表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/74

√真実 -009 推測



「二学期の時間割表を受け取ったら、直ぐに体育館に移動な」


 真実と光輝が教室に戻った頃には既に一時間目が終わろうとしていた。間もなく担任の尾桟(おたな)もプリントを手に戻ってきたので直ぐ様真実が囲まれる事はなかったが、その様子から後で追求されるのは目に見えていた。

 しかしそれとは別に、尾桟の様子にクラスメイトたちは首を傾げた。


「何か先生、落ち込んでない?」

おっさん(尾桟)、何かあったんかな?」

「夏休みボケじゃね? だらしねーな」


 明らかに覇気のない尾桟。俯きかげんで何度も溜め息を吐いていれば誰だってそれに気が付くが、誰もその理由までは分からない。

 その実、生徒たちからだけでなく教師たちからも絶大な人気を誇る、普段は温厚な美鈴が自分たちに牙を剥いたのだ。更に言えば、一方的にではあるが美鈴へ密かに恋心を抱く教師も少なくはなく、三十代の尾桟もその内の一人だった。そんな美鈴に直接ダメ出しをされたのだ、そのショックたるや……


「尾桟先生、提出物は何人か出さなかったのがいるのと、あと飛弾と黒生からがまだです」

「あ? ああ、そうか。麻野も多鍋も、ご苦労だったな」

「尾桟先生? 体調が優れないんですか? 保健室に行った方が……」

「保健……室? いや、良い。何でもないんだ。お前らも体育館に行け」

「でも、この提出物の量じゃ一人ではとても……」


 クラス級長の克俊と副級長の幸紀に心配されるが、尾桟は移動を促した。だが宿題などの提出物の山を前に、克俊が一人での運搬は無理だと指摘する。

 するとそこに自分の提出物を抱えた真実と光輝が。


「なら俺が手伝うよ。この後、直接体育館に行くと何だかんだで煩そうだし」

「……ウチも手伝う」


 後ろのクラスメイトたちをチラリと見て名乗り出る真実と光輝。

 確かに皆の興味は呼び出しから戻った真実と光輝に向いているので、出来るだけ離れていたいのが本音だ。


「なら、オレも手伝おうか? 先生と三人でも難しいだろ」


 そこに名乗り出たのは智樹だ。光輝を含めた三人では難しいだろうが、男手が三人いれば何とかなる量だ。だが、それに異を唱えたのは克俊だ。


「それなら手伝うのは僕が適任だろ、秦石」

「いや、麻野はみんなを体育館に先導しないとだろ。特に祐二がいるしな」




 結局、松葉杖の祐二を華子一人に任せる訳にはいかないと納得した克俊は残り、真実と光輝、智樹の三人が提出物を運ぶ事になった。勿論、華子は祐二の付き添い、綾乃は面倒だからと体育館に向かって行った。


「で? 夜祭りの話だけじゃなかったみたいだけど、どうだったんだ?」


 崩れない範囲でたんまりとノートの山を持った智樹が、同じくノート山盛りの真実に問い掛ける。


「あ~、ちょっとな。昨日の朝の事を誰かに見られてたらしいんだ」

「昨日の朝って、二人で帰るところをか?」

「うん、そう。で、如何わしいところに行っていたんじゃないのかって……」


 チラリと前をトボトボと歩く尾桟に目を向ける真実に、智樹は何を問い詰められていたのかを悟って深く溜め息を吐いた。


「なあ、尾桟先生。そんな疑い、普段と変わらない二人を見れば直ぐに疑いは晴れるだろ」

「普段と? いや、夏休み前と比べても然程日にも焼けてないし変わった様子は……」


 立ち止まって半身になる尾桟。どうやら見た目だけで判断しているようだが、智樹はそれを否定する。


「いや、見た目じゃない。因みに真実は以前と大して変わらないけど、黒生は三日前と比べても少しだけ変わったみたいだ」

「……三日前? 何で秦石が三日前の黒生を知っているんだ?」


 首を傾げる尾桟だが、どうやらピンと来てないようだ。


「そりゃ毎日のように一緒に勉強してたからな。昨日と一昨日の事はまだ殆ど話は聞いてないけど、何かあればその変化くらいは分かるくらいには二人の事を見てたしな」

「な、なに!? 毎日一緒に勉強を!? ああ、そうか。宿題の追い込みをしてたんだな?」

「いや、宿題は入院して遅れてた真実でも、一週間くらい前に終わらせてたな」

「!!!?」


 中学生なら夏休みに人が集まれば遊び倒すものだと思い込んでいた尾桟は、驚きのあまり声を失った。


「別におかしな事でもないだろ。そもそもおっさん(尾桟)が言い出したんだぞ?」

「何? 言い出したって、何を?」

「何って…… 忘れたのか? 修学旅行の班のメンバーで仲良くしておけよって、班決めの後に言ってたじゃんか」

「そんな事を言ったか? って、そういや言ったような気もするな」


 智樹の砕けた口調による突っ込みに、尾桟もさっきまでの落ち込んでいた表情を幾分か取り戻していた。

 智樹は一年の時も担任が尾桟だった。加えて言えば、その時にクラスの級長を勤めていた。複数の小学校から集まった纏まりのなかったクラスをうまく纏め上げたので、助けられた尾桟からの信頼は厚い。

 そんな智樹が一緒だったと言われれば信用せざるを得ない。


「じゃあ、この三人で勉強をしていたのか?」

「いや、あと祐二と和多野、それに智下の六人だな。まあ、祐二と和多野は祐二の足の怪我があったから毎日じゃあなかったけど……」

「ああ、布田か。陸上大会で怪我をして、この前手術をしたとは聞いている。もう暫くは松葉杖らしいな」

「その祐二の方が真実よりも危なっかしいんだけどな。ま、あいつの家は誰かしら人がいるし、邪魔が必ず入るから心配はいらないけどな」

「何? それはどういう意味だ?」


 祐二は真実の家での勉強会を、足が悪いからという理由で参加せず、自分の部屋で勉強をしていた。

 だが、それは一人ではない。当然のように華子が毎日祐二の補助を名目に入り浸っていたのだ。もう真実たちには二人は付き合っているのはバレバレだったが、恐らく学校の者たちの大半は今もそれに気付いてないだろう。


「いや、祐二の事は今のところそんなに心配しなくても良いんじゃないかな」


 キス止まりだろうし、と心の中で答えた智樹は他の爆弾を投下する。


「ま、問題になりそうなのは他にいるしな。知ってるか? 夏休み中に無断外泊しまくっていたっぽい馬鹿どもがいるのを」


 外泊は外泊でも真実は仕方なくだし、家に電話して父の総司に了承を得ていた。

 対して智樹が言った者は何日も無断での外泊だったと言うのだ。


「ま、確定じゃあないけどな。別々の日に深夜まで遊び歩いているのを見掛けたって言う奴が結構いるんだわ。それも翌朝まで、な」


 陸上部だった連中は早朝の涼しい時間にジョギングしてた者も多いし、夜遅くに親と旅行から帰ってくる者もいる。そういう情報はスマホを持っている智樹に直ぐに集まっていた。その情報を総合すれば、答えは直ぐに出る。

 しかし、安易にはそれを披露する智樹ではない。


「それは本当なのか? 一体誰なんだ?」

「いや、これはオレが見た訳でも確定情報でもない、単なるオレの推測だから言う気はないぞ? 気にるのなら自分たちで調べろよ」


 次は不確かな情報に踊らされないようにな、と付け加える智樹に、真実と光輝をチラリと見た尾桟は溜め息を吐いて、そうだなと呟いた後、再び職員室へと足を向けるのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ