第20話 伯爵と買い物
「伯爵もお買い物に?」
「いや、様子を見に来ただけだ」
2人は市の中を並んで歩く。伯爵に気が付いた領民達が頭を下げたり、挨拶の為に声を掛けたりしている姿を見ると彼が慕われているのが良く分かった。カールも人々が生き生きとしている姿を見るのは楽しいようで、目を細めている。
「必要なものは大体屋敷に届けられるからな」
「まぁ、そうでしたわね」
アデレードがカールの顔をじーと見る。
「どうした、フロイライン・アデレード?」
「まさか、伯爵もお買い物の仕方がお分かりにならないとか……」
「……何を言っているんだ君は」
彼女の言にカールは困惑の表情を浮かべる。アデレードは彼にメグと買い物の練習をした経緯を話した。
あぁ、フロイライン・アデレードは生粋のお嬢様だったな。ちゃんと買い物出来るのだろうか? 不要な物まで買わされないと良いが……。
一抹の疑念を抱き、カールはアデレードに尋ねた。
「そのメグはどうしたんだ?」
「冬に備えて必要な物を買ってくれていますの。私は私の必要な物を買うのです。ちゃんと練習したから大丈夫ですわ」
……大丈夫か?
先ほどちゃんと買えたことに気を良くし自信あり気なアデレードとは対照的に不安を覚えたカールは、彼女の買い物に付いていくことにした。
「それで何を買う予定なんだ?」
「えーと防寒用の手袋とかブーツとか羽織とか。あ、でも毛糸を自分で買って編む方が安上りって、メグは言ってましたわ」
「……ちなみに、編んだことは?」
答えは分かり切っていたが、カールは一応聞いてみた。
「この冬の間にやってみよう、と話していたところですの」
嬉しそうに答えるアデレードにより不安が増すカール。
「何事も挑戦してみるのは良いと思うが、今年はとりあえず、参考に買ってみてはどうかな?」
「それもそうですわね」
アデレードが興味津々で出店を覗き込んでいる様子は実に普通の女の子らしい。羊毛製品が並んでいる店を見つけ、彼女が手袋を選んでいる。
「おや、若い夫婦さんだね。安くしとくから、旦那さんに買ってもらいなよ」
店主の妙齢の女性がアデレードに笑い掛ける。
「えっ!?」
その言葉にアデレードの顔が真っ赤になる。
他の人からはそんな風に見えているのかしら……。いえ、きっと男女が並んで歩いていたから、そう言われるだけですわ。私なんて……伯爵と似合う訳ないのに。
「いえ、その、この方は違いますわっ」
「おや、まだ結婚してないのかい?」
アデレードの照れと焦りをそう勘違いする店主。
「ですから……そういう訳では……」
「強面の兄ちゃん、可愛い恋人に買ってあげなよ」
「……分かった」
「伯爵っ、そんな」
「まぁ、良いさ」
恐縮するアデレードにカールは少し笑った。
結局カールによってアデレードが欲しいと思っていた防寒具は全て揃ってしまった。
「すみません、伯爵。ちゃんと代金は払いますわ」
「別に気にすることはない」
「ですが……私、伯爵にも村の皆さんにもしてもらってばかりで、何もお返しするのもがありませんわ」
アデレードは眉尻を下げ困った顔を向ける。
「フロイライン……」
「おや、お二人さん、仲良くデートですか?」
ラシッド医師が2人の姿を見つけ、朗らかに声を掛けてきた。
「先生……」
カールはやや呆れ、アデレードは再び顔を赤らめた。
「もうっ先生まで、変なことを言わないで下さいまし」
「そうですか? お似合いですよ」
とぼけた口調でラシッドが黒い目を細めて笑う。
「揶揄うのは止してくれ。先生も買い物か?」
「えぇ。紙やら布やらね。細々と入り用ですから」
「紙? 紙も売ってますの?」
アデレードが意外な物を見る眼でラシッドの持っていた紙の束を見つめる。
「えぇ。あちらの雑貨の出店でインクなんかも扱ってますよ」
「……では、私も少し買っていこうかしら」
少し考えアデレードは紙とインクを買うことに決めた。
「では、私はこれで。あとは果物でも買って帰りましょうかね」




