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第22話 手紙

 アデレードは自室の机に向かい、白い紙を見つめている。手紙を書こうと思ってのことだったが、何を書いて良いものか分からない。

 手紙の宛先は両親。昨日、市で紙を買ったのもこの為だった。山で自殺を思い止まって以来、一通も書いていない。

 メグの家族を見て自分の家族のことを思い出したこともあって、今日ペンを取ったのだった。

 酷い別れ方だったが、今でも時折以前の生活を夢に見ることがある。豪華な屋敷、華やかな夜会、咲き乱れる庭の花々、友達とのおしゃべり、麗しい王子、そして家族。今の生活には何一つないもの。


 だけど、何と書いたら良いかしら……。

 愛するお父様、お母様。アデレードは元気でやっています……何だか違うわね。何とか暮らしています……これも違う気がするわ。楽しく? 静かに? これ以上迷惑を掛けないように?


 アデレードは隣でこちらを不思議そうに見つめているディマに視線を送る。愛犬の首には先日買った黒い革の首輪が誇らしげに下がっていた。


 ディマを飼い始めました……うーん、違うわね。


 ペンを持ったまま、アデレードは考え込む。


 今更、体裁を繕おうたって意味のないことですわね。今まで散々恨み言、泣き言を伝える手紙を送ってきたのですもの。不格好でも素直に今の気持ちを書きましょう。


 そう決意を決めて、真っ白な紙にアデレードは文字を綴り始めた。


 ”愛するお父様、お母様へ……”




 アデレードは手紙を書き終え、安堵の溜め息を吐く。


「書いて送ったとて読んでもらえるかは分かりませんけど……」


 封を切る前に捨てられるかもしれないし、読んでもこの前のように金貨が返ってくるだけかもしれないし、そもそも返事すら来ないかもしれない。

 今の自分の状況や心情を知って欲しいと思うのは、そもそもアデレードの勝手であって、向こうは迷惑と思っている可能性すらある。


 むしろ、その可能性の方が高いのかもしれないわ。


「それでも、私お父様とお母様に感謝しているわ。生んでくれて育ててくれて、そのことは伝わると良いけど……両親にとっては不肖の娘だから、難しいかもしれませんわね」


 アデレードが自嘲的に呟く。その様子を察したように、ディマが体を彼女の足に擦り付ける。


「ありがとう、ディマ。大丈夫、私はここで生きていくわ。私は私の出来ることを考えなくちゃ」


 彼女がディマの背を優しく撫でると、愛犬は気持ち良さそうに目を細める。


 寂しくないか、と問われれば、何とも言えない。けれど、失ったものの代わりにたくさんのものを得た。ささやかな家、静かな夜、雄大な自然、親切で楽しい村のみんな、メイドのメグ、愛犬のディマ、そして……。


 アデレードは外を見た。山々は既に中腹まで白く化粧している。もうすぐここにも雪が降るだろう。



第2章はこれでとりあえず締めです。


ブクマと評価頂いる皆さん、ありがとうございます!

とても心強い励みになっております。

これからも連載にお付き合い下さいませ。

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