離脱してEVを作ったことで、実質的にアメリカは孤立してしまった。
しかし、それでもアメリカの力は依然として強大で、世界最大の諜報組織であるCIAを駆使して、主要国に潜り込ませて、暗殺、謀略、テロなどが入り乱れる冷戦を展開している。
海兵隊ではサイボーグ部隊がいくつも編成され、どれも敵地上陸に適した編成なっている。
僕達の入った部屋は、大量の書類が置いてあった。
そこには、いろんな人の名前とその名前に、赤い線が引かれているという書類だった。
パラパラとめくっていくと、一枚だけ中国語の書かれた命令書があり、そこには【殺害リスト】と言う題名に、雑な手順が書かれていた。
その書類の中で、ひときわ赤い線が多かった紙には、最近変死した著名人や活動家、近衛隊職員の名前と、僕の名前と、ムルの名前、それからハルの名前があった。ハルとムルの名前は彼らも掴んでいなかったようで、偽名で書かれていた。
しかし、僕とムルの名前には赤い線が引かれておらず、逆にハルの名前に赤い線が引かれていた。
多分、どう転んでも中国の仕業ではないと分かったものの、どこかの組織がこれだけの人間の命を狙っていることは確かだ。
こんな書類、近衛隊の他の人間には預けられないだろう。
アレックスに一旦退出してもらって、近くに置いてあったアタッシュケースに書類をすべて詰め込んだ。
しかし、ここで一つの疑問が出てきた。
あれだけ時間稼ぎしておきながら、何故書類を処分しなかったのだろうか?
考えた僕は、ゴミ箱を開けた。
とんでもない異臭が鼻を突いて、暫く口を抑えた。
落ち着いてから、もう一度箱の中身を見た。
ぐちゃぐちゃにされた紙くずが、多分一枚分、ゴミ箱の中に放置されていた。
紙だけを選んでケースに入れて、別の部屋にあったありったけの香水を自分とケースにかけてから、私達は事務所に帰った。
◆
「にしても...ひでぇ匂いだな」
顔を曇らせるアレックスを前に、僕はガスマスクを付けて書類の復元を行っていた。
幸いにもゴミが乾燥していたものばかりだったので復元は容易だった。
ビリビリに破かれた紙を、裏側からテープで貼り付けて修復すること数時間。
アレックスはもう眠ってしまったが、ついに全文が読めるようになった。
言語は英語で、こう書かれていた。
内容はこうだ。
【Operation JAP extermination(ジャップ殲滅作戦)】
(以下、日本語表記とする。■の表記は意図的に元から抹消されていると推測された)
今作戦は秘密作戦とし、いかなる情報の流出も禁じる。もしもこれに違反すれば、違反者は処刑される。
作戦意義
我が合衆国の威光を再び取り戻すため、作戦のNo.■■段階として、同盟関係を一方的に放棄した近衛隊政府下で民間による暴動を起こし、その隙に米国の特殊部隊が近衛隊の高官を殲滅する■■■■■■作戦の足がかりとして実施される。
作戦概要
近衛隊の本拠地のある日乃本は山に囲まれ、対空ミサイルも多数存在するので、航空戦力による破壊は難しく、陸上からの破壊も常識的ではない。
なので、今作戦では内部から破壊すると見せかけ、その隙に内部から、先に潜入している米国の特殊部隊が破壊するという作戦である。
近衛隊関係者を処分することで近衛隊内部の不安を煽り、対外政策の速度の失速を図るとともに、貿易回数を減少させ産業的な停滞をもたらす。
民衆の不安が爆発した所で次のフェーズへと作戦が移行する。
CIA対日情報部・アメリカ陸軍大将■■■■■■・■■■■
「ざっとこんなもんかな」
僕がすべての文書の翻訳を終えて、その文書を別の紙に書き写した頃には、もう時計は夜中の一時を回っていた。それにしても、流石ムルの体だ。夜中まで起きていても、疲労の一つすら感じない。若いからというのもあるだろうが、元殺し屋だから、睡眠時間は短めだったのだろう。
しかし、ムルの体に悪いので、僕は早々に眠ることにした。
寝室まで行くと、アレックスがベッドに寝転んで眠っていた。
男の人とは思えないような可愛い寝顔で、思わず隣に入ってしまった。
アレックスが先に入っていたお陰で布団はよく温められていて、僕はすぐにウトウトとしてきた。
今にも寝そうだと思った時、アレックスが姿勢を変えて、僕の体に腕を回して抱きつくような形になった。
逃げ出そうとしたが、自分から入った手前、彼を起こすのも悪いので、僕はそのまま眠りについた。
◆
目が醒めた。体感では丸一日眠ったかのような満足感があったが、実際時計を見てみると、まだ午前六時だった。もう一度寝ようにも寝れないので、起きることにした。
アレックスの腕はもう僕を拘束していなかったので、僕は静かにベッドから降りて、着替えた。
昨日シャワーを浴びていなかったことに気づき、ササッとシャワーを浴びた。
実は、できるだけ彼女の体は見ないように体も洗っているので、少し時間がかかる。
着替え終わった頃にはもう七時で、僕は冷蔵庫に入れてあった食パンを取り出して焼いた。
その間にアレックスを起こして、着替えさせた。
二人で焼き上がった食パンを食べていると、インターホンが鳴り、僕が出ていくと、そこには天菊がいた。
僕はドアホン越しで彼女に話しかけた。
「おはよう御座います、天菊さん」
「おはよう。今日は仕事が休みだから、私も君と一緒に朝食をと思って。いいかい?」
「アレックスがいますけど...いいですよ」
「ありがとう」
僕が扉を開けると、彼女は女性らしい服を着ていた。僕が彼女に見とれていると、彼女はフフッと笑って事務所の中に入っていった。
「初めましてかな?アレクサンダー・ハインリッヒさん」
彼女が挨拶をすると、アレックスは、わざとかしこまった表情になって言った。
「はい!初めまして!天菊桜第一戦闘群長殿!」
僕も彼女も苦笑いを浮かべて、食卓についた。実は、彼女は時々こうして僕の事務所にやってきては食事を摂ることが少なからずあったのだ。
三人で食事を食べていると、急に天菊は僕を見て言った。
「ねえ山雁さん。昨日、とある施設から文書を、無断で持ち出したって聞いたのだけれど、どういうことかしら」
彼女の言葉に、部屋の空気が凍りついた。アレックスは食べる手を止めて彼女の方を睨んだ。
僕は何も答えられず、ただ頷くしかなかった。
「命令の守秘義務の徹底は分かるけど、どんな文書なのか、私に見せてもらえない?」
「...まあ、天菊さんなら、良いでしょう。しかし、この事は口外禁止ですよ」
「勿論。私とて、近衛隊の一隊員ですから、規律には従います」
そして、僕は彼女の前に、ありったけの香水をかけたはずのとても臭い修復済みの文書と、その翻訳バージョンの紙を見せた。
彼女は少し顔を歪めたが、それを手にとってじっくりと読んだ。
暫く、空気は張り詰めたままで、彼女の表情が緩み、ため息が出たと同時にその空気は下の朝食の空気に戻った。
「まあ、たしかにこんな大切な情報なら、疑り深い君なら絶対に信用できない近衛隊の一兵卒には預けないわね。でも、次からはちょっとは連絡してよ?私の部隊もこの近辺に待機させてるんだから」
彼女はそう言って僕から臭い文書さけを取り上げて、貰っていくわと言って急いで食パンを食べて出ていった。アレックスは彼女が出ていったら、すぐに扉の方に中指を立てた。
僕はその中指を折りたたんで、彼に朝食を早く取ってしまうように促し、そのままいつもの日常に戻っていった。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『欧米か!』




